派閥の力学で動く国会議員票が優先されてしまう
自民党総裁選は前政調会長の岸田文雄氏(64)が勝った。岸田氏は、10月4日に召集される臨時国会で第100代の日本の首相に指名され、新内閣を発足させる。
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総裁選の1回目の投票の党員・党友票を見ると、110票の岸田氏に対し、河野氏が169票と大差をつけていた。しかし、党員・党友に人気があっても派閥の力学で動く国会議員票を多く獲得できなければ、2回目の決選投票では勝てない。
自民党の総裁選は事実上、日本の首相を決める選挙だ。それにもかかわらず、私たち国民の感覚に近い党員・党友票よりも、派閥の力学で動く国会議員票が優先されてしまう。一般の国民が自民党の総裁選に参加できない以上、自民党は党員・党友票をもっと重視し、総裁選のやり方を改革すべきではないか。
安倍氏の支配から抜け出さない限り、国民の支持を失う
今回、自民党の多くの国会議員が、党内秩序の安定を求めて岸田氏という勝ち馬に乗った。国民人気は河野氏のほうが高い。河野氏が総裁になれば、衆院選は自民党にとって優位になるはずだ。一方で、河野氏が総裁になれば、これまでの派閥の力学が壊されるかもしれない。自民党の国会議員たちは、自民党の議席が増えることよりも、自身の立場が変わらないことを選んだといえる。
振り返ると、前首相の安倍晋三氏の力の強さと派閥の力学を目の当たりにした総裁選だった。自民党は安倍氏の支配と派閥の悪弊から抜け出さない限り、国民の支持を失っていく、と沙鴎一歩は思う。
前日の28日夜に岸田氏と前総務相の高市早苗氏(60)の両陣営の幹部が会談し、どちらかが決選投票で河野氏と対決することになった場合、協力し合うとの申し合わせまで交わしていた。呆れた話である。裏で工作したのは安倍氏だろう。これが安倍氏の力であり、派閥の力学である。自民党の悪しき体質だ。私たち国民の意思などどうでもいいのである。
思い出すのが、安倍氏が勝った2012年9月の総裁選だ。あのときは安倍氏が1回目の投票で、党員・党友票に強い元幹事長の石破茂氏に敗れたが、決選投票では国会議員票を固めて逆転勝利を収めた。安倍氏は引き続き、院政を敷こうと画策している。そのことは9月22日の記事「『これは古い自民党との戦いだ』河野、小泉、石破連合は“安倍支配”を本当に打ち破れるのか」でも触れた。
「なんでこんな落差が生まれるのか」と石破氏
総裁選の出馬を断念して河野氏支援に回った石破氏は総裁選後、河野氏が敗れたことについて記者団にこう話していた。
「都会とか地方とか関係なく、多くの地方の支持をいただいたにもかかわらず、国会議員票が思うように伸びなかった。自分としてできる限りのことはやって、結果を出せなかったのはとても残念だ」
「なんでこんな落差が生まれるのか。自民党全体としてよく考えなければいけない」
1回目の河野氏の党員・党友票は候補者4人の中でトップの169票だったが、国会議員票は86票で、岸田氏、高市氏に次ぐ3位だった。石破氏が指摘する党員・党友票と国会議員票との「落差」はなぜ生じるのか。自民党はその根底にある安倍氏の支配や派閥の力学を解消すべきである。