試行錯誤が続いた低価格プランは「勝者なき戦い」–携帯業界が苦しんだ2021年を振り返る

CNET Japan

 2021年は菅義偉前首相が政権公約に掲げた携帯料金引き下げ要請を受け、携帯各社が安価な料金プランを相次いで投入したことが話題となったが、実は下がったのは携帯料金だけではない。2021年はスマートフォン端末自体の低価格志向の強まりも大きなトレンドとなった。

 一方で「Beyond 5G」に向けた取り組みは具体性を欠き、成長を見据えることができない官製デフレに業界全体が突き進んだ1年だったといえるが、新たに首相に就任した岸田文雄氏の下、今後携帯電話業界の成長の道筋を描くことはできるのだろうか。

試行錯誤が続いた低価格プランは「勝者なき戦い」に

 2020年に内閣総理大臣に就任して携帯電話料金引き下げを政権公約に掲げ、政治的圧力によって携帯大手に料金引き下げを迫った菅義偉氏。2021年はその菅氏の影響を強く受け、携帯電話料金の引き下げが急速に進むこととなった。

 とりわけ注目を集めたのが、NTTドコモ(以下ドコモ)の「ahamo」に代表されるオンライン専用プランの投入だ。2020年末に発表されたahamoが非常に高い評価を得たことから、KDDIが「povo」、ソフトバンクが「LINEMO」と、競合2社が2021年に入ってすぐに対抗サービスを打ち出し、3月には一斉に各社のサービスがスタートして大きな注目を集めた。


ahamoに対抗するべく、2021年に入り各社はオンライン専用プランを相次いで発表。ソフトバンクはLINEとの連携を重視した「LINEMO」の提供を開始している

 しかし、その後の動向を見ると、2社ともahamoの牙城を崩すことはできなかったようで、ahamoの契約数が11月時点で200万契約を超えたのに対し、povoは10月末時点で100万契約、LINEMOは8月時点で50万に満たず、その後LINEMO単独での契約数は公表を控えている。そこでpovoは月額0円から利用できる「povo 2.0」へと、全く違う内容にリニューアル、LINEMOは小容量だがより低価格の「ミニプラン」を投入するなどして路線転換を図っているようだ。


KDDIは9月に、ahamoに近い内容だった「povo」を「povo 2.0」へとリニューアル。月額料金0円で、必要に応じて通信量をトッピングするプリペイド方式に近い内容となった

 だが少し視野を広げると、ahamoの成功でドコモが好調とは言い切れない様子も見えてくる。というのもKDDIは「UQ mobile」、ソフトバンクは「ワイモバイル」と低価格のサブブランドにかなりの力を注いでおり、オンライン専用プランよりもサブブランドの契約数が大きく伸びているのだ。

 特にUQ mobileは、指定の電力サービスを契約すると割引が受けられる「でんきセット割」を6月に提供。9月には固定ブロードバンドも割引対象に含めた「自宅セット割」にリニューアルし、最も安いプランであれば単身者でも月額1000円を切る安さを実現して好評を得ている。


UQ mobileは単身者でも割引が受けられる「でんきセット割」が好評なことから、9月には固定ブロードバンドも割引対象に含めた「自宅セット割」へと進化させている

 一方でドコモは、ahamoで若者世代のつなぎ止めに成功し、番号ポータビリティでの流出を抑えることはできたがサブブランド対抗の低価格帯には依然課題が多かった。そこで10月より外部のMVNOと連携し、MVNOのサービスをドコモショップでサポートする「エコノミーMVNO」を開始することで、ようやくサブブランドへの対抗策を打ち出している。

 だが、エコノミーMVNOの構想自体はahamoの発表当時から打ち出していたもので、実際のサービス提供までにはかなりの時間を費やしている。連携を打ち出したMVNOもグループ企業のNTTコミュニケーションズが提供する「OCN モバイル ONE」を除けば、フリービット系の「トーンモバイル」のみと非常に数が少なく、条件の厳しさからMVNOの協力を得るのにかなり苦しんだ様子を見て取ることができる。


