メタモード対談001 : KDDI三浦伊知郎~都市連動型メタバース「バーチャル渋谷」の舞台裏

GIZMODO

昨年のコロナ禍をきっかけに、『フォートナイト』『あつまれ どうぶつの森』といったゲームの中で、音楽やファッションショーなどのバーチャルイベントが行われ、エンタメ分野での注目が集まった“メタバース”。

その注目度は今年、Facebookが社名を「Meta(メタ)」に変更したことを始め、マイクロソフト、ディズニー、ナイキなど様々な業界がメタバース参入を表明したことによりさらに急上昇。今や“メタバース”といえば、バズワードとして、一般的にも広く知られるようになっています。

一方、海外だけでなく、ここ日本でもメタバース参入を表明する企業は増えていますが、その最前線に立つのが、国内通信大手のKDDIです。KDDIは、渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会と共に73社が参加する「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」を立ち上げ、2020年5月に渋谷の街をバーチャル空間上に再現した渋谷区公認「バーチャル渋谷」を展開し、いち早くメタバース事業に着手しています。また2021年11月には、経済産業省、渋谷区をオブザーバーに迎え、東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、一般社団法人渋谷未来デザインとともに「バーチャルシティコンソーシアム」を発足し、メタバースにおけるルールの制定やコンプライアンス指針の策定に取り組むことも発表するなど、日本のメタバース・ビジネスをリードし続けています。

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KDDIでは現在展開するメタバースを「都市連動型メタバース」と呼んでいますが、これは一体どのようなものなのでしょうか?

「都市連動型メタバース」のロールモデルとなった「バーチャル渋谷」の仕掛け人でもあるKDDIの“革新担当部長”三浦伊知郎さんに、都市連動型メタバース事業の具体的な取り組み事例や今後のビジョンについて、ギズモード編集長の尾田がお話を伺いしました。

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KDDI “革新担当部長” 三浦伊知郎氏

バーチャル渋谷を産んだ革新担当部長とは?

尾田:現在、KDDIでは5G・xR事業サービス戦略部などの“革新担当部長”という肩書きで活動されていますが、この役職はどんなポジションなのでしょうか?

三浦:僕の立ち位置は会社でも制度的にユニークで、KDDIでは大卒からずっと在籍しているプロパー社員が多いのですが、僕の場合は、基本3年間の有期雇用でその間にミッションが与えられているんです。会社的にも同じ人がずっといるとやっぱり考え方が凝り固まってしまいがちです。だから、外部から人を入れて化学反応を起こし、新しいビジネスや環境を作るというのが“革新担当部長”としての僕の役割です。

KDDIのような大企業だと、自分に与えられたミッションを実行するために即戦力になるような仲間を募るにしても、まずは外部からきた私がどういう人間かを示すためのセルフブランディングも重要になってきます。KDDIでも今、「ジョブ型人事制度」を取り入れていますが、今後は大企業でも組織の中での身の動かし方よりもアウトプット重視になっていくはず。その意味では“革新担当部長”という役職はその試金石になっていくんじゃないかなと思っています。

尾田:三浦さんが中心となり、KDDIでは、2020年にいち早くメタバースのプラットフォームとして、「バーチャル渋谷」に取り組まれました。僕たちメディア関係者の間でも、三浦さんがコロナ渦において日本発・初ともいえるバーチャルと地域活動、両面にわたる取り組みでご活躍されていることが、とても話題になっていました。その経緯について教えて頂いてもよいですか?

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YouTube: 渋谷未来デザイン/ YouTube
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YouTube: 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト/ YouTube

三浦:僕がKDDIに入社したタイミングで渋谷区とKDDIのつながりが、まずひとつできたんです。渋谷区の外郭団体「渋谷未来デザイン」の長田新子さんとは彼女がレッドブルで働いていた時から付き合いがあり、今は彼女が渋谷区側、僕がKDDIにいるので、一緒に「何かできることはないか」と考え、1年にわたって議論を繰り返してきました。

当時からKDDIは、5Gを推進していましたし、渋谷は“文化を作る街”という場所的にも面白い街でもあるので、5Gを使ったエンターテインメントのビジネスの実験の場にしようというアイデアが出てきたことをきっかけに長田さんと2019年に「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」を立ち上げました。

