カーボンゼロに舞ったこの一年

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明日は「今年のつぶやき」をお送りする予定ですが、今日はそこではカバーしなかった2021年最大級の隠れた話題、カーボンゼロについて振り返ってみたいと思います。読売新聞が毎年発表する国内、海外の10大ニュースにもかすりもしませんが、私はコロナと並びこの動きが世界を振り回したとみています。

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カーボンゼロ、脱炭素化の動きは今年秋にグラスゴーで開催されたCOP26に各国の野望と期待が込められていたといってもよいと思います。成果としては前回のパリ協定の際に設定した産業革命前からの気温上昇を2.0度上昇に抑える目標から1.5度にハードルを上げたこと、パリ協定の詳細のルールブックが完成したこと、石炭火力削減に言及したこととあります。ただ、最後の石炭火力削減については当初ドラフトの「段階的廃止」がインドの突然の反対により「段階的削減」にトーンダウンしたことで議長が最後に悔し涙する場面もありました。

政治主導のカーボンゼロ競争は日本でも菅首相(当時)が2050年にカーボンニュートラルを目指すと高々と宣言し、大きく報じられました。それは突然思い立ったものではなく、安倍政権時代から着々と練り上げていたオプションの一つとされます。また菅氏が公明党との関係強化の手土産ともされます。つまりいくつかある選択肢の一つから菅氏がそれを政治的に選んだとも言えます。

しかし、それをどう実行できるか、については10月22日に発表された第六次エネルギー基本計画が物語ります。再生エネルギーを19年実績から30年には倍増させるのが柱とされますが、これは報道の偏り。一番大きな変化は原子力を19年実績から30年に3.5倍(6%から20-22%)に増やすこと、これに尽きるのです。なぜかといえば役人は50年にカーボンゼロを実施するのに今日の予見出来る技術からは原子力抜きでは机上の空論になることが分かっているからです。よって仮に今から30年後にカーボンゼロが達成できなければ原子力発電に対する国民の理解が得られなかったという逃げ口上になるはずです。

環境問題に最もセンシティブな欧州大陸ではかつてディーゼル車が推奨され、当たり前に走っていたものの環境にやさしくないことからその基準を徐々に引き上げ、さらにはVW問題もあり、自動車の電動化が花盛りとなります。一方、季節風が吹く北海あたりでは風力発電に注目が集まるものの安定感という観点からはやはり原子力に頼らざるを得なかった、というのが実情です。カーボンゼロという目標、そして安定供給という点で原子力発電の見直し、更にはロシアのオイルガスへの依存度の引き下げという政治的使命も見て取れます。

事実、フランス、オランダ、英国、フィンランド、ポーランドが原子力推進を目指しています。ドイツはやらないと決めていますが、それはフランスなど周辺国に依存するという前提であり、それがダメならロシアとパイプラインが繋がっているという一種の狡猾さがあります。

このようにカーボンゼロはたやすくない上に我々は歴史的な原油価格に悩まされています。これは石炭火力が世論から厳しい視線を向けられたため、とりあえずの代替としてLNGと原油に向かったのですが、ガスは高騰につぐ高騰となり、比較論からまだ史上最高値に達していない原油は割安ということなのでしょう。

また原油も政治的な資源でそれを握るのが中東とロシアであります。トランプ政権時代には中東への関与が深く、それなりに良好な関係を築いたのですが、バイデン氏はそれをゼロに戻してしまいました。しかも備蓄を放出するという珍妙な手段をとったことで彼らは冷笑すら浮かべているのです。原油が今後、100㌦を超えるようになればバイデン政権は窮地に追いやられ、中間選挙どころではなくなります。その対策の一つとしてイランへの経済制裁を緩和し、同国の原油輸出を再開させる手がありますが、そこに手を付けるのはあまりにも見え透いていると共にイランの原油設備がすぐにフルで稼働できる状態かこれも疑問なのです。

そう考えるとバイデン政権を快く思っていない中東諸国はOPECプラスでの原油は計画増産以上はせず、バイデン政権を締め上げるとみています。またカーボンゼロがいずれ来ることを前提に原油で稼げるときに稼ぐというスタンスも維持するでしょう。ロシアは有事の資源買いですのでウクライナをネタにゆすることもあります。

カーボンゼロの動きは止まらないと思いますが、石炭、ガス、石油全部を一気に敵に回すのは無謀であり、それでは社会が廻らないのは当然です。テーゼが先で現実問題は別枠というちぐはぐさだったのがカーボンゼロの一年だったと思います。

温暖化の要素はたくさんあるはずです。都市化や高層ビルが放つ熱量もあります。新宿パークタワー(52階建て)のエネルギー消費量は年間7000KWh、杉の木が年間200万本が吸収するCO2量を輩出しているのです。また、「CO2吸収率の高い新鮮な緑地」が少ないこともあります。温暖化対策という意味ではもっと広くとらえることも必要であり、来年以降、もう少し視点を変えた方策にも目を向けた方が良いと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月30日の記事より転載させていただきました。