9月16日の中国に続き、台湾は9月22日にTPP(環太平洋経済連携協定)への加盟申請を行った。中国は、台湾が加盟申請したことに対し、ただちに、「台湾は中国の不可分の一部であり、もし台湾が中国との『統一』を拒否し続けるならば、中国は台湾に侵攻する」と威嚇した。この言い方は台湾についての中国の最近の常套句そのものである。
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TPPへの加盟資格は、11の現メンバー国が賛成することであり、現段階では、11カ国が中台双方の申請に対し、如何なる対応を取ることになるのか明白ではない。中国がいずれかの加盟国に対し台湾の加盟に反対するよう呼び掛けたり圧力をかけることは、いかにもありそうなことである。
TPPの加盟申請について議論をする時には、約20年前の世界貿易機関(WTO)加盟のことが想い起こされる。WTOへは中国、台湾がほぼ同時期に加盟することが認められた(中国は2001年12月、台湾は2002年1月)。
中国としては、今日の中国の経済力、軍事力から見て、20年前のケースは今回のTPPのケースには当てはまらない、と言いたいところなのだろう。台湾に対する、中国からの威圧は最近特に強まっており、中国は「報復」と称して、輸入を禁止したり、軍事力を見せつけるために、台湾周辺海域を軍機が威嚇飛行を行ったりしている。
台湾外交部(外務省)は、中国からの非難に対し、台湾は台湾であり、中華人民共和国の一部ではないと述べ、中華人民共和国は一日たりとも台湾を統治したことはない、と反論した。そして、台湾の人民が選んだ政府だけが、台湾を代表して国際機関や地域経済連携協定に参加できると牽制した。
それに加え、台湾としては、今日の中国の貿易体制がはたしてTPPの要求する高いレベルの条件を満たすことが出来るのか、強い疑念を抱かざるを得ないとして、中国に反撃した。なお、蔡英文総統は台湾としてはTPPの「すべてのルールを受け入れる用意がある」と述べている。
日本は、これまで高度の経済力、技術力をもち、民主主義の価値観を共有する台湾を、日本にとっての「重要なパートナー」として位置づけ、台湾がTPPに加盟することを支持するとの立場を維持してきた。茂木敏充外相は台湾の加盟申請の発表に対し、直ちに「歓迎」の意を表明したが、その際、「中国の加盟にとっては、高いレベルの条件を満たすだけの用意が出来ているかどうかしっかり見極める必要がある」旨発言している。
今年は日本がTPPの議長国の年にあたっており、日本としてアジア太平洋における台湾の占める位置を考えた際、台湾のTPP加盟を支持・歓迎するのは当然であろう。日本が台湾のTPP加盟を実現するよう主導することは日本にとっての「喫緊の課題」である。
中台ともに短期間で結論は出ない
トランプ政権下でTPPを離脱した米国がTPPに復帰することは、日本を含め、メンバー国の等しく期待するところである。バイデン政権は、中国、台湾の加盟申請については、民主主義の価値を共有する台湾の加盟を支持する、と述べた。他方、中国の加盟については、「非市場的な貿易慣行」を持つ、として、中国が加盟のハードルを簡単に超えられないのではないか、との疑いをもっているようである。
最近、米国の主導する「クアッド(QUAD)」や「AUKUS」というアジア・太平洋地域の新しい安全保障の枠組みがその活動を開始した。このような環境下で、アジア太平洋全体の経済、安全保障を考えるとき、米国がTPPに出来るだけ早期に復帰することが望まれることはいうまでもない。しかし、バイデン政権としては、これまでのところ、米国のTPPへの復帰については、沈黙を守っている。
中国の貿易慣行、国営企業に対する優遇措置、知的財産権の処理などを勘案すれば、TPPの高いレベルの条件を満たすことは極めて難しく、中国の加盟申請が簡単に認められることは想定しがたい。今回の中台双方の申請には、多くの難問があり、今後行われるであろう各メンバー国による具体的交渉のことを考えれば、短時間に結論の出るようなものではないかもしれない。
しかし、TPP加入を長年の課題としてきた蔡英文政権にとっては、中国と対比される形で、基本的価値を守り、ルールや秩序を維持する台湾の役割が世界に再認識される上で、一つの好機到来と考えているかもしれない。