ベトナム、バチカンとの関係を前進

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韓国、フィリピンと共に“アジアのカトリック教国”と呼ばれるベトナムはローマ・カトリック教会の総本山バチカン市国とはこれまで外交関係はなかったが、ここにきて両国関係は着実に前進してきている。

ベトナム南部の港町ブンタウにある高さ32mのキリスト像(バチカンニュース独語版2021年11月12日から)

バチカンニュースが12日報じたところによると、ベトナム当局は教区「モクチャウ」を正式に承認したという。ベトナムは共産党が統治している国だ。信教の自由と宗教は憲法に明記されているが、宗教コミュニティは長い登録手続きを含む多くのハードルに直面している。教区「モックチャウ」が位置するベトナム北西部のソンラ県では、宗教活動は長い間当局によってほぼ完全に拒否されてきた。

バチカンニュースによると、教会活動が開始されて30年後にモクチャウ「教区」に認知されたことを受け、「ハングホア教区の教区管理者ピーター・グエン・ヴァン・ヴィエン司教は今月6日に教区でミサを祝い、名誉司教のジョン・マリー・ヴ・タット、21人の神父たち、そして地方自治体の代表者や仏教徒を含む多くの人々が出席し、小教区に大きな花束を贈った」という。新教区には今日、小教区に240の家族が属し、4つの小教区に885人のメンバーが所属し、異なる地区に2つのミッションステーションがあるという。バチカンがベトナムでの「教区」認知を大きく報道したのは、ベトナムとの関係が急速に改善されてきた象徴的な出来事と高く評価しているからだろう。

ベトナムとバチカン両国関係は、ベトナムで1975年、共産党政権(社会主義共和国)が樹立して以来、途絶えてきた。ベトナム人口9730万人のうち約800万人がローマ・カトリック教徒と推定され、同国はフィリピン、韓国と共にアジアのカトリック国に入るが、バチカンとベトナムの両国関係は過去、険悪な関係だった。両国間には司教任命問題や聖職者数の制限問題などが山積していた。キリスト教会の活動は厳しく制限され、聖職者への迫害は絶えなかった。ただし、両国は1990年代以降、外務次官級の代表団を相互派遣し、司教の任命を含む教会の問題について年に1、2回交渉してきた。

両国の関係が急速に動き出したのは、ベトナムのグエン・ミン・チェット国家主席(当時)が2006年10月、ベトナム司教協議会メンバーと会談し、国内の活動状況や国交問題について意見の交換をした頃だ。国営ベトナム通信によると、国家主席は当時、「共産党と政府は今後、国民の信仰、宗教の自由を尊重する」と確約したという。それを受け、べネディクト16世が2007年1月25日、教皇庁内でグエン・タン・ズン首相と会談し、09年12月11日にはグエン・ミン・チェット国家主席をバチカンに招いている。

最近では、グエン・タン・ズン首相が14年10月、バチカンを再訪し、フランシスコ教皇と会談。15年1月には今度はバチカンから福音宣教省長官フェルナンド・フィローニ枢機卿がベトナムを訪問し、グエン・タン・ズン首相と会談した。ズン首相は当時、「わが国では宗教の自由が保障されている」と強調し、バチカンとの政府レベルの交流を歓迎している。

ベトナム政権は3年前、司教を任命する際にバチカンが望む候補者を政権が承認しなければならないという法を施行した。それを受け、バチカン教皇庁は2019年にホーチミン市の新しい大司教を任命することができた。また、フランシスコ教皇は先月30日、バクニン教区の共同司教を任命したばかりだ。

ベトナム共産党政権はここ数年、国民の宗教生活に関心を示し、信仰の自由を次第に尊重する政策に軌道修正している。その理由は、国民経済の発展のために国際社会への再統合を目指すという同国政府の狙いがあると受け取られている。一方、バチカンにとって、ベトナムはフィリピン、韓国と共にアジアのカトリック国であり、バチカンのアジア宣教にとって非常に重要な国だ。両国の狙いが一致しているわけだ。

ベトナムは近年大きな経済発展を遂げており、同じ共産主義国の中国と比較されるが、バチカンとの外交交渉では、中国共産党政権は終始主導権を握っている一方、ベトナムはバチカンとの人的交流を重点に置き、相互信頼の土台構築に努力を払っている。

参考までに、中国共産党政権はベトナムと同様、バチカンとは国交を樹立していない。中国外務省はバチカンとの関係正常化の主要条件として、①中国内政への不干渉、②台湾との外交関係断絶、の2点を挙げてきた。中国は1958年以来、聖職者の叙階はローマ教皇ではなく、中国共産党政権と一体化した「中国天主教愛国協会」が行い、国家がそれを承認してきたが、2018年9月、バチカンと司教任命権問題で暫定合意(adexperimentum)し、昨年10月22日、同合意内容は2年間、暫定的に延長することになった。

ただし、バチカンと中国間の合意では、「ローマ教皇が中国側から推薦された聖職者の中から司教を選ぶ権利」が記述されていたが、中国共産党政権の「国家宗教事務局」がカトリック教会を含む宗教団体の聖職者を管理統制する新規則(正式名・宗教教職者の行政措置)ではその点は全く言及されていないことから、「バチカンは中国共産政権に騙された」と受け取られている。

最後に、ベトナム南部、南シナ海に面した港町ブンタウにはアジア最大のキリスト像(Truong Thanh Gioc、高さ32m)が立っている。国内外の観光客が訪れる名所だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。