そして、2020年に渋谷区とKDDIで新たに「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」という、現在は73社ほどの企業が参画するコンソーシアムを立ち上げたのですが、その時にちょうど参画企業のひとつであるNetflixが『攻殻機動隊 SAC_2045』をローンチするということがありました。

渋谷には以前から、スクラブル交差点にしか人が集まらず、街を回遊してもらえないという課題があったのですが、そこでその解決策として、攻殻機動隊 SAC_2045のARコンテンツを街のいろいろなところに置き、街を回遊してもらうことを考えたんです。でも、その後にコロナ禍が始まってしまい、結局そのアイデア自体は中止せざるをえなくて。

ただ、普通はそういうことがあれば、企画は中止になってしまいますが、その時に逆にチャンスとして捉えて、すべてをバーチャルの中に放り込んでみることにしたんです。前代未聞の企画にチャレンジするというリスクはものすごくありましたが、チャレンジさせてくれたKDDIという会社には感謝ですし、会社としての器の大きさを感じました。そうすると攻殻機動隊の世界観とバーチャルの渋谷の街の世界観が予想以上にマッチしたこともあり、どうせなら渋谷区公認しようというアイデアも生まれました。渋谷未来デザインの長田さんの多大な努力により、その許可を得たことで2020年の4月に渋谷区公認のプラットフォームとしてバーチャル渋谷がスタートすることになりました。

数年でリアルとバーチャルの垣根がなくなる

尾田:コロナ禍がきっかけでバーチャル渋谷を立ち上げたとのことですが、現在、KDDIが推進している「都市連動型メタバース」とはどのようなものなのでしょうか?

三浦:渋谷には先ほどのお話した街の回遊の問題とオーバーツーリズムの問題があったので、以前から渋谷区との議論の中には、“もうひとつの渋谷を作る”という構想がありました。それがコロナ禍をきっかけにバーチャル空間上で本当の渋谷を再現したバーチャル渋谷として実現することになりました。KDDIは、あと数年後にリアルとバーチャルの垣根がなくなるというイメージで、この2年の間に渋谷区と一緒になって「バーチャル渋谷 au5G ハロウィーンフェス」など、様々なイベントをバーチャル渋谷で開催してきましたが、バーチャル空間だと、正直、街を作るだけなら本当に何でも作れてしまうんです。

ただ、実際に存在する街をバーチャル空間の中に作って、そこでビジネスする以上は、リアルの街をこれまで一生懸命作ってきた人に対して、なんの断りもなく突然作るのではなく、やっぱり仁義や関係値など守るべきものがあると思っています。そういったリアルの街との関係性も意識しつつ、メタバースとしてバーチャルの中にもうひとつの街を作っていく。それがKDDIが今、取り組んでいる都市連動型メタバースです。

尾田:今年11月には「バーチャルシティコンソーシアム」を発足されましたが、これはどういった目的のために発足されたのでしょうか?

三浦:日本はこれまでハードを作ることにかけては非常に優秀でしたが、今やそれも海外からすると不要になりつつあるなど、個人的に今の日本はかなり危機的な状況になっていると思っていて。でも、世界的にメタバースに注目が集まるようになったことで、都市連動型メタバースは、今後日本発のプロダクトとして、ビジネスモデルになっていく可能性があると考えています。

またKDDIは、今後、国内外に関わらずメタバース市場でいろいろな事業を仕掛けていくと宣言していますが、僕個人としても、前職が外資系だったこともあり、以前からKDDIでも海外と一緒に仕事したいと思っていたので、限られた期間内で自分が関わった仕事を最低でも国のレベル、海外に持っていきたいと思っていました。それが今、実際にバーチャル渋谷をきっかけに経産省などから国を発展させる産業のひとつとして、都市連動型メタバースを海外に輸出していきたいとお声掛け頂くなど、行政からもそこにビジネスの可能性を感じて頂けていることはありがたいです。

地元の商店街との折衝など地道な作業が鍵

尾田:世界的にみても、ここまで都市密着型のメタバースはなかったような気がします。仮想空間はどこにも作れるぶん、地域性は出しにくい。

三浦:はい。僕もそう思っています。パリやNYなど、“地域”との関係性をうたっているメタバースはありますが、実際には地域との関係性が薄いものがほとんどです。

ただ、今後、ビジネスとしてバーチャル空間を運用していくというのであれば、当然、そのためのルールも必要になってきます。そこでKDDIでは、経産省と渋谷区をオブザーバーに迎え、僕らがバーチャル渋谷の運営で得た知見に基づきながら、民間企業数社と有識者と一緒にバーチャル空間上でのルールメイクをしていく目的でバーチャルシティコンソーシアムを発足させました。

