外国の市場を歩くのが好きで、海外に出ると必ずその町のできるだけ大きな市場に直行しては、所狭しと並べられた異国の食材にワクワクさせられていた。中でも果物は旅先でも手軽に食べられるので頻繁に購入していたものだ。
先日、三重県の道の駅で見たことのない果物が売られているのを見つけて、久々にこの胸の高鳴りを覚えたため、さっそく購入して食べてみることにした。名前をポポーという。
見た目は紫色に熟す前のアケビのようである。
ポポーとはいかにも気の抜けた南国チックな名前だと思ったが、原産地は南国ではない。明治時代に北米から日本に持ち込まれて、以来各地でほそぼそと栽培が続けられているらしい。
箱に貼られた注意書きには「ポポーは食べ頃になると独特の強い芳香を放ち始めます。この香りが十分に出ていて、軽く押さえた時に少し弾力を持って凹む位になれば食べ頃です」
とあった。
なるほど、柔らかくなるまでほっておけばいいのだな。
ほっておいてもよいとなると、ついほっておき過ぎてしまうものだ。
はじめのうちこそ一日一回指で押さえて様子を見ていたものの、なかなか変化が現れないのでうっかり2週間もほっておいてしまった。
久々に見るポポーは、夏休み明けの水泳部員のように黒くなっていた。
恐る恐るつついてみた結果、モッツァレラチーズのような程よい弾力があることがわかった。移り気な私をよそに、ポポーはすっかり熟して待っていてくれたのだ。
さて、このポポー。二つに切ってスプーンで中身をほじくりながら食べるのがセオリーらしいのだが、大きくて固い種が実の中心に並んでいるので、包丁で真っ二つにすることはできない。
皮にぐるっと一周切れ目を入れて、実をねじり切るようにして二等分した。アボカドを二つに切るところを想像してもらうといいと思う。
ねっとりとした干し柿みたいな味だ。種の周りにぬるぬるした膜みたいなのをまとっているところも柿みたい。
なら柿を食べればいいのでは?という思いが頭をよぎるけれど、ドロドロになるくらい熟した部位はパッションフルーツみたいな香りがする。
場所によってまだ固くてスプーンで歯が立たなかったり、かと思うと熟しすぎて舌がぴりつくほど甘かったり、やる気にムラがあるようで親近感を覚える。