民主主義社会のトップは斯く選ばれ、斯く退場する

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ここ最近の国際社会のトップ交代劇最大の話題といえば、昨年11月の米大統領選挙に先ず指を折る者が多かろう。コロナ禍を理由に郵便投票や期日前投票などを無分別に広げたために投票数が前回から約26百万票(21%)余りも増え、15百万票(23%)を上乗せした民主党バイデンが接戦州を悉く制して勝ったことを、ネットは不正選挙とし、主流メディアはそれを否定した。

以来、共和党市長の各州は、投票時の身分証明(ID)提示などを謳う選挙法改正を相次いで行っている。が、民主党は選挙権拡大や政治資金規正などが骨子の「人民のための法」なる連邦法を提案し、与野党対立が先鋭化している。民主党は共和党州の改正を、ID不所持が多いマイノリティーの排除と難じるが、それをいうなら先ずIDの普及に努めるべきだろう。

この選挙結果が未だ尾を引いているのは、共和党が議会多数のアリゾナなどで投票の数え直しが行われていることや、1月の国会議事堂乱入事件の真相究明が9.11方式で行われることなどで知れる。そして何より、選出された正副大統領の老いと無能に伴う政権担当能力が、アフガン撤退や南部国境からの歯止めのない不法移入者などで問われている。

筆者は不正ともいわれるこの選挙の真相解明が、共和党のナヴァロラトクリフ国家情報局長の報告でも決定的でないことや、バイデンが諜報機関を使って武漢ウイルス研究所から新型コロナウイルスが漏洩したことを90日以内に調査すると啖呵を切った結果が期待外れだったことに落胆し、米国のこの大騒ぎの真相と諜報機関の能力とに疑念を懐く。

大統領選では韓国も来春の選挙に向け予備選の候補者選びを始めた。9日発表のリアルメーターによると、与党「共に民主党」は李在明京畿道市長が27%で李洛淵元首相が13.7%、野党「国民の力」は尹錫悦前検事総長が24.2%で洪準杓議員が15.6%だ。聯合ニュースは、洪は「支持率を急速に上げており、今回の調査でも7.5%ポイント上昇」したとする。

李洛淵は議員辞職して意欲を見せるが、高じると命まで賭す国民性だけに却って不安。尹錫悦にも与党からとされる疑惑がネットに流されるなど情報戦が始まった。脛に傷のある李在明は党内の「ネガティブキャンペーン中止」を宣言したが、ライバル陣営へのそれを否定しない辺りはこの人らしい。

文在寅が当選した選挙戦でのネット操作に関する「ドルイドキング事件」では、文側近の金慶洙慶尚南道知事が有罪になった。廬武鉉の礼賛本でもある文の自伝「運命」(12年12月発刊)は、金慶洙秘書官からの電話が文に廬の投身自殺を告げる場面で書き出される。が、盧と金の不正塗れが明るみに出た今では何とも白々しい。

文は「運命」を李明博の跡目争いに出るために書いた。その大統領選に勝ちながら、負けた文が使嗾したロウソク革命で17年3月に弾劾されたのが朴槿恵だ。槿恵の一途で謹厳実直な人柄と暮らしぶりを、これも見るからに真面目一徹な李相哲龍谷大教授が「朴槿恵の朝鮮」(12年11月発刊)に活写する。李教授が槿恵に「恋をしている」(李はそう妻にいわれた)らしく、微笑ましい。

同書には筆者の知らないことがいくつも書かれている。一つは槿恵が04年3月のハンナラ党代表就任後、党の大統領候補選び基準を改正し、代議士票と世論調査を各2割、党員票と一般国民票を各3割としたこと。大統領選ゆえ一般投票3割は当然として、世論調査2割とはさすが世論調査好きの国柄だ。

