赤ちゃんアザラシは「周囲に理解されやすいように声を変える」という珍しい能力を持つことが判明

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人間は周囲の環境音を考慮して声の音量や高さを変化させますが、実は哺乳類でこのような能力を持つ動物は非常に珍しいとされています。新たな研究では赤ちゃんアザラシを対象に調査を行なったところ、赤ちゃんアザラシは生後1~3週間の時点で同様の能力を持つことが示されました。アザラシの持つ発話能力への理解が深まることは、人間の発話能力の進化をひもとく鍵になると考えられています。

Vocal plasticity in harbour seal pups | Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstb.2020.0456

Baby seals change their voices to be understood, study finds – CNN
https://edition.cnn.com/2021/11/02/world/baby-seals-vocal-learning-study-scn/index.html

人間は声の高さを高くしたり低くしたりと調整することができ、この能力をコミュニケーションに利用していますが、実は同様の能力を持っている哺乳類はほとんど存在しません。これまでに同様の能力が確認されているのは、ゼニガタアザラシの成獣などごく一部の哺乳類のみでした。

マックスプランク心理言語学研究所のAndrea Ravignani氏によると、鰭脚類は音声の進化発達・多様化という面において他の動物よりも人間と近いとのこと。このため鰭脚類がどのように音声について学習するのかを学ぶことで、人間がどのように発話能力を手に入れ、現代に続く「おしゃべりな」生き物となったのかについての理解が深まるとRavignani氏は考えています。

そこでRavignani氏ら研究チームは、オランダにある野生動物の保護機関Seal Rehabilitation and Research Centreで飼育される赤ちゃんアザラシ8匹を対象に調査を実施。8匹のアザラシは生後1~3週間で、いずれも保護され、野生に返される前の個体でした。


研究チームはまず、オランダのワッデン海でアザラシの声を録音。その後、録音した音声を、アザラシの子どもが母親を呼ぶときのフォルマント(周波数帯)に合致するよう専用のソフトウェアでフィルタリングしました。施設内の赤ちゃんアザラシに録音した鳴き声をゼロから65デシベルという音量で、三方向から45分間かけて聞かせたところ、赤ちゃんアザラシたちは録音音声に自然と答えるようになったとのこと。

このとき、赤ちゃんアザラシは波の音が大きくなるとピッチを下げ、ノイズが強くなるとピッチを安定させることが確認されました。騒音下において声を張り上げるなど、環境音の聞こえ方をフィードバックとして利用し発話を制御することは「ロンバード効果」と呼ばれ、人が「周囲に理解されやすいように話す」ときに行なうものだといわれています。

生後数週間で発話のコントロール能力を得ている哺乳類はほとんどおらず、この調査結果はアザラシの子どもが想定よりも高度に発話をコントロール可能であると示すものだと評価されています。研究チームは今後さらに、アザラシの声の変化にとって何が重要な要素なのかという研究を行っていくとのことです。


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