2021年12月10日~11日、水中ドローンや水中ロボットに関するイベント「第3回 海のアバターの社会実装を進める会」が開催された。
12月10日にはシンポジウムが、12月11日には水中ロボット操縦体験・デモンストレーションが行われた。シンポジウムは、福島ロボットテストフィールド(以下、福島RTF)のカンファレンスホール、操縦体験やデモンストレーションは、福島RTF 屋内水槽試験棟および福島の請戸漁港、長崎の島原港で開催され、それぞれオンラインでもリアルタイム配信が行われた。
ここではまず、12月10日に行われたシンポジウムの内容をレポートする。シンポジウムのテーマは、「水中ロボットを中心とした海洋産業の『今』と『未来』」であり、全部で8つの講演が行われた。
以下、そのレポートをお届けしよう。
海のアバターの社会実装を進める会への期待
最初に、福島RTF 副所長の秋本修氏が「福島ロボットテストフィールドの紹介と海のアバターの社会実装を進める会への期待」と題した開会挨拶を行った。その概要は以下の通りだ。
福島RTFは、国家プロジェクトである福島イノベーション・コースト構想の中で、ロボット分野を牽引するものとして位置づけられており、「空の産業革命」の実現に向けて、国内の他のテストサイト「NICTワイヤレスネットワーク総合研究センター」および「大分県産業科学技術センター 先端技術センター 先端技術イノベーションラボ」との連携協定が締結された。
福島RTFで期待されていることの一つが「水素社会」と「空飛ぶクルマ」の融合、もう一つが、「水素社会」と「次世代船舶」の融合である。例えば、水素を利用した燃料電池を電動ヘリコプターの電源として使うといったアイデアが出ている。
海のアバターの社会実装を進める会は、少子高齢化が進み、職業ダイバーが激減したこと、水中や海中のインフラは数多くあり、維持管理作業が必要だということで設立された。
水中ロボットは大きなポテンシャルを秘めているが、教育や国民理解が進んでいないといったことが問題であると考え、イベントを通じて、潜在的な利用者や学生に対して水中ロボットの有効性をしっていただく体験である。
「海の産業革命」のコンセプト。低価格水中ドローンの技術を海洋ドローンへ適用できれば、海洋ロボットの市場を牽引し、新たな市場の創生とロボットの社会実装が可能になる。また、浅海域遠洋産業プラットフォーム構築によっても、「海の産業革命」が推進される。
南相馬市の企業による水中ロボット開発に関する講演
続いて、南相馬市の企業であるタカワ精密 取締役 渡邉光貴氏による「モノづくりで社会貢献 – 南相馬発の水中ロボット「ラドほたる」 -」と題した講演が行われた。この中で紹介されている「ラドほたるⅡ」は、翌日のデモンストレーションでも登場していた。
タカワ精密はFA設備や金型、ロボット開発などを行っている企業で、これまでに水中ロボットやクローラロボットなどを開発してきた。タカワ精密は2013年から水中ロボットの開発を開始した。震災による死者の90%以上が溺死であり、被害を減らすためにも水中ロボットは重要である。
タカワ精密はまず、福島大や他の市内企業と共同で、採泥機能を備えた水中ロボットを開発。次に、JAEAと福島高専、他の県内企業と共同で、狭隘部調査機能を備えた水中ロボットを開発。さらに、その改良型として超小型・軽量で高い放射性耐性を実現した狭隘部調査機能を備えた水中ロボットを開発した。
タカワ精密が開発した最新水中ロボットシステムが「ラドほたるⅡ」であり、LEDマーカーを使った半自律制御が可能なことが特徴だ。
「福島を他人事と思えない」長崎の取り組み
最後に、長崎県産業労働部 参事監 長崎大学研究開発推進機構 機構長特別補佐 森田孝明氏が「産・学・官の連携による海洋産業創出を目指して」と題した講演を行った。
長崎大学福島未来創造支援研究センターは、震災並びに原発事故に遭遇した福島県に対する健康、医療、福祉、教育などの支援と協力を行い、福島県の未来を創造するために設置された。
長崎大学福島未来創造支援研究センターは、業務支援部門、復興支援部門、教育支援部門の3つの部門から構成されており、さらにそれぞれの部門が国際機関や他の大学などと連携をとっている。
長崎は原爆の被害を受けた地であり、3.11の被害を受けた福島は長崎の人間にとって他人事ではなくなった。長崎大学の初期支援活動は全国の中でも際立っていた。
2021年12月3日~19日に、福島の現状を伝える「長崎特別展」が、長崎市の国立長崎原爆死没者追悼平和記念館で開催され、多くの人が見学に来た。
昨年行われた「第2回海のアバターの社会実装を進める会」でも長崎が協力。日本の商用による本格的な海洋開発は、洋上風力から始まり、一般海域での海洋開発や漁業密度の高いアジアの海では、海域特性の把握や漁業との共生がとても重要である。このような海洋の新たな開発において、水中ロボットやドローンの活躍の場面がさらに広がっていき、国内外と連携した実海域の実証フィールドと事業化海域を持つ長崎と、福島RTFを持つ福島との連携は、いよいよ重要になる。
海洋立国日本の目指すべき姿は、「国際協調と国際社会への貢献」「海洋の開発・利用による富と繁栄」「『海に守られた国』から『海を守る国』へ」「未踏のフロンティアへの挑戦」の4つが柱となる。
2014年7月に国によって実証フィールドが6海域選定されたが、そのうち3海域が長崎県である。現在は6県8海域が選定されているが、そのうち3海域が長崎県である。その3海域は、「西海市江島平島沖」「五島市久賀島沖」「五島市椛島沖」である。また、国指定の地域活性化総合特区として「ながさき海洋・環境産業拠点特区」が制定され、さまざまな課題に取り組んでいる。
知識基盤型社会では新たなクラスターが競争に大きな役割を果たすため、産学官連携によるクラスターの形成を目指している。
そのクラスター形成に大きな役割を果たすのが、2016年3月23日、長崎大学、長崎総合科学大学、NPO法人長崎海洋産業クラスター形成推進協議会、長崎県の4者によって締結された海洋エネルギー関連分野における連携協力だ。
長崎海洋産業拠点を形成する想定ロードマップは、「イノベーション環境の改善」→「企業の集積→アンカー企業の出現」→「起業環境の改善」→「評判の確立」という段階を経る。現在は、起業環境の改善フェーズである。