2022年1月から「電子帳簿保存法」が改正されますということで、第1回ではフリーランスライターの三浦優子さんの疑問・質問に答えるかたちで、どんな部分を押さえるべきなのか説明した。第2回となる今回は、改正のポイントをあらためて整理するとともに、フリーランスが最低限、準備・実行しなければならない事項、デジタル導入(会計ソフトなど)のメリット、そして、その先にやってくる「インボイス制度」への対応について、税理士の視点からアドバイスする。
杉山 靖彦
早稲田大学卒。1994年、マイクロソフト株式会社(現・日本マイクロソフト株式会社)入社。「Office」のプロダクトマネージャとして、「Mac Office 4.2」「Office 95/97」のリリースを担当。1997年退社。1998年に会計事務所を開業。公開会社やベンチャー企業の取締役、監査役、大学非常勤講師を務める。ライターとして業務ソフトやOffice関連の執筆活動も展開している。著書に『「あるある」で学ぶ 忙しい人のためのパソコン仕事術』(インプレス)など多数。
改正電子帳簿保存法のポイントは何?
今回の改正電子帳簿保存法のポイントは、大きく分けて3つあります。1つめは、自分でパソコンを使って作成した見積書や請求書、領収書、そして社内管理用の在庫データといったデジタルデータの保存についてです。
2つめは、他の方から受け取った見積書や請求書、領収書、取引明細、オンラインバンキングのデータといったデジタルデータの保存についてとなります。
そして3つめが、自分で作成した手書きの伝票といった紙の書類と、逆に他の方から受け取った見積書や請求書、領収書、取引明細、銀行通帳といった紙の書類です。
今は、見積書や請求書といったものを手書きしている方はごく少数派だと思います。Excelなどの汎用アプリケーションを使用したり、販売管理ソフトなどの専用アプリケーション、最近はクラウドサービスを使われる方もいらっしゃるでしょう。また、消費税が導入されて以降、会計処理も手書きで行っている方もほぼいらっしゃらなくなりましたが、これら社内でパソコンを使って作成した見積書、請求書等や会計帳簿などについては、従来、全て印刷して紙で保存しておく必要がありました。
しかしながら、2022年1月1日以降は印刷して紙で保存しておく必要がなくなり、パソコンにデータのまま、また、専用アプリケーションの場合はそのアプリケーションのデータのまま、クラウドサービスを利用しているのであればクラウドのデータのまま保存してくことが認められるようになりました。これは書類の管理が容易になるため大変うれしいことで、今回の電子帳簿保存法の改正によって私たちが得られる大きなメリットと言えます。
ところが、逆に他の方から受け取るデジタルデータについては、今回の電子帳簿保存法が改正されたことによって最も煩雑になったポイントとなりました。
ペーパーレス化もあって、請求書、領収書、取引明細といった証憑類がオンラインで提供される場合も増えてきました。また、オンラインバンクなどは紙の通帳がないのが一般的です。Amazonや楽天といったオンライン通販の普及によって、受発注もオンラインで行うことも少なくありません。
これらオンラインのデジタルデータで提供される見積書や請求書、領収書、取引明細、銀行通帳は、従来、紙に印刷して保存しておいたのですが、それが認められなくなり、デジタルデータのまま保存しておくことが必須となりました。
一方、デジタルデータではなく紙で受け取った見積書や請求書、領収書、取引明細、銀行通帳はというと、今回の電子帳簿保存法の改正によって、スキャナーなどでスキャンしたり、写真で撮って保存しておくことが認められるようになりました。
店舗のレジロールや飲食店など注文を受ける紙の伝票など、大量の紙を保存しておくことに困っていた方にとっては、大変助かるお話かもしれません。
▼ポイント
- 自分で作成したデジタルデータの証憑類 → データのまま保存可(紙での保存も可)
- 受け取ったデジタルデータの証憑類 → データで要保存(紙での保存はNG)
- 紙の証憑類 → スキャンデータで保存可(紙のままでの保存も可)
改正に対応する「デジタル保存」の要件は何?
