嫌なことがあって、うさばらしに中村屋のホームページを見ていた。中華まんやカリーで有名なあの中村屋だ。たくさんの中華まんに心癒されていく。
癒やされながら、中村屋には価格帯別になんと4種類もの肉まんがあるらしいことを発見した(こちらは2007年現在時点の情報で、再公開の2021年は様相が変わっているようです)。
私が食べつけている一般的な肉まんの上に3種の価格帯の肉まんがあるというのだ。これは食べ比べねば! 思い立ち問題の肉まんを買い揃えると、私は山へ向かった。……山?
※2007年2月に掲載された記事の写真画像を大きくして加筆修正のうえ再掲載しました。
山に登りながら肉まんを食べ比べる
池袋から西武線で1時間強。西武秩父線の高麗駅にやってきた。
今日はこの高麗駅から歩いてアプローチできる、多峯主山という標高271メートルの山に登ろうと思う。
大変な好天にめぐまれ、まさに登山日和だ。登山だと覚悟して厚手のブルゾンを着てきたが、きっと途中で脱ぐんだろう。
……まてまて。肉まんはどうした。
すっかり登山レポートになってしまったが、今日の記事のメインはあくまでも肉まんの食べ比べなのだった。
山と肉まん。どういうことか。説明させてください。
最初に書いた通り、中村屋には価格帯別に4種類の肉まんがあり、今日はそれを食べ比べようと思う。
が、私はやや味オンチの気があるのだ。4種類の価格差を正確に噛みしめ感じることができるかはなはだ不安だ。
味を感じるのが難しいなら、何か別の方法で、その価格の高さを感じることができないだろうか。
ピコーン!
そのとき思いついた。山に登りながら、肉まんを食べてはどうか、と。山頂へと登りながら、徐々に高額の肉まんを食べていくのである。
標高の高さとともに、肉まんの高さも体で感じられるのではと思ったのだ!
肉まん登山、開始
そういったわけで、山登りである。やってきた埼玉県日高市、実は私の実家の近所だ。登山は実家で肉まんを蒸すことから始まった。そういう登山のかたちも、ある。
蒸した肉まんにお手ふきや水筒もリュックへ。準備は万端だ。
高麗駅から多峯主山の入り口へ行くために、まずは住宅街を登る。このあたりはもともと山だった斜面がいわゆる新興住宅街になっており、斜面にみっちり3,000軒もの住宅が建っている。
20分ほど住宅街の傾斜を登り、山の入り口前にある公園で最初の「肉まん」93円を食べることにした。
標高189m 中村屋「肉まん」 90円(税込み95円) 104g
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いつもの肉まんだ。こどものころ、朝ごはんや夜食に食べた味。
ジャンクフードを称える表現に「薬っぽい味」というのがあるが、まさにそんなおもむきがある。
うまい。外で食べるから余計に美味しいのかもしれない。
コンビニで買い食いしたり、肉まんは外で食べるのが結構似合う。
いざ入山、続いて標高243m付近を目指す
とりあえずは、ただ外で肉まん食べたな~~というのが感想だ。ここから、山の高さでもって肉まんの高さを味わっていきたい。
多峯主山の標高は271m。ここからさらに82m登ったところが山頂となる。
82mってものすごく低そうだが、縦にすると27階建てのビルぐらいらしい。え、そんなに登んのか!
