少子化問題を考える①:出生率低下は経済成長にともなう不可避な人口動態

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1989年、日本の合計特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率の合計)が1.57に下がったのを機に、少子化対策は政府の重要なアジェンダの一つになった。しかしながら、有効な対策を打ち出せないまま、2005年には1.26まで落ち込み、2015年に1.45まで持ち直したが、再び低下し、2020年は1.34であった。

出生率の低下は、いまや先進国のみならず、地球規模の現象である。1960年の世界の合計特殊出生率(以下、出生率)は4.98であったが、2019年には2.4にまで低下した(The World Bank)。アフリカ諸国はまだ高い水準にある(2019年、4.6)とはいえ、1990年(6.3)以降減少に転じた(World Fertility and Family Planning 2020, the United Nations)。

昨年7月医学誌ランセット(The Lancet, July 14, 2020)に掲載された米国ワシントン大学保健指標評価研究所による世界の人口動態に関する論文は、2100年の世界の平均出生率を1.66と予測した。

人口の現状維持に必要な出生率(人口置換水準)は死亡率などによって国ごとに若干の差異が生じるが、これを一様に2.1とすると、22世紀には地球全体で人口減少が生じる。なかでも日本やタイ、スペインなど23カ国の人口は半分以下になり、また中国も48%の減少が見込まれるという(本論文の概要はBBC News Japan「世界の出生率、驚異的な低下 23カ国で今世紀末までに人口半減=米大学予測」2020年7月15日で読むことができる)。

国立社会保障・人口問題研究所によると日本の人口置換水準は2.07と2.1よりもやや低いので、減少率は予測よりもわずかに低いかもしれない。だが、ここで用いられた将来出生率は中位水準の1.44で計算されているため、低位水準の1.25を採用すると半分どころか3分の1以下になる可能性もある。

女性が子どもを産まなくなるのは、経済成長と生活の都市化に伴って生じる、言わば社会発展の帰結の一つだ。経済発展によって妊産婦や乳児の衛生環境、栄養状態が向上して、周産期や乳幼児の死亡率が低下すると、子どもを多く産む必要がなくなる一方、豊かさは女性の教育水準を引き上げ、社会進出を促して女性の晩婚化と出産抑制を引き起こす。しかも、学歴が生涯収入を左右するため、親の教育熱が高まり、家計の教育負担は増す。親は子どもの数を減らして負担を減らそうとする。

地球規模の人口減少は、アフリカなど発展途上国にも目覚ましい経済発展が波及して出生率が著しく低下するためだ。少子化は豊かな社会が避けることのできない人口動態なのである。

出典:1960年以降のデータは、World Bank, Fertility Rate 、それ以前はStatista, Fertility Rate を参考にした。

図1は、日本、韓国、フランス、スウェーデンにおける出生率の戦後の推移を示したグラフである。1950年代のフランスとスウェーデンが日本、韓国に比べてかなり低い水準なのは、これらの国では19世紀の初頭すでに出生率の低下が始まっていたからである。フランスでは1800年(4.41)に下降し始め、スウェーデンも1825年(5.08)から減少に転じている。

日本と韓国の少子化はフランスやスウェーデンよりも1世紀以上も遅れて始まったが、そのスピードは早く、わずか20年から30年で、人口置換水準を割るに至った。日本の推移で目を引くのは、1947年から49年までのベビーブームの後、1950年代に出生率が著しく下がっている点である。この低下は、戦後の食糧難、住宅難に対応し、国家経済と国民生活を安定させるための政策誘導、すなわち人為的にもたらされたものだ。

もっとも、日本の人口抑制策は、中国のような厳格な法制度をもって強制的に行われたのではなく、産児制限を促す「家族計画」運動を女性団体など市民社会を巻き込んで展開する一方、人工妊娠中絶を合法化するという緩やかな誘導策を採用した。ところが、この方法は非常に効果的で、グラフが示すように瞬く間に出生率が低下した。なお、1966年の著しい落ち込みは丙午のためである。1971年から1974年の第二次ベビーブームの間、出生率は2を上回ったが、その後は低迷したままだ。

人口減少にメリットを見いだす考え方もある。たとえば京都大学の広井良典教授は、日本の人口減少を成熟社会への入り口だとして積極的に評価する(RECRUIT, 2020.04.06)。

だが、少子化による人口減少は、経済成長を停滞させる一方、社会保障費を増大させ、社会自体を疲弊させる。高齢者ばかりの社会に希望があるとはとても思えない。出生率を大きく回復させることは望めないが、2.0に近づける努力は必要だ。事実、図1のグラフが示すようにフランスとスウェーデンはある程度の成功を収めている。

次回は、こうした成功例を参考に、出生率を上げるための方策を考えてみたい。

(次回に続く)