前述のように今回の電子帳簿保存法の改正によって、自分で作成したデジタルデータの見積書や請求書、領収書、会計帳簿などと、紙で受け取った見積書や請求書、領収書、取引明細などはスキャンしてデータとして保存することが認められるようになりました。
しかしながら、単にデータとして保存しておけばいいというわけではありません。ご存知のように、デジタルデータはあとから改ざんすることが難しくないため、保存してある見積書や請求書、領収書、取引明細、会計帳簿などに、そのようなことがされていないという担保が必要になってくるわけです。
そのために税務署は、デジタルデータを保存する場合には、国税庁が認めたタイムスタンプ(認定事業者一覧)をデジタルデータに付与するか、デジタルデータの修正・削除履歴が残るシステムまたはそもそも修正や削除ができないシステムの使用を求めています。
各社の競争によって、デジタルデータの保存システムは無料から比較的安価で提供されるサービスも多くなってきましたが、タイムスタンプについては、まだまだ安いとは言えない状況です。
そこで税務署は、「社内規程」を作成することによって、タイムスタンプやデジタルデータの保存システムを使わなくてもいい選択肢を提供してくれています。
国税庁では「社内規程」のサンプルとして「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」というWordファイルを公開(各種規程等のサンプル)しており、データ保存したオンライン取引情報を訂正・削除することを原則禁止することや、やむを得ず訂正・削除する場合の業務手順などが規程されています。タイムスタンプなどによってシステム的に改ざんを防止する代わりに、こうした社内規程による運用によって改ざんを防止する方法も認めるというわけです。
私としては、フリーランスをはじめとする小規模事業者の場合、社内規程を作成し、OneDriveやDropbox、Google ドライブといった保存・修正履歴が残るクラウドドライブの使用をお勧めしています。
組織がない個人事業主や一人会社の場合でも社内規程が必要なのか?と言いますと、必要です。国税庁では、個人事業者向けの「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」のサンプルも公開しており、日付の部分などを記入するだけで社内規程を作成できます。
なお、税務署は、デジタルデータを保存する際には、「日付」「取引先名」「金額」で検索できるようにしておくことも求めています。
電子帳簿保存法に対応したストレージサービスを利用する際には、そのサービスの利用方法に沿って保存すればいいのですが、修正履歴が残る一般的なクラウドドライブに保存する場合は、「20221031_(株)国税商事_110000」といったように、ファイル名に取引日・取引先名・金額を付けて保存するように指示されています。
ワークフローなどと一体になったシステムなどの場合は、さほどではないかもしれませんが、このストレージサービスやクラウドドライブに保存する作業は、実は、紙を裏紙などに糊で貼付し、ファイリングする作業より手間が掛かってしまいます。
▼ポイント
- デジタル保存する場合は、そのデータがあとから改ざんされていないことを担保する必要がある
- 具体的には、「タイムスタンプ」付与などのシステム的な対応のほか、「社内規程」という運用面での対応も認められる
- デジタル保存した情報は、「日付」「取引先名」「金額」で検索できる状態にしておく必要がある
個人事業主がとるべき具体的な対応策・お勧めの方法は?
そこで私からの提案は、まず、自分で作成したり、オンラインで受け取ったデジタルデータの見積書や請求書、領収書、取引明細などは、必ず、文字情報が入った「PDF形式」で保存しておくことです。理由は、ファイル内部の文字や数字をあとから検索できるからです。検索が可能であれば、ファイル名に取引日・取引先名・金額を付けて保存する必要はなくなります。
改正電子帳簿保存法ではスクリーンショットでもいい旨が記載されていますが、スクリーンショットの場合、PDF形式で保存していたとしても日付・取引先名・金額でファイル検索ができないため、ファイル名に取引日・取引先名・金額を付けて保存する必要が出てきて手間がかかりますのでやめた方がいいです。
紙をスキャンした見積書や請求書、領収書、取引明細などは、OCRなどで読み込みファイル名を自動的に付けてくれるサービスも出てきてはいますが、ファイル名に取引日・取引先名・金額を付けて保存するのが面倒な場合は、当面、紙のまま保存しておく方が楽なのではないかと思ったりします。
受け取った見積書や請求書、領収書、取引明細、銀行通帳などについてお話をしてきましたが、続いて、自分でパソコンを使用して作成した見積書や請求書、領収書などについてのお話をしますと、Excelなどの汎用アプリケーションを使用した場合と、販売管理ソフトなどの専用アプリケーション/クラウドサービスを使用した場合に分けたいと思います。
Excelなどの汎用アプリケーションを使用して見積書や請求書、領収書など作成した場合は、そのデータをそのまま上記と同じ保存・修正履歴が残るクラウドドライブに保存しておいてください。
一方、販売管理ソフトなどの専用アプリケーション/クラウドサービスを使用した場合は、まず修正・削除履歴を残す機能があるかどうかを確認してください。場合によってはオプションになっている場合もありますので、その場合は必ず修正・削除履歴が残るように設定をしておいてください。もし修正・削除履歴が残せない場合は、取引先に送付した書類と同じものをPDF出力して、上記と同じストレージサービスやクラウドドライブに保存しておいてください。
▼ポイント
- デジタルデータの証憑類は、ファイル内部の文字情報で検索できる「PDF形式」にしたうえで、保存・修正履歴が残るクラウドドライブに保存しておくのがお勧め
- 紙の証憑類は、当面、「紙のままで保存」しておくのが楽
「インボイス制度」へ向けての対応は?
