風が吹いた朝に、洗っていいとも
「風が吹いた朝に」という店名のコインランドリーを見かけた。最近はコインランドリーが増えているというが、店名をひねる流れも来ているのだろうか。調べてみた。
ふと店名が目についた
近所を散歩していると「風が吹いた朝に」という店の看板が目に入った。少しひねった店名である。高級食パンの店でもできたのかと思ったが、よく見るとコインランドリーだった。
ひねった店名の流れが、もしかしてコインランドリーにも来ているのだろうか。このところコインランドリーは店の数が急増しているらしく、そのあたりも関係しているかもしれない。調べてみることにした。
まずはふつうのやつを
調べたところ、やはり店名を工夫しようとする流れはあるように見える。なのだが、まずは普通ってこうだよねというところを確認しておきたい。
「洗う! 乾かす! コインランドリー」。
こういうお店よくあると思う。「洗う!」「乾かす!」と勢いはあるが、よく考えるとコインランドリーの機能そのままだ。それをまっすぐ説明している。
周囲を見ると銭湯に付属していることが分かる。これがいままでの普通だったと思う。
インスパイア系
いろいろ見てみたところ、コインランドリーの店名にはいくつかの系統があるように思われた。まずはインスパイア系から紹介したい。
「俺のランドリー」である。
俺の、とくれば「俺のフレンチ」や「俺のイタリアン」といったお店を連想するが、それとはとくに関係はないようだ。おそらくそれをリスペクトしたものだろう。
なんにしろ、「俺の」という語感は業種を問わず面白いということが分かる。阿部寛が白いシャツを寡黙に洗ってそうなイメージ。
そして「洗っていいとも」。
間違いなくかつてのお昼の番組から取られているのだろう。わざわざお店やってるのだから「いいとも」と言わなくても洗っていいに決まっているのだ。
ロゴが爽やかさに寄せているのも面白い。お昼の番組ぽさはない。
文章系
高級食パン店の流れに少し近い、文章っぽい店名もある。
「晴れのち晴れ」。まっすぐに洗濯を連想させる爽やかな店名だ。
入口周辺はこんな感じでひたすらかわいい。晴れの象徴、てるてる坊主もいる。
中にお邪魔すると、絵本のコーナーもあった。小さな子どもを連れた親が来ることも想定しているのだろう。そばには「どうぞのいす」と椅子があり、座れるようになっていた。同名の絵本からとったものだろう。とても優しさに溢れた話なのだ。その椅子を見た瞬間、このお店の人はいい人だと決めてかかった。
冒頭でも紹介した「風が吹いた朝に」。
情緒に訴える店名で、爽やかというほかない。中には洗濯機と乾燥機があり24時間営業しているので、実際には風が吹いた朝だけなく、雨の降る夜に来てもいいのである。
アサショウという会社の資料での調査によると、コインランドリー利用目的で最も多いのは「乾燥機が便利だから」というものだったそうだ。するとむしろ乾きが悪い雨の日こそコインランドリーを利用するという方もいるかもしれない。「じとじとした昼に」である。
ダジャレ系
「コインランドリー センタッキー」。
洗濯機、のシャレだと思うが、可愛らしさもある。
中は上下二段式の洗濯機と乾燥機があり、これが北欧のスウェーデン製のものだそうだ。洗濯が終わるまでの間くつろぐためのスペースには机と椅子があるのだが、これも北欧に寄せたもののようで、全体として北欧がテーマになっているようだ。
なるほどいまどきコインランドリーにもテーマ性があるのだなと学んだ。ただ「センタッキー」だと少し北米のフライドチキンっぽい感じもする。
擬音系
ジャブジャブ、グルグル、モコモコのような擬音を採用したものも多いようだ。親しみやすさを狙ってのものだろうか。
写真にあるFUWATTの看板は、冒頭の銭湯併設のものと比べて間違いなく洗練されている。ただよく見ると、左脇のノボリには「洗って乾かす!」と書かれており、ノリ自体は変わっていないことが分かる。やはり機能は大事なのだ。
併設系
「LAUNDRY & COFFEE」。
かつては銭湯に併設されることが多かったコインランドリーだが、いまでは主にカフェと併設することを企画したものも多いようだ。「喫茶ランドリー」のように、そのことが素直に分かりやすい店名だったりする。
さきほどの資料によると、洗濯中の人の2割はその場で待つか喫茶店などに行くそうだ。その分を中で提供してしまおうということもあるだろうし、洗濯中の待ち時間を交流の場にするという積極的な意図もあったりするようだ。
まとめ
というわけで、ひねった店名のコインランドリーはあることはあるようだ。ただ他の業態であるような、やや奇をてらったような文章系のがぼこぼこある、という状況ではまだない。「なぜ蕎麦にラー油を入れるのか」みたいなやつだ。
「風が吹いた朝に」を見かけた浮足立ったが、まだ早かったかもしれない。
高級パン屋とは違う
いくつか見てきたが、店名のひねり方の方向はよく見かける高級パン屋とは違うのであって、それは気にとめる必要がある。
パン屋のほうは、もはや主題とは関係なくただ耳目を集めたいのではと感じる名付けのものもある。しかしコインランドリーのほうは洗濯とのつながりがちゃんとある。好感が持てる。
近年コインランドリー店が増加しているそうだ。それは空いている店舗や土地の活用という面もあるらしく、コインパーキングの増加と似た面があるのだろう。今後さらに増えた場合でも「風が吹いた朝に」のような爽やかな店名だといいなと思う。