米Microsoftは1月12日(現地時間)に報道発表を行ない、「Technology Can Help Unlock a New Future for Frontline Workers,」(意訳:テクノロジーが現場労働者の新しい未来を切り開く)と題した働き方改革の調査結果を発表した。
そうした調査を受け、Microsoftは、現場労働者のためのソフトウェアとハードウェアを開発して提供している米Zebra Technologiesとの提携を発表したほか、Microsoft TeamsやMicrosoft Vivaへの新機能追加など、現場労働者の働き改革の実現を目指す施策を発表した。
パンデミックが進展させたオフィスワーカーのDX、その次の段階として「現場労働者のDX」が注目され始める
2020年初頭から発生したCOVID-19の感染拡大によるパンデミックにより、世界中のビジネスパーソンなどがリモートワークを強いられ、半ば強制的にさまざまな業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進展したことは多くの読者にも記憶に新しいところだと思うし、今もまだ現在進行形で続いているところだろう。だが、そうしたデジタルツールを利用して、TeamsやZoomなどのWeb会議などでビジネスをデジタルに移行できたのは、主にマーケティングやセールス、さらにはバックオフィスなどのオフィスワーカーなどの職種であり、英語で言うところの「frontline workers」と呼ばれる現場労働者は含まれていない。
パンデミックで注目されるようになった医療従事者の方々、さらには物流などの実際にモノを動かすことに関わる労働者の方々などのDXは、いわゆるオフィスワーカーに比べると遅れているというのが現状であることは否定できないだろう。
Microsoftの調査によれば、そうした現場労働者は、全世界で20億人が従事しており、全労働者の80%を占めているという。そうした現場労働者に対してもスマートフォンを配布したり、PCを配布したりという取り組みはまだ始まったばかりで、そこには大きな潜在市場があるとMicrosoftは考えている。
そうしたことを裏付けるように、現場労働者のTeamsの月間アクティブユーザーは、2020年3月と比較すると、実に400%という急速な成長を見せているという。パンデミックがオフィスワーカーのDXを急速に進めたことは間違いないが、その次のトレンドになるとみられているのが、そうした現場労働者のDXなのだ。
経営層との乖離を感じている現場労働者、テックが働き方を変えてくれることに期待感を持っている
今回、Microsoftが行った調査「Work Trend Index Special Report」によれば、現場労働者の働き方改革に関する意識について調査したところ、以下のような結果が得られたという。
1)現場と経営管理層との意識の乖離を約60%が感じている。
76%の現場労働者はお互いに理解できているが、約60%が企業のトップとのコミュニケーションや文化の共有が十分ではないと感じている。加えて51%の管理職ではない現場労働者は、自分が従業員として価値があるとは感じていない。
2)現場労働者は変革を求めており、変革が無ければ転職も辞さない
現場労働者は転換点にいると感じており、企業に大きな変革を求めている。組織にもっと貢献したいし、ワークライフバランスを重視したいし、それらが実現しないのであれば転職を検討することにためらいを感じていない。
3)テックが現場の働き方を変えてくれることに期待感がある
テック(IT技術)への期待が高い。63%の現場労働者は、テックが作り出す新しい仕事の機会に喜んでおり、テックは仕事のストレスを削減する要素として3番目にランクされている。
4)新しいIT導入への期待
46%の現場労働者は、新しいテックを受け入れることができなければ、職を失うのではないかという恐れを感じている。そのため、55%は会社が与えてくれるトレーニングの機会や講習以外にもテックを学びたいと思っている。
なお、Microsoftが発表した国別のデータによれば、自分の仕事のために適切なテクノロジーが導入されていないと不満を感じているかという調査では、インドが21%と低いパーセンテージになっており、米国は28%、ドイツと英国は32%となっているが、なんと日本は60%と、不満を感じているユーザーが突出して多いという結果になっている。日本の労働者がITツールの導入が適切に行なわれていないと感じる率が高いことをこの数字は裏付けている。
現場労働者のためのデバイスやサービスを提供するZebra Technologiesと提携、TeamsやVivaの機能拡張も
そうした調査を受けてMicrosoftは、TeamsとVivaに、現場労働者向けの新しいソリューションの提供を開始する。
Teamsに関しては説明の必要が無いと思うが、Vivaに関して念のため説明しておくと、Microsoftのビジネス向けの生産性向上ツールとしてサブスクリプション形式で提供されているMicrosoft 365の一部として提供されるHR(Human Resource、日本語でいうと人事)テックツールで、従業員同士のコミュニケーションを図ったり、オンラインでトレーニングを受けたりすることを可能にするツールだ。
今回、Microsoftは米Zebra Technologiesとの提携を開始することを発表した。Zebra Technologiesは現場労働者のためのソフトウェアとハードウェアを開発して提供している企業。Microsoftは、Teams Walkie TalkieアプリをZebra Technologiesのコンピューター上で動作するようにする。
例えば、Zebra TechnologiesのAndroidデバイス向けにはPTT(push-to-talk )ボタンを採用して、ボタン一発でTeamsで通話することが可能になる。なお、iOS上で動かす場合にはソフトウェアボタンとして実装する。また、Zebra ReflexisのTeamsへの統合、Reflexis Workforce ManagementソリューションをTeams内で利用できるようにするなど、包括的に協業を行う。
さらに、Viva ConnectionsアプリをTeams内で動作させることができるようにして、Viva Learningアプリ(Vivaを利用した従業員のトレーニングツール)に新規のアップデートを追加し、SAP SuccessFactors、Cornerstone OnDemand、Saba Cloudなどのパートナーのコンテンツを従業員にアサインすることがより容易になる。また、EdCast、OpenSesameなどのパートナーは、現場労働者が新しい仕事のやり方を覚えることを容易にするコンテンツを提供することでスキルアップやトレーニングに貢献する。
Microsoftはこのほか、Microsoft Cloud for RetailのGA(General Availability、一般提供のこと)を発表した。Microsoft Cloud for Retailは小売事業者向けのパブリッククラウドサービスで、小売事業者がデータを活用したマーケティング活動などを行うときにさまざまなアプリケーションを活用できる。AIとデータを活用することで、小売事業者の顧客となる一般消費者のユーザー体験をよりよくすることが可能になる。また、小売店の店員の働き方を改革するために、TeamsやVivaを活用することが可能だ。