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ギズモード・ジャパン編集長 尾田和実

尾田:行政も今、メタバースのようなバーチャルの価値を認めるような状況になっている一方で、まだまだ日本は既存のテクノロジーに対して、フィジビリティを示すことに苦戦している印象があります。そのあたりの手応えをどのように感じていますか?

三浦:手前味噌になりますが、メタバースに関しては早めに実現できたので結構うまくやれたという実感はありますね。もちろん、メタバースやVR関連のテクノロジーは、以前からゲーム業界など一部では取り入れられていましたが、全体的にはスマホのスペックなど様々な問題で後回しになっていた印象があります。その意味では僕らがベンチャー企業を巻き込んで、コロナ禍をきっかけに一度がっつりメタバースに取り組んだことはすごく重要だったと思っています。

とはいえ、バーチャル渋谷は3年くらい早かったかもしれません。コロナ禍をきっかけに攻殻機動隊というキラーなIPを使って実行したわけですが、技術的にもまだまだ不安定さがあり、ちゃんとしたルールもない中ではやっぱりリスクはありました。

尾田:バーチャル渋谷のイベントで、配信のトラブルなどあったときも、三浦さんが的確な対応を取られたことが関係者の間では語り草になっていました。

三浦:でも、そこを許容してくれたことでKDDIにとっても良いビジネスが生まれましたし、そういうリスクをとってでも新しいビジネスを開発していく立場の僕とKDDIの関係性も良いハマり方をしたんじゃないかなと思ってます。実際、配信のトラブルがあって対応策をどうするか?という緊迫した場面になった時も、KDDIにはサーバー構成などのスペシャリストがいて、ホワイトボードを前にこうしよう!と話しあって、対応策を講じたことがありました。あれは自社のこととはいえ、「シン・ゴジラみたいだ」って感動してしまいましたよ(笑)。

尾田:KDDIには日本最高レベルの通信技術の達人が揃ってますものね。失礼ですが、そのときはきっとみなさん生き生きしていたんじゃないでしょうか(笑)。バーチャル渋谷立ち上げの成功には、コロナ禍と攻殻機動隊以外に他にもどんな要因があったのでしょうか?

三浦:立ち上げ以前に渋谷のステークホルダーと良い関係をちゃんと築くことができていたことも成功の大きな要因です。世間的にはコロナ禍でいきなりバーチャル渋谷がスタートしたように見えているかもしれませんが、その前段階として渋谷区との交渉だったり、スクランブル交差点であれば東急さんにお伺いを立てるとか、リアルでのコミュニケーションもちゃんとやってきました。ただ、そういったことができたのも「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」のようなコンソーシアムがまずあってのこと。

それと一見すると最先端なことを仕掛けたように見えますが、その裏では地元の商店街に通い詰めるような地道なこともやっていました。本当に街と連携していくというのであれば、実はそういうことが一番重要で、それなくしてはWin-Winな関係を築くことはできないということがわかりました。

その意味では僕のようにこれまでも社外とコミュニケーションをとってきた人間が外部から入ってきたことはKDDIとしても大きいですし、渋谷のステークホルダーを2年以内にまとめあげることができたことは僕の得意領域でやれた仕事だったと思っています。

メタバースの「リアル」はどこにある?

尾田:メタバースを作る上でリアルの都市にこだわるのはどのような理由からでしょうか?