だが槿恵は07年8月の党の候補者選びで李明博に敗れた。投票結果は李80,184票に対し槿恵は1,552票差の78,632票だった。李教授は「電話一本を5票に数える電話投票でだけ」負けたのだが、槿恵は「敗北を認め」て「結果を完全に承服」し、「政権交代を成し遂げるため白衣従軍(一兵卒として戦うこと)」を宣言したと書く。

筆者は、槿恵と「経済共同体」を形成したとされた崔順実の検事チーム長を務めた尹前検事総長を「信用していない」と書いた。9日の朝鮮日報は、その崔被告が「資産隠し」をしたとの虚偽事実を16年から17年にかけて流布した廉で、目下、李在明の選対にいる安敏錫議員に1億ウォンの賠償命令が下ったことを報じている。それで槿恵の冤罪が晴れる訳ではないが。

さて、縷説した米国でのメディア入り乱れての情報操作や韓国の「ドルイドキング事件」などは、議院内閣制でない大統領選挙固有のものかといえば、決してそうではない。それは今回の菅総理不出馬騒動や8日に事実上4野党が合意した共通政策の中身を見ると良く判る。

菅総理の不出馬声明は、31日の夜遅く毎日が、「自民党総裁選は衆院選後に先送りする」との「複数の政権幹部の話」を報じ、これが党内の反発を生んだことがきっかけとされる。先送りを決めていた訳でない菅総理にとっては、メディアを使った党内のある種の策略に乗せられた格好ではなかったか。

関連して、総理と何度も会った小泉環境相が涙ながらに、「1年でこんなに結果を出した首相はいない」としながら、それが理解されていないことを理由に「引くという選択肢も含めて話をした」とわざわざ明らかにしたのは頓珍漢の極みだ。なぜその菅総理の治績を、持ち前の発信力で国民にPRしないのか、それが「おやじ」に報いる途ではないかと思うからだ。

立憲、共産、社民、れいわの4野党が8日、某「市民連合」を仲介する形で合意し、公表した政策には「モリカケ桜」の真相究明が含まれる。司直が判断済の「モリ」と「桜」、メディアと野党が創出し、既に膨大な時間を費やした「モリカケ」を再び持ち出しても、自民党を利する効果しかなかろう。

立憲は7日にも、政権を取った暁の初閣議で「モリカケ桜」の再調査に加え、菅総理が任命拒否した学術会議会員6人を任命するとした。バイデンが就任直後にトランプの大統領令を端から覆したのを髣髴する。が、どれも共産党の主張を取り込むためで、約1割の左派の支持強化にしかなるまい。4野党はそれで満足かも知れぬが国民が困る。

それとは逆に、高市の出馬と安倍前総理の支持を右の約3割の強化とする論がある。確かに菅政権のアイヌ新法やエネルギー政策などはこの層に不満をもたらしている。が、1割の強化と3割の強化では、同じ率の強化でも頭数に3倍の差があることを心すべきだろう。

「モリ」(というか「赤木ファイル」)では、「国民が納得するまで説明を続ける」と口を滑らせた岸田が後日修正する醜態を演じた。派閥からも見放され推薦人が集められなかった石破は、「モリ」と「桜」を「国民の納得のために必要なことであれば、やらなければいけない」と文在寅のようなことをいう。が、国民は「カケ」の「石破4条件」を覚えている。

大統領選に戻れば、来春が任期のドゥテルテ比大統領はプーチンを真似て副大統領を目指、重任出来ない大統領には傀儡を据えて権力維持を図るつもりのようだ。この人物を嫌いでない筆者は、この見え透いた手法がむしろ奏功するようにも思う。

この外、米国の州知事では、ニューヨーク州クオモ知事のセクハラ辞任や、14日に迫ったカリフォルニア州ニューサム知事のリコール選挙など民主党知事の件も気になるが、紙幅が尽きた。何れにせよ、こうした民主主義社会のトップの進退劇についての自由奔放な話題を、実は内心で最も気にしているのは選挙経験のない習近平ではなかろうか、と筆者は考えている。

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