空気中のDNAから「周辺に生息する生物」を割り出す研究を複数のチームが進めている

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動物は生きているだけで体毛や皮膚片、体液などを環境中に放出しており、これらを採取してDNAを分析することで、どの動物が生息しているのかを調べることができます。新たに、デンマークやイギリスの異なる2つの研究チームが、それぞれ独立して「空気中から動物のDNAを採取する」という研究を進めていると報じられています。

Airborne environmental DNA for terrestrial vertebrate community monitoring: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(21)01690-0

Measuring biodiversity from DNA in the air: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(21)01650-X

Two research teams independently used vacuums to measure biodiversity | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2022/01/two-research-teams-independently-used-vacuums-to-measure-biodiversity/

かつての生物学研究では、生物多様性を測定したり種の存在を調査したりする際、実際に生物をつかまえるか設置したカメラで生物の姿を撮影する作業が必要でした。ところが近年では、環境中のサンプルを採取してeDNA(環境DNA)を分析することで、周辺に生息する生物種を調べることが可能になっています。

環境DNA分析における最も一般的なサンプル収集方法は、膜を使って川や海などの水をろ過することで、生物のDNAを含む組織や便のサンプルを収集する手法です。デンマーク・コペンハーゲン大学グローブ研究所の博士研究員であるクリスティーナ・リンガード氏らのチームは、「湖や海と同様に空気もさまざまな動物を取り囲んでいる」という点に着目し、空気から環境DNAを採取する方法を探す研究を始めました。

研究の結果、掃除機やそれに類似した機械で空気を吸い込みながら、途中にフィルターを設置することで空気中の環境DNAを採取できることが判明。リンガード氏らは実際に装置を持ってコペンハーゲン動物園に行き、オカピやトラが飼育されている屋内の飼育場、屋外の飼育場、鳥・は虫類・ナマケモノなどが飼育されている「熱帯雨林館」などで空気中のサンプルを採取しました。

そして研究チームは、研究室内でサンプルが汚染されないように徹底的に清掃して出入りも制限した上で、収集したサンプルを持ち込んで分析を行いました。すると、サイ・キリン・インパラ・ワオキツネザル・ヨウム・ヤツガシラ・ローチ・グッピーまで、実に49種もの動物のDNAが確認されたとのこと。内訳は哺乳類が30種、鳥類が13種、魚類が4種、両生類が1種、は虫類が1種となっており、このうち38種は動物園で飼育されており、3種は動物への餌として日常的に用いられていたもののDNAで、他にも動物園の周囲に生息している野生動物のDNAも含まれていたそうです。


同時期に「空気中のサンプルから環境DNAを採取しよう」と試みたのはリンガード氏らの研究チームだけではなく、イギリスやカナダの研究チームも同様のアプローチで空気中の環境DNAを採取する研究を行っていました。ヨーク大学で助教を務めるエリザベス・クレア氏が率いた研究チームは、2021年3月に「空気中の環境DNA採取の概念実証に成功した」と発表しました。

空気中から動物のDNAを採取する実験が成功、到達困難な環境での調査に役立つ可能性も – GIGAZINE


概念実証に成功した後、クレア氏らの研究チームはイギリスのハマートン動物園でサンプルを採取して環境DNAを分析。その結果、ディンゴやトラといった動物園で飼育されている種だけでなく、イギリスでは個体数の減少が問題視されているナミハリネズミといった非飼育種のDNAも確認されたそうです。

さらにクレア氏らの研究チームは、動物のDNAが飼育場所から100メートル以上離れた所で採取したサンプルにも含まれていることや、建物内で飼育されている動物のDNAが建物外でも確認されたこと、動物ベースの餌に含まれるDNAもサンプル中に存在したことなどを報告しています。

リンガード氏らの研究チームとクレア氏らの研究チームは、いずれも非常に類似した研究を行っている海外の研究チームの存在に気付いていなかったとのこと。クレア氏は、「これほど同一性の高い実験が全く同時に、しかもお互いのことを全く知らずに行われたのは初めての経験です。『DNAを空気中から掃除機で吸い取る』という少しクレイジーな作業をしている時に、他の人が同じことを試みてそれがうまくいくことを独自に証明してくれるのは、本当にうれしいことです」と述べました。

空気中から環境DNAを収集するという手法は、広い環境における陸上生物の生物多様性を評価できるだけでなく、生態系への影響が少ないというメリットも期待されています。しかし、この研究分野はまだ初期段階であり、風や太陽光などが精度に及ぼす影響などは不明だと両研究チームは認めています。


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