NTTドコモは連携するMVNOのサービスをドコモショップで契約できる「エコノミーMVNO」で低価格帯をカバーする方針を打ち出したが、連携するMVNOの少なさも指摘されている

 そのため、ドコモもahamoが成功したからといって、低価格サービス全体で見れば決して成功したとは言い難い状況にある。しかも、3社ともに低価格プランに流出するユーザーが増えて収益は軒並み悪化しており、勝者なき競争となってしまった印象だ。

大手の料金引き下げの余波に苦しむ楽天モバイルとMVNO

 菅政権による料金引き下げ要請の波は、新規参入の楽天モバイルにも大きな影響を与えている。楽天モバイルは従来、月額3278円でデータ通信が使い放題となる料金プラン「Rakuten UN-LIMIT V」を提供していたが、それに迫る水準の料金で大容量、かつエリア面で圧倒的な優位性を持つahamoなどが登場したことで、料金面での優位性が大きく揺らいでしまったのだ。

 そこで、楽天モバイルは4月に料金プランを「Rakuten UN-LIMIT VI」へと大幅にリニューアル。月額3278円で使い放題という点は変わらないが、新たに月当たりの通信量に応じて料金が変わる段階制を採用、1GB以下しか使わない場合は月額0円という大胆な料金体系で話題を呼んだ。


楽天モバイルは4月に料金プランを「Rakuten UN-LIMIT VI」にリニューアル、1GB以下であれば月額0円で利用できることが大きな話題となった

 このRakuten UN-LIMIT VIが好評を得たのに加え、同じく4月にはiPhoneの取り扱いも開始したことで楽天モバイルの契約数は順調に伸び、9月末時点で411万を記録している。だが新プランのマイナスの影響も大きいようで、楽天モバイルの親会社となる楽天グループは5月に、日本郵政などから大規模な資金調達を実施するに至っている。

 楽天グループは2020年12月に日本郵政と物流分野で資本をともなわない提携を実施しているのだが、それからわずか半年で大規模な資本を受け入れるに至ったわけで、一連の料金引き下げが楽天モバイルに与えた影響は決して小さくないことが分かるだろう。

 しかも楽天モバイルは、2021年夏を予定していた4Gの人口カバー率96%の達成が、半導体不足によって2022年春にまで後ろ倒しするなど、最大の課題とされているエリア整備でも依然不安を残している。楽天モバイルがエリア整備を急ぐのは、経営の負担となっているKDDIのローミング利用料をいち早く削減するためで、10月には39の都道府県で順次ローミングを終了することを打ち出しているのだが、エリア整備が計画通り進まない中でのローミング終了を懸念する声は依然として多い。


楽天モバイルは2021年に4Gのエリアを急拡大、人口カバー率94%を超える所まで到達したが、半導体不足の影響が直撃して夏を予定していた人口カバー率96%の達成は先延ばしとなった

 だが楽天モバイルより大きな影響を受けたのはMVNOだ。実際MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会MVNO委員会は1月、携帯大手の安価な新料金プランに対抗できないとして、総務省に対し携帯大手の廉価プランと同じ条件で競争できるよう、緊急措置を求める要望書を提出しているのだ。

 総務省がそれに応じ、携帯大手にデータ通信の接続料や音声卸料金の引き下げを求めたことで、MVNOはより安価な対抗プランを相次いで投入して競争力をある程度維持することができた。ただユーザーが携帯大手の低価格プランに流れる傾向が強まっていることから、総務省が12月17日に公開した令和3年度第2四半期(9月末)の電気通信サービスの契約数およびシェアを見ると、移動系通信の契約数に占めるMVNOのシェアは13.2%と、前年同期比で微減となり、苦戦が続いている様子がうかがえる。


MVNOの1つ「HIS Mobile」は携帯大手の安価なプランに対抗し、6月より月額590円から利用でき、なおかつ音声通話料金が30秒11円になる「格安ステップ」を提供している

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