高齢者の認知症問題について、新たに「視力回復のため白内障手術を受けた患者は認知症の発症率が30%下がる」という研究結果が発表されました。
Cataracts and dementia: People who undergo eye surgery have lower risk of brain condition | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2300353-older-people-who-get-cataracts-removed-have-lower-dementia-risk/
目の水晶体が加齢と共に濁る白内障は高齢者の視力低下の主要な原因の1つです。白内障は加齢にともなって多くの人が患うとされていますが、進行の速さには個人差があり、誰もが生活に支障をきたす進行度に至るとは限りません。そのため、水晶体の白濁そのものは病気というよりも皮膚のシミやシワなどに近い老化現象の一種とされています。
現代では白内障を治すために白く濁ってしまった水晶体を人工の水晶体(眼内レンズ)に取り換えるという手術法が普及しており、日本では年間約120万件の白内障手術が行われています。
白内障手術を受ける方へ 知っておきたい白内障術後のケア | 目についての健康情報 | 公益社団法人 日本眼科医会
https://www.gankaikai.or.jp/health/48/index.html
視力低下がアルツハイマー病などの認知症のリスクを高めることはすでに知られています。そこでワシントン大学のセシリア・リー氏らは視力を回復させる白内障手術が認知症に与える影響を調べることにしました。
リー氏の研究チームは認知症の危険因子特定を目的にした継続調査のデータベースから、白内障ないしは緑内障を患う65歳以上の被験者を選出。白内障の治療手術を受けた人の場合は8年間というスパンで認知症を発症する確率が29%低下しましたが、緑内障の治療手術の場合は認知症の発症率に変化がないことが確認されました。
この調査はランダム化比較試験ではなく、「認知症を患った人は手術を勧められにくい」といった要因が排せないため、「白内障手術が認知症予防につながる」という立証は不可能です。しかし、緑内障において認知症の発症率に変化がなかったことから、リー氏らは「白内障手術は認知症の予防効果がある」と主張しています。
白内障の認知症予防効果について、リー氏らは2つの説が考えられると述べています。その1つは「視覚から得られる刺激が脳の老化を予防するため」という説で、もう1つは「体内時計の調節に役立つブルーライトを再び目から取り入れられるようになるため」という説。後者については人工光を浴びて日光の睡眠改善やうつ病改善効果を得るという光療法を軽度認知症患者に適用したところ記憶能力と運動能力が改善したという研究結果が報告されているためですが、リー氏は「白内障は、青色光などの網膜に到達する光の全体的な質に影響を与えるため、白内障手術が網膜細胞の再活性化を促して認知機能の低下を防ぐ可能性があります。しかし、まだ分からないことがたくさんあります」と、そのメカニズムについては明言を避けています。
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