「暗号化によるプライバシー保護は小児性愛者の保護につながる」と主張して暗号化メッセージングアプリの廃止を促す動画キャンペーンをイギリス政府が展開

GIGAZINE



イギリス政府が、メッセージングアプリにおけるエンド・ツー・エンドの暗号化(E2EE)に対するネガティブキャンペーン「No Place To Hide」を展開しています。このキャンペーンの目的は「児童の性的虐待を防ぐため、E2EEに対する社会的支持をより広範な戦略の一環として破壊すること」と設定されています。

No Place to Hide
https://noplacetohide.org.uk/

UK.gov’s No Place To Hide campaign flops on launch • The Register
https://www.theregister.com/2022/01/20/no_place_hide_campaign_anti_e2ee_ukgov/

No Place To Hideはイギリスの児童虐待防止団体であるBarnardo’sとイギリス内務省によって展開されるキャンペーンで、以下の動画が公開されています。


「Alex」を名乗る男性が、「君のプロフィールを見たよ」「君の写真が好き」「今日は何してるの?」「もっと写真送ってよ」などと、メッセージングアプリで話しかけてきます。


こうしたやり取りはE2EEによってすべて暗号化されているため、自分と相手以外からは内容が読めないようになっています。


「Alexは児童性愛者です。児童性愛者は子どもたちを標的にするためにソーシャルメディアプラットフォームを使います」


「確かにソーシャルメディア企業はオンライン上の児童性愛者を特定可能で、法執行機関に通報しています。しかし、一部の企業はE2EEを導入しており、児童性愛者の通報を困難にしています」


「E2EEはメッセージを解読困難なものにするため、内容は送信者と受信者にしか把握できません」


「E2EEが採用された場合、オンライン上で児童性的虐待と疑われる事例が年間約1400万件も報告されないままになる可能性があります」


しかし、「E2EEによるプライバシー保護は小児性愛者のためにある」とするNo Place To Hideの主張に対して、反論も挙がっています。匿名通信プロトコルであるTorを開発するTor Projectは「No Place To Hideは、オンラインにおける強力なプライバシーとセキュリティは『悪いこと』であると示唆しており、一般の人々に誤解を与えようとしています」と批判しました。

The new government funded campaign in the UK, ‘#NoPlaceToHide‘ is attempting to mislead the public about end-to-end encryption by suggesting strong privacy and security online is a _bad thing_.https://t.co/GBQwy96Sg3

— The Tor Project (@torproject)

反対する者の中には、No Place To Hideの展開を阻止するために、公式サイトに似たドメイン「noplacetohide.uk」を購入した者も登場。このドメインにアクセスすると、FacebookメッセンジャーのE2EE化やTorの研究で知られるアレック・ミュフェット氏のブログ記事「There are more and better ways to help kids, without destroying the future of internet privacy(インターネット・プライバシーの未来を破壊することなく、子どもたちを支援するためのより良い方法は多く存在する)」にリダイレクトされます。


IT系ニュースサイトのThe Registerは、イギリス政府による「小児性愛者はE2EEによって保護されている」という主張は認めた上で、「E2EEにはそれ以上の効果がある」と述べ、No Place To Hideが意図的に情報を省略していると批判しています。E2EEは、悪意のある人が個人情報を探し回ることから守ってくれているばかりではなく、税金の支払いについて税務署と行うやりとりなどもE2EEで保護されていると、The Registerは指摘しています。

The Registerは「小児性愛者が保護されているのは、E2EEの望めない副産物ではあるのは事実です。しかし、不十分な例えですが、毎年何千人もの人が交通事故で亡くなっていることを受けて、『交通事故死を防ぐために道路を閉鎖すべきだ』と主張する人はいません」とコメントしています。

さらにThe Registerは、No Place To Hideを展開して警察の仕事を減らすために50万ポンド(約7700万円)の予算をつぎ込むよりは、「ソーシャルメディアの使い方を子どもにどうやって教えるのか」「見知らぬ大人が突然オンライン上で馴れ馴れしく話しかけてきた時は誰に相談するべきか」などを世間に向けて啓発する活動に使う方がよっぽどいいと主張しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source