宮城県仙台駅から電車で30分ほどで行くことができる、日本有数の港町のある塩竈市。この塩竈で実施されたユニークな取り組みが「副業型ワーケーション」のテストマーケティングだ。副業型ワーケーションとは、ワークとバケーションの合間に副業をする新しい働き方のこと。自分が持っているスキルで地域に貢献することで、地域の人と関係性ができ、お金も稼いで帰れる新しいワーケーションの形だ。
今回のテストマーケティングは、宮城県のワーケーション推進プログラム「宮城県ワーケーションプログラム造成推進補助金」を活用したもの。塩竈市内の企業と、副業人材をマッチングすることで関係人口を創出する狙いや、ワーケーションの課題の1つである「コストの捻出」を検証する目的があるという。
参加者側の人材募集は、ハイクラスの副業人材を紹介する「シャルソンコンサルティング」が担当。シャルソンコンサルティングに登録している、高学歴で大企業のリーダークラスのポジションについている20〜30代の100名強に声をかけた。
そして集まったのは、大手コンサルティングファーム、大手広告代理店、ベンチャーキャピタルで働く3名。参加者に参加した目的や、副業型ワーケーションの感想を聞いた。
大手広告代理店のAさん–これを機に足繁く塩竈に通いたい
30歳男性(Aさん)が勤めている大手広告代理店は数千人規模の社員がおり、現在はリモートワークが主体だ。出社は月に1〜2回。平均すると9〜20時くらいまで働いているという。現在はまだワーケーションに関係する社内制度や福利厚生はなく、ワーケーションをしやすい環境ではないそうだ。
それでも参加しようと思ったのは、「いずれ独立をして東北の企業を支援したい」という思いがあるから。Aさんは青森出身で、青森や東北の企業と仕事をしたいとずっと思っていたが本業で関われる機会が少なく、今回のような東北の企業の人たちと膝を突き合わして話せる機会を探していた、とのこと。
「今回参加してみて、僕がお手伝いできるイメージ、副業につながるイメージが浮かんだ。一方で、きちんと報酬をもらえるところまでいくには、もっと信頼関係を築かないといけないと思う。というのも、僕も地方出身なので分かるが、どうしても閉鎖的というか、仲良くならないと身構えてしまう。その壁を壊すには足繁く通ったり、対面で話したりすることが大切。これを機会に定期的に塩竈に通いたい」
ベンチャーキャピタルのBさん–次回は長期でワーケーションしたい
ベンチャーキャピタルで働く28歳男性(Bさん)の場合は、投資先などとの面談や、インドなど時差がある海外との面談も多く、普段は24時近くまで働いていることもあるそうだが、もともと会社がワーケーションを推奨しており参加のハードルは低かったという。会社としてワーケーション文化があるからこそ、次は長期で塩竈に滞在したいと語った。
「家でずっとリモートワークをしているとダレてしまうこともあるので、環境を変えて仕事するのは楽しい。面談はWi-Fi環境次第なところがあるので、場所によっては難しいが、資料作成や作業系が進んだ。今回は4日間ということもあり、詰め込み型のワーケーションだったが、次に来るときは1カ月や2週間のロングバージョンも良いなと思った。基本は本業のリモートワークをベースにして、合間に塩竈の企業とミーティングをする。企業によってはハンズオン(経営に深く関わる)で一緒にやっていくのも良いかもしれない」
外資系コンサルのCさん–旅しながら地域貢献できる仕組みに可能性
29歳女性(Cさん)が勤めている外資系コンサルティングファームは1万人以上の社員がいる。コロナ禍でフルリモートとなり、オフィスには2年行っていないという。コンサルタントはプロジェクト制で動く職種で、自分の裁量でスケジュールを調整できるのでワーケーションは少なからず浸透しており、実践している同僚もいるそうだ。
Cさんの会社ではフレックス制度が導入されているため、今回のワーケーションは基本は有給休暇としながらも、業務をした時間分を申請した。参加目的は、ワーケーションを経験してみたかったことと、副業に興味があったためだという。
「地元の企業とディスカッションをしてみて、地方ってこういう課題を抱えているんだという発見や、自分がこの土地を変えていけるかもしれない、という期待感を持てた。塩竈を良くしようと思って熱量持って頑張っている人たちと話をしてみて、旅行をしながら地域貢献できる仕組みは可能性があると感じた。今回は平日に地元企業とのディスカッションなどがあり、本業の仕事をする時間があまりなかったが、平日は本業、土日に副業という形であれば私のライフスタイルにすんなり取り入れられそう。第2回目の塩竈ワーケーションがあったらまた来たいと思った」
地元事業者の声–チャンスがあれば長期間で副業をお願いしたい
最後に、ワーケーション参加者とディスカッションをした地元の事業者側にも話を聞いた。
「これまで専門家に意見を求めたことがなかったのでとても参考になった。まずは自社の基盤をつくり、会社の数字を見つめ直して今回の出会いを次につなげられたら嬉しい。タイミングや条件次第だが、チャンスがあれば副業として1年間くらいの長期間でお願いしたい。今回は第一線で働くその道のプロに同時に相談できたが、そういった貴重さなどを一旦取り除いて、月間5〜6万円くらいでお願いできれば」(さとう精肉店)
「出てきたアイデアを何か1つでも形にできたら。皆さんアイデアがすごくポジティブで、今までにないアイデアも多く楽しい時間で、日本の未来は明るいと思った。“友だちがつくったニンジンです”、というやりとりは都会の人でも身近にあるかもしれないが、“友だちが作ったわかめです”はなかなかないと思う。ワーケーションを通してこうやって関係性が築けると、わかめに対して興味も持ってもらえるし、友だちが作ったわかめのような感覚で食べてもらえる。わかめの養殖や収穫は初めての人でも簡単に体験できるので、こういう機会を増やしていけたら」(シーフーズあかま)