「“払わなければ選挙に落ちるぞ”という金銭要求があった」。“新潟県議会のドン”とも呼ばれる星野伊佐夫県議(自民党長岡支部長)からの裏金要求を告発した泉田裕彦衆議院議員(新潟5区支部長)。星野議員側は「全くの事実無根」と否定、泉田議員からの“録音データ”が出た後も、改ざんなどを主張している。
こうした泉田議員の言動に対し、党長岡支部幹事長の五井文雄長岡市議らは6日、「著しい愛党精神の欠如がみられる」として、県連に新潟5区支部長の交代を要求。対する泉田議員も、県連に星野議員の除名を求める意向を改めて示している。
この問題を取材している政治ジャーナリストの青山和弘氏は「泉田さんについては、新潟県連の関係者の間に“必要な経費をあまり払ってくれない人だ”という評判がもともとあった。ただ、ここでいう“必要な経費”とは一体なんなんだ、という問題がある。つまり政党に使われたお金なら届出をすればいいが、領収書のいらないお金も混在しているのではないかということが、この問題の根深さだ」と話す。
「こうしたお金は国会議員が個人で持ち出す、という場合もあれば、党に泣きついて出してもらうこともある。逆に、地方議員の側が国会議員のために持ち出しているのに、国会議員がお金を回してくれず、“なんで俺たちだけ損するんだ?”みたいな思いを抱えているケースもあるようだ。そういう中で、“渡してしまえばなんとかうまくいく”という意味での“共犯関係”が横行している可能性は十分にあると思う。
私の取材に対し、ある自民党の元議員は”市議や県議は、口を開けば“払わなければ協力しない”とお金の要求をしてきた。そういうことを言われるのが嫌で、落選後は政治家を辞めた”と明かしていた。地方議員からすれば国会議員は憧れでもあるが、お金を持っているだろうという嫉妬もあって、“いじめてやろう”みたいな思いもあるのだろう、と。
もうひとつ私が聞いた話では“2000万渡せば当選させてやるよ”と言われて渡したら、その人にトンズラされてしまった。でも裏金だから訴えられなかった、ということもあったようだ。泉田議員も、初めから星野県議を告発する意図を持って会話を録音したのかどうかは分からないし、非常に曖昧なやりとりではある。ただ、何かそういうものを感じていて、“録っておいたほうがいい”と思ったということなのかもしれない。
例えば3日に公開された音声データの中に、星野県議とされる“ここで2000万や3000万出すのがもったいなかったら人生終わりだよ。そこなんだよ。大部分は領収書もらえるでしょ。これね、いちいち警察に報告してやるわけじゃねえんだから”との発言があった。会場費やビラにかかる費用だけでなく、人集め、もしかしたら選挙の票のためのお金も入っていたのではないかという疑惑は拭い去れない。
特に泉田さんの選挙区は、あの田中角栄さんの選挙区だし、星野さんは角栄さんの後援会の重鎮だった方でもある。いわば“古い政治”の代表みたいな地域だし、“当たり前としてやってきたことを、なんでこの泉田というのは断っているんだ?”みたいな雰囲気があったのかもしれない。どちらの主張に分があるのかどうかは分からないが、“とにかくお金が必要だ”という政治、選挙が新潟で連綿と続いてきた疑いは十分にあると思うし、そういう問題が明らかになったのが河井夫妻の事件だ」。
今回の騒動について、自民党本部はどのように見ているのだろうか。福田達夫総務会長は3日、「事実関係がわからないのでなんともいえないが、そういうことがあったとすれば、随分古い政治やっているなと思う、正直言って。そういう世界にもうすでにいない政治家たちが迷惑するなと正直言って思う」と突き放している。
青山氏は「自民党の場合は県連の力が強く、推薦された候補者を本部が了解するという形を取っているし、揉め事も県連が処理してきた。ただ、国会議員がいわば政治生命を賭けるような、これだけの告発をしているわけで、本部が“私は聞いていません“古い政治だ”と言っているだけ済まされないと思う」と指摘する。
「泉田さんはよく“変わり者だ”と言われるが、当選2回になったばかりの議員が、いわゆるアンタッチャブルな世界に手を突っ込み、パンドラの箱を開けてしまった。そこに対し、臭いものに蓋をしてしまうような対応はあり得ないし、それでは二度とこのような告発する人が出てこなくなってしまう。県連の言い合いを放置するのは、それこそ党の鼎の軽重が問われるし、深刻に真面目に受け止めていく必要がある。
特に岸田さんは“党を近代化する”と言っているわけで、これを機会に党改革に向けた勢いを示す必要がある。ここは党本部がしっかりと乗り出して、意気込みを見せてほしい。先ほども説明したように、地方には“ドン”と呼ばれるような人がいて実力を持っている、そういう構造そのものを断たないと、永遠に同じような状況が続いてしまう。音を上げてしまう県連も出てくるかもしれないし、こういうことは自民党に限らず、野党にもあるようだが、河井夫妻の事件もあって国民の関心も高まっている今こそ、そのチャンスなのではないか」。
カンニング竹山は「こういう問題は全国にあるんじゃないか、黙っている人もいっぱいいるんじゃないか。それを出しきらないと日本の政治は変わらないと思う」と苦言。ジャーナリストの堀潤氏も、「今回の問題は象徴的な話で、地元ではみんな問題は知ってるんですよ」と苦笑。
「地方議会に行くと、“何十年やっているんだ?”というような人たちがウヨウヨいる。僕もNHK岡山放送局にいた時代に取材をしていたが、一筋縄ではいかない構造だ。地域の産業に根を張った人たちの代表だから県知事たちも議会工作に苦労していたし、まさに血みどろの闘いだった。
国会議員が地方議員に頭を下げて協力を仰がなければ物事がなかなか進まない一方、地方議員が送り込んだ国会議員が取ってきた仕事を、地元の業者が請け負う、その時の仲介に地方議員がいる、というような、幾重にも絡み合った構造がある。ある国会議員によると、ベテランの地方の議員が“これで頼むよ”と持ってきた紙袋を見ると現金が入っていたので、“今はこう言うことやってはダメだ”“いいから、いいから”という押し問答をしたと聞いた。
そういう、持ちつ持たれつの関係の中で何とか成り立っている地域経済も存在するので、いきなりクリーンにしてしまうと、途端に困る業者が出てくることもある。若き美濃加茂市長が裁判で戦って身の潔白を主張しようとしているが、若い政治家の人が真っ向から戦おうとした時に押しつぶされてしまうという問題もある。内部告発者をちゃんと守るような社会環境であってほしいと思うし、イギリスにように同じ地盤から出られる回数を制限するなど、根を張らせないようにする工夫も必要なのではないか」。(『ABEMA Prime』より)