日大背任事件の本質

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日大の田中英寿元理事長の不正問題でその手口、金額が次々と暴かれています。このブログでは側近とも言われる元理事と医療法人の前理事長の逮捕の際に本丸は田中理事長とはっきり書かせていただいたのですが、あまり反応がなかった記憶があります。ある意味、反応がなかったことそのものがこの事件の背景だともいえるのです。

日本大学 NHKより

企業の背任行為もいまだ多いのですが、かつてに比べれば圧倒的に減りました。昔は数多の背任事件もマスコミを通じて公表されることは極めて限られたこともあります。どうしたかといえば企業の広報部や広報担当役員の力量次第で記事そのものをある程度握りつぶすことができたのです。

私が勤めていたゼネコンでも不祥事なんてぽろぽろありました。もちろんここでは書けませんが、そんなのはどうやってうまくマスコミとやり取りするか次第ですし、バーター的なケースもあったわけです。「今回の件はよろしく。次回はお宅に一番に情報を入れますから」と。

ところが東芝をはじめとする企業の不祥事が後を絶たず、日経ビジネスは面白おかしく年の終わりに「謝罪の流儀」を特集し、1月から12月までの謝罪を次々洗い出します。私は日経ビジネスを25年ぐらい毎号広告以外全ページ読破していますが、一種のシリーズものとしては個人的には一番頂けない特集だと思っています。今年はまだ見ていないのですが、無くなるのならそれは企業体質が少しずつでも改善してきたという証でもあるのでしょう。

では日大の不祥事はなぜ、起きたのでしょうか?中国新聞の社説に「大学経営の中心に位置する理事会は、田中容疑者ら一部のメンバーが仕切っていた。利権構造を生んだのは、『ワンマン体制』の弊害ではないか。誰も逆らえず、チェックも働かないガバナンス(組織統治)の欠如は深刻と言わざるを得ない」とあります。確かにその通りなのですが、ではなぜ、ワンマン体制なり利権構造が生まれる土壌があったか、ここが全てのポイントなのです。

田中元理事長はもともと日大相撲部でした。その相撲部は全国学生相撲選手権大会で歴代最多30回の優勝を誇る、とウィキにあります。つまり、そのクラブで栄光を勝ち得た人はまるで企業でいうエリート社員のごとくの扱われやすい構造が学校には多々見られるのです。特にそれは団体競技に多く、ラグビーやアメフト部の意見が通りやすい大学も多いでしょう。

一方、野球部はあまり派閥を利かせることはなく、体操や陸上になると個人競技ゆえに卒業したらさようなら、ということになります。企業もラグビー、アメフト部出身の場合、社内に非常に強い絆が自然と生まれ、先輩後輩というより師弟関係といったほうが良い身分制度が生じます。そこは絶対主義があり、年長者は権力があるのが当たり前になるのです。飲み会では先輩が上座、常にちやほやされ、乾杯の音頭を取るなど年功序列の不動の地位は確約されているのです。

私は母校の校友会に絡んでいますが、年次会議で「年功序列の弊害」について意見したことがありますが、スルーされました。もう一つ複雑にするのは日大のケースはともかく多くの大学で見られる付属の小中高校からの卒業生の実質支配体制です。これは様々な分析が出来、私もその渦中に巻き込まれているので私見を取りまとめたこともあります。人数的には大学卒が一番多く、大学が校友会の支配権を握りたいと思う一方、「校友愛」は下から上がってきた人の方が概して高く、また中学あたりから一緒になるとその結束力は完全なる派閥と化すのです。

つまり、学校運営は当然、卒業生の影響力が大きいのですが、その力関係は全くもってコテコテ、ベタベタの世界であり、いまだこんなことが起きているのか、という驚きの世界が平然と起きているのです。それを助長しているのが校友会に対する関心度の低さです。校友会や学校運営などは一般の人は卒業してしまえば無縁になりがちで、そこでどんな権力闘争が起きているか知るすべもないのです。これが実態です。

不人気で興味をひかない校友会や学校運営に於いて年功序列、団体競技の一部のクラブの声の大きさ、付属小中高校の団結力が生み出す学校運営は正直、いびつです。そこに大学の教授など学問を教える立場の人が関与することはほぼなく、卒業生にとって母校という死ぬまでその人について回る永遠不変のセピア色のファクトだけがひっそり残るのです。

では日大以外で不正の温床があるのかといえばないとは言えないはずですが、実際に不正という行為は母校にもないと信じていますし、もちろん、私たちが見えるような世界でもないということです。私学の運営とはいえ、膨大な税金が流れている事実を考えると透明性あるガバナンスという点で30年は遅れているのが学校運営だともいえそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月6日の記事より転載させていただきました。

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