値上げを消化する価格転嫁が困難 – やまもといちろう

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 週末は、リサイクル業界と鉄鋼・素材業界との企業ウェブセミナーに連続で登壇してきました。ダブルヘッダーは疲れた。

 ウェビナーとはいえ、さすがに視聴数2,000とかいうコンサートホール級の人数を前にすると、何をどの順番でお話ししようか悩みます。

 話の八割はインフレ対策と輸出入モノ詰まりで終わってしまうのですが、需要家側ができることはタカが知れているので待っているしかない、政府は何もできないししてくれない、というパネルの話が「俺たち経営陣の問題じゃないぞ」というニュアンスさえも感じさせてなかなか良かったです。実際そうだしね。

 産業構造の転換に業界としてどう取り組むか、というのはリサイクルも素材も重要課題なのですが、単に生産性と人手不足を勘案しながら組織的に最適解をと業界が叫んでも、上流が詰まってしまうとこれまた自助努力でどうにかなる幅が少なくなります。相場的なボラティリティが、というご質問もでましたが、今回は「ボラ以前にモノがない」状態で、木くずから半導体まで総じてモノが届かない状態で事業をどう維持するのといっても、商売にならないからどうしようもないんですよ。

 事業側の登壇者からも、モノが動かない以上、どうにかしてメンテナンス分野を拡充して足で稼ぐしかないというお話もありましたが、企業物価のインフレへの対処は企業側は需要があるからこそ値段が上がるためどうしようもなく、やるならば上流に手を突っ込むしかなくなります。でも、ウッドショックもそうでしたがカナダなり北米西海岸の物流拠点にモノが滞留しているけどコンテナが上げられないとかいう状況ですと、カネでどうにかなるものでもないし、上流に投資だといってもモノが流れてくる保証もなく手出しできません。

 手詰まりだよなあというのが正直なところですが、それでも日々の売り上げをどうにかたたき出さないと事業が死んでしまいますので、結局はエンドユーザーに負担をお願いする形での値上げしかないですねということになります。

 しかも恐ろしいことに、これらの施策はすべて、「需要があってモノが旺盛に流れていて繁盛しているから値上がりしている」のではなく「需要はあってもモノが流れず希少になっているので売上は増えないけど値上がりしている」ので、値上げを消化するような賃上げや価格転嫁が困難なんですよ。みんな騒いでいるのはそこだと思います。先に企業物価がどーんと上がってきたので、まずは企業努力はするけれど、利益はがりがり削れていくことになり身動きが取れないというのは全員の共通認識だろうと思います。

 保険の話も出ましたが、人とセットでモノを出す仕組みが成立しない限りはどうにもならないでしょう。夏ごろをすぎないと、需要家としても改善は期待できないということで寝ている以外方法がないのが実際です。どうであれ、みんな困っているけど、その困っている理由が「自分たちの力ではどうにもならない問題に直面していて、なお半年以上解決までに時間がかかりそうだ」ということで、みんなで仲良く途方に暮れようということでおしまいなのかなと思います。

 尿素水に関しても、鉄鉱石も屑鉄リサイクルもまあ似たような事業環境で、手詰まりだよなということが再確認できただけ、大変有意義な一日でした。

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