三浦:KDDIも僕自身もリアルの都市としっかり向き合うことで血の通ったバーチャル空間を作りたいと思っているからですね。そうすることで都市が発展した延長線上にバーチャル空間があるような関係性ができあがると思っています。

最近では、Meta(旧Facebook)を始め、仮想空間ビジネスに参入する企業もどんどん増えていると思いますが、僕らのように、渋谷のようなアイコニックな都市と本気で向き合い、心中するくらいの覚悟でビジネスを作っている企業は他にはあまりないと思います。もちろん、自分たちだけで勝手にどこかの都市をバーチャルで再現するようなことはあると思いますが、バーチャル渋谷のようにリアルの行政にプレゼンしていたり、行政からコロナの感染拡大防止のためにバーチャル空間に誘導してくれと頼まれるようなことはないはずです。そういった世界的に見ても稀なケースだったからこそ、経産省はビジネスモデルとして、海外に持っていける可能性を感じてくれたんだと思っていますが、僕らとしてもそこを認めてもらえたことは嬉しかったですね。

尾田:実際の渋谷という街を題材にバーチャル化することにはどんな意義があるのでしょうか?

三浦:例えば、渋谷は有形資産があまりない街ですが、コギャルやチーマーなどユニークな無形文化がいくつも生まれてくるなど渋谷ならではの文化を生み出してきた歴史があります。実は僕の母親の実家は道玄坂だったり、僕自身も渋谷生まれなので渋谷には個人的にも深い縁があります。それで以前、バーチャル渋谷をテレビのニュース番組に取り上げてもらった際に、母親と僕と甥の3世代でその放送を見ていたのですが、その時にそれぞれが知っている渋谷の街を回想して盛り上がるということがありました。

そうなったのはきっと渋谷に渋谷ならではの街の文化があったからこそで、これがもし、ただのバーチャル空間だったら、そんな風に盛り上がることはなかったと思いますね。だから、バーチャル空間もそういったリアルの街にも通じるその街ならではの文化を感じられるものであれば、特定のデジタルリテラシーが高い人だけでなく、いろいろな人が入ってこれて、いろいろな見方ができるようになるはずです。

尾田:確かに街で人気の居酒屋にはいろんな人が集まっていますね。

三浦:今のテクノロジーがあれば、絵的には誰だってそういう場所をバーチャル空間に再現できます。でも、それを血の通ったものにしていくには、バーチャル渋谷のようにリアルの街で実際に活動をしている人を巻き込まないといけないし、そうしないとその場所ならではの街の文化のようなものは生まれません。そういうこともあって、バーチャル渋谷は、基本的には全世代が入ってこれるようなプラットフォームにしていければと考えています。

尾田:最近になって「メタバース」というワードが急激にバズワードとなりましたが、以前から取り組んできた立場としては現在の状況をどう捉えていますか?

三浦:バーチャル空間で盛り上がれること自体は、確かにひとつの市場ができあがるという意味では良いことだと思っています。ただ、重要なのはリアルの街と連携することで、例えば、コロナ禍で伸び悩んでいた街場の飲食店に人が再び足を運ぶようになるなど、何らかの街の課題を解決できるような可能性もあります。

最近は、こうした実際の街をモデルにしたバーチャル空間も増えていますが、いち企業のみで作られたものだと、そこまで血の通ったものになっていないというか、ちょっと表層的な印象があります。なので、もし、バーチャル空間を作るのであれば、バーチャル渋谷のようにリアルの都市と連携しながらの方がゼロベースで空間を作り上げるよりも圧倒的に意義があると思っています。

都市連動型メタバースの今後

尾田:今後の都市連動型メタバース事業の展望について教えてください。

三浦:バーチャル渋谷に関しては、バーチャルの経験よりもリアルでの行政や街の人たちとの関わり合い方の経験を溜めることができたことの方が僕らとしては大きく、都市連動型メタバースを作る上でのロールモデルになりました。

その意味ではKDDIは今、メタバース事業の先駆者的存在になりましたが、会社としても「バーチャルシティコンソーシアム」の3ヶ年計画でも都市連動型メタバースの海外展開を掲げていますし、個人的にも今後は国内に限らず、ロンドン、パリ、ニューヨークのような海外の都市にもどんどん都市連動型メタバースを広げていきたいですね。

ただ、その場合もいかに血の通ったバーチャル空間を作っていけるかが課題になってくると思うので、そこは引き続きしっかりやっていく必要がある。でも、今、日本社会に元気がない中でそういったことをやっていくことができれば、近いうちに明るくて面白い話題を皆さんに提供することができると思っています。

尾田:なるほど。三浦さんは、メタバース・ビジネスの未来を担う日本全体の“革新担当部長”かもですね! 本日はありがとうございました。

Source : バーチャルシティコンソーシアム

Photo: Victor Nomoto(METACRAFT)

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