改正電子帳簿保存法の施行まで1カ月を切ってまだまだ体制の整っていない12月上旬に突如、オンライン取引情報のデジタル保存の義務化については2年の猶予ができるというニュースが流れました(政府与党が発表した「令和4年度税制改正大綱」)。それを聞いた現場の方々は、私も含め「えー」という声とともに大きく安堵しました。「改正法は1月1日から施行されますが、対応しきれていなくとも2年間は許しますよ。でも、この2年間でちゃんと対応できるようになってくださいね」というわけです。
2年間というと2023年末までの猶予ができたということになるわけですが、その直前の2023年10月には「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」の導入が待ち受けています。
インボイス制度、つまり消費税のお話となりますと、個人事業主の場合は「そのときに免税事業者のままでいられるのか?」「課税事業者の選択をしなければならないのか?」という大きな選択を迫られるという問題があるのですが、基本的には課税事業者を選択せざるを得なくなるはずです。これについての説明の機会はまた別にいただくとして、消費税がかかる課税事業者のインボイス制度への対応について、ここでは触れたいと思います。
消費税の納税額は、原則として「納税額=預かった消費税-支払った消費税」となっています。預かった消費税は売り上げによって決まりますので、節税のための工夫の余地はありません。
一方の支払った消費税については節税の余地が出てきます。それは、インボイス制度が導入されてからは、いかにインボイスをきちんと集めるかということです。インボイスをきちんと集め、保存しておくことによって支払った消費税を最大化し、消費税の納税額を最小化、つまり、節税をすることができます。
近年、クレジットカードや銀行振込の明細、場合によっては交通系ICカードのチャージをもって経費として計上している方が目立っています。気を付けなければならないのは、これらはお金を支払ったという証明であって、経費支出を証明するものではありません。ましてやインボイスにはなり得ません。
紙であろうと、デジタルデータであろうと、請求書、領収書などのインボイスの保存が、インボイス時代における大きな節税のポイントとなるわけです。そして、その保存方法として改正電子帳簿保存法への対応が求められてくるわけです。
改正電子帳簿保存法を正しく運用していない場合、(2年間はなくなるようですが)青色申告の取消し要因となり得るという重い罰則が設けられていますが、単に罰則を受けないようにするというというためではなく、効果的な節税のためにこの改正電子帳簿保存法への対応を進めていただきたいと思います。
▼ポイント
- オンライン取引情報のデジタル保存の義務化については、政府与党の「令和4年度税制改正大綱」によって2023年12月末まで2年間の猶予が設けられる
- ただし、2023年10月には「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」がスタートするため、それに向けて、改正電子帳簿保存法に定められた証憑類の保存要件への対応を進めておくことが重要
請求書・領収書・取引明細をクラウド会計ソフトに貼り付けてみる
近年、クラウド会計ソフトを使用している個人事業主をはじめとする小規模事業者が増えてきています。クラウド会計ソフトは、プロの視点からすると、一般的なアプリケーション型の会計ソフトと比較すると処理速度が遅く、まだまだプロ向けの操作性もこなれていないため、使いにくいと感じてしまいます。
しかしながら、銀行やクレジットカード、キャッシュレス決済の取引明細を自動的に取り込むことができるので、補助簿作成ツールとしては、かなり高い評価をしています。
つまり、会計処理の全てをクラウド会計ソフトで行うのではなく、事業者に必要な会計情報を提供してもらうためという用途に限定したツールとして使ってもらうためには、かなり有用なサービスであるということです。
さらに、クラウド会計ソフトの多くは、取り込んだ銀行やクレジットカード、キャッシュレス決済の取引明細に、ファイルを添付することができる機能を持っていますので、私は、そこに請求書、領収書、取引明細をPDF化して添付してもらうという証憑類の整理法の導入を検討しています。
改正電子帳簿保存法を紐解くと、 最低限やらなければならないことは
- 社内規定を設置して、
- デジタルデータの見積書や請求書、領収書、取引明細などはデジタルのまま保存し、
- 検索できるようにしておくこと
――という3つ になってきます。
繰り返しになりますが、この3つの中で最も煩雑な作業が、3.の「検索できるようにしておくこと」なのですが、取り込んだ銀行やクレジットカード、キャッシュレス決済の取引明細に、デジタルデータやスキャンした請求書、領収書、取引明細を貼り付けるだけであれば、私がテストした限りでは、少なくとも、取引日・取引先名・金額を付けたファイル名で保存するよりは簡単だと思います。
また、取引明細はあるのに、請求書、領収書、取引明細が添付されていなければ、それの資料が不足しているということもすぐに分かります。
もちろん、銀行やクレジットカード、キャッシュレス決済を通じない取引もありますし、見積書や銀行通帳(明細)、契約書などは、個々の取引に添付できないものもありますので、それらはクラウドドライブに保存しておく必要はあります。
いずれにせよ、改正電子帳簿保存法は、(2年の猶予期間ができたとはいえ)2022年1月1日から施行、インボイス制度は2023年10月1日から施行されます。今のうちから、どのような方法で対応を進めていくのか? 自分には合っているのか? 2022年はテストをしながら紙からの脱却を図る年となりそうです。