びびりながら、高度216m、243m付近で中間の価格帯の肉まんを食べることに決めた。
熊が出たんだって
登山の前に驚いたことが一つあった。駅で熊よけの鈴が売っていたのだ。出たんだそうである。熊さまが。
実家にいた妹によると、自宅のかなり近所の谷に出たそうだ。
最初気軽に1人で登るつもりだった(肉まんを独り占めにするというもくろみもあった)が、恐ろしくなってやむなく家で暇そうにしていたその妹に同行願うことにした。
「熊は、遭遇してどうするといういうよりもまず遭遇しないようにすること」妹は言う。
ここに人がいますよ、という信号を常に熊に送っておくとよいらしい。鈴を鳴らしたり、大きな声でしゃべったりなど。
冬場だし冬眠しているのではと聞くと、妹は突然精悍な顔つきになって「暖冬だから、分からないね」といった。
家族内でもお調子者の三女だが、熊への警戒心は人一倍強い。
あれこれしゃべりながら進むうち、、高度計が次の肉まんポイント216mを示していた。試食タイムだ。
標高216m 中村屋「特撰上肉饅頭」150円(税込み158円)107g
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さきほどの「肉まん」から値段60円、重量は3gアップ。量はそれほどでないので質の面で違いがありそうだ。
食べてみると、肉にゴロゴロ感が出た。他の具も全体的に一回り大きくなったか。
独自のあの味つけはそのままである。
報酬としての高級肉まん
2個目ですでに「山を登れば良い肉まんが食べられる」と体が理解したのを感じる。労力により、より良い肉まんが与えられる、理屈としてのわかりやすさがある。
登山で高級感を思い知る。あながち間違った取り組みではないのかも知れない。
山道は続く。高度計を見ながら、「あと何メートルで次の肉まんだよ」、と妹に声をかけながら歩いた。
標高243m 中村屋「天成肉饅」250円(税込み263円)138g
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高さのあるきれいな形のお饅頭だ。
ぐっと重量がアップした。食べごたえが、おやつではく食事の域に入ったのを感じる。
先ほどからまたさらに具が大きくなった。肉なんか、肉だんこか? というゴロっとしたのが入っていた。皮も分厚くてしっかりしており、さすがの貫禄。
ただし味付けはやはりあの味だ。ほっとする。
まさに「ご褒美」
この「天成肉饅」、本来だったら中村屋の肉まんとしては一番高い肉まんである。それだけに、重量感といい、具の大きさといい皮といい、さすがの一品だった。まさに「ご褒美」である。
さあ、そろそろ登頂しますよ!
標高271m 中村屋「黒豚肉饅」300円(税込み315円) 135g
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他の肉まんよりも一回り外周が大きいが、高さはあまりなく平べったい。
これまでかたくなだったあの中村屋独特の味つけがここにきて変わった! 黒豚に合うよう、醤油ではなく塩味にしているらしい。なるほどさっぱりしている。
具も、大きくはないが肉のやわらかい筋を感じる。これまでの肉まんとは別路線といってもいい味わい。
肉まんが「身についた」
ぶはー。最高だ。これは。
登山と肉まんというと行為と食べ物の組み合わせとしてはあまりポピュラーではないが、かなり合うことがわかった。手軽だし、肉まんは実は冷めてもとても美味しい。
山頂には平日の昼に意外にも先客が何人かいたが、肉まんを食べる私たちは自慢するような気分だった。
さて、高い肉まんのありがたみを体で感じるというのが今回 食べ比べに登山を引っ張り出してきた理由だったわけだが、これについて気づいたことがある。
登頂には当然時間がかかる。登る前に食べるのと、登頂したあとに食べるのとでは、時間差がかなりあるわけだ。
つまり、高い肉まんほど、食べるのが後回しになるのである。なかなか食べられないのだ。
手ごろな価格の肉まんを乗り越えなければ見えてこない高級な肉まん。積み重ねて得た高級肉まんは、鍛錬して身につけた能力のようだ。
山に登りながら徐々に高い肉まんを食べると、「肉まんが身につく」といえるのではないか。
「肉まんが身に付く」ってそれは一体どんな状態だ。
普通、何かを食べ比べるときは口を水でゆすぎながらメモを取り取り交互に食べる。
単品食べては山を登るとなると各肉まんを食べる間に時間があいて「食べ比べ」としては認知が機能しないのではないかというのが、事前の懸念であった。
が、思い返すと、疲れたありがたみからかじっくり肉まんを味わえたように思うのだ。五感が冴えて味の違いもよくわかった。
登山で私はやっぱり「肉まんを身に付けた」のかもしれない。