お茶の個性を左右する「茶葉の発酵」とは一体何なのか?

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紅茶や中国茶、日本茶など、世界中で飲まれているお茶は、ツバキ科の常緑樹であるチャノキの葉(茶葉)を煎じたものです。お茶の違いは茶葉の「発酵」によってもたらされるといわれますが、お茶の世界でいわれる「発酵」は本来の意味での発酵とは異なります。お茶の世界における発酵とはどういうことなのかについて、アメリカの中国茶専門小売サイトであるSophie’s Cuppa Teaが解説しています。

Oxidation Makes Tea Black – Sophie’s Cuppa Tea
https://www.sophiescuppatea.com/blogs/news/oxidation-makes-tea-black

◆茶葉の発酵とは?
本来の意味の発酵とは、乳酸菌や酵母菌などの微生物の働きによって、食べ物に含まれる成分が変化することです。この変化が人間にとって有益である場合は「発酵」、有害である場合は「腐敗」と呼ばれます。例えば、米に含まれる糖分を酵母菌がアルコールと二酸化炭素に分解する反応はまさに発酵といえます。

しかし、Sophie’s Cuppa Teaによれば、「茶葉の発酵」は微生物によるものではなく、茶葉に含まれる成分が電子を失うことで酸素などと結び付いて変化する「酸化反応」を意味するとのこと。つまり、「茶葉の発酵」は科学的には発酵とは異なります。茶葉の酸化反応が「発酵」と呼ばれるようになったのは、中国語で「酸化」を意味する専門用語が「発酵」を意味する言葉と似ていたため、英語圏に紹介される際に誤訳され、「お茶の製造に発酵が重要」という誤解が定着してしまったからだそうです。

◆茶葉の酸化反応で何が起こるのか?
とれたての茶葉には、苦味の原因となるカテキンが豊富に含まれています。カテキンは酸化によって、タンニンに変化します。タンニンは渋みの元となる物質ですが、カテキンよりも苦味が少ないため、結果として茶葉が酸化すると苦味が軽減するそうです。


さらに、茶葉の酸化は色にも大きな影響を与えます。カテキン自体は無色ですが、カテキンの酸化反応の副産物であるテアフラビンテアルビジンは赤色で、紅茶が赤茶色をしているのはこのテアフラビンやテアルビジンによるもの。茶葉の緑色はクロロフィルによるものですが、茶葉の酸化が進むとクロロフィルが分解してしまうため、茶葉の緑色は薄れて茶色へと変化します。

また、茶葉に含まれているカフェインは、酸化そのものでは変化しませんが、酸化を止めるために焙煎(ばいせん)すると、茶葉の外に析出します。そのため、お茶の酸化が十分に行われていると、内含するカフェイン量は少なくなります。加えて、お茶に含まれるタンパク質が酸化によって分解されることで、お茶の味が大きく変化します。

by Jack Kennard

茶葉の酸化は、茶葉に損傷が加わって細胞が壊れ、細胞内の酸化酵素が放出されることで始まります。中国の福建省や湖南省で生産される白茶は全体の3~4%しか酸化させないので、葉を摘み取った状態のままで放置して酸化を進めます。これに対して、茶葉を最大限まで酸化させたい場合は、茶葉にさらなる損傷を加えるため、摘み取った後にしっかりと手で揉んだりローラーで圧延したりする工程が加わります。

そして、酸化酵素を活性化させるには30℃前後という温度が重要。逆に酸化を止めるには酵素を熱で失活させればいいので、茶葉を焙煎したり蒸したりすることで高温下に置けばOK。お茶の風味は酸化の度合だけではなく、この酸化反応を止める工程で大きく変化します。

◆酸化の度合による茶の違い
同じ茶葉でも、その酸化の度合によってお茶の種類は大きく異なります。例えば、日本でも飲まれることが多い緑茶は、茶葉を摘み取った後にすぐ焙煎したり蒸したりして、酸化反応をほとんど進めないのが特徴。ほとんど酸化していないことから、お茶の色は緑色で、カフェイン含有量も多くなっています。また、カテキンによる苦みも味に出ます。


摘み取ったまま放置して少しだけ酸化を進める白茶は、自然に酸化反応が停止するまで放置するので、茶葉を加熱しません。しかし、茶葉の水分含有量が少ないと、時間の経過とともにゆっくりと酸化反応が進むようになり、この状態で数年間以上放置した白茶は「老白茶」と呼ばれます。老白茶の酸化度合はおよそ5~6%だそうで、白茶よりほんの少し酸化が進んでいるだけですが、高級品として取り扱われます。

この老白茶と同程度に酸化を進めるのが黄茶です。黄茶は乾燥させた茶葉を牛皮の紙に包んで、高温多湿の環境において酸化反応を進めます。ただし、最初の段階で茶葉を釜で炒(い)ってしまうため、茶葉に含まれる酸化酵素は失活しています。つまり、黄茶は「茶葉の酸化酵素を使わずに酸化反応を進める」という珍しい茶といえます。黄茶の酸化反応は「悶黄」と呼ばれる工程で進められますが、具体的にどういう温度管理や湿度管理を行っているのかは茶農家の企業秘密となっているそうです。

日本でも飲まれることが多いウーロン茶は「青茶」に分類されます。摘み取った茶葉を乾燥させたあと、ドラム状の容器に入れて回転させることで茶葉同士をこすりあわせて酸化反応を促進させます。それから、釜で炒って酸化を止め、さらに茶葉をよく揉んでから乾燥させます。ウーロン茶には800種類以上が存在し、10%程度しか酸化させないものもあれば、80%まで酸化させるものもあります。


イギリスを中心に欧米でも飲まれる紅茶は、酸化の度合が90%から95%といわれています。紅茶は茶葉への圧延を何度も重ねることで茶葉への損傷が大きくなり、酸化反応がより進みやすくなっています。そのため、紅茶は他の茶よりも甘くなる傾向があるとのこと。日本や中国ではその色から文字通り「紅茶」と呼ばれていますが、海外では誤訳によって「Black Tea」と呼ばれています。

中国で「黒茶」と呼ばれるのはプーアル茶などの一部の茶で、微生物による分解、すなわち本来の意味での発酵を利用するのが特徴です。麹菌によって、茶に含まれるカテキンやタンニン、アミノ酸が分解されていくので、なめらかでまろやかな味わいに変化していくのもポイント。また、微生物による発酵を経た後に、酵素による酸化反応も行うことで、黒茶はさらに風味豊かになっていくそうです。

by Matteo X

Sophie’s Cuppa Teaは「茶葉の酸化とは何かを知れば、茶の酸化を確認することが容易になります。甘くなっているのであれば、酸化はかなり進んでいることになります。まるで草のような香りが強い場合は、酸化が進んでいないことになります。また、色からも茶葉の酸化度合を知ることが可能になります」と述べました。

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