不適格が露呈した横浜市長の会見 – 郷原信郎

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8月8日告示・22日投開票の横浜市長選挙は、市民と地域社会の要請に応える横浜市政を実現する新市長を選ぶための極めて重要な選挙であった。

史上最多の合計8人が立候補して行われた市長選挙で当選したのは、横浜市立大学の元教授、立憲民主党推薦の山中竹春氏だった。

山中陣営は、首都圏を中心とする感染爆発で、菅政権の新型コロナ対策への批判が高まる中、告示前から「街宣カー」に「医学部教授」「コロナの専門家」と大きな文字で書き、「山中竹春」「コロナの専門家」「横浜からコロナを封じ込めます」を連呼する「選挙運動」を、組織を挙げて展開していた。それが、現職大臣を辞任して出馬した小此木八郎氏と、現職市長の林文子に「圧勝」する要因となった。多くの横浜市民は、山中氏が医師・医学者の「コロナの専門家」だと思っただろう。

しかし、山中氏は、コロナ対策の専門家であることの疑義や、学歴・経歴への疑問、パワハラ疑惑など、様々な問題が指摘されていた。

まず、8月3日発売の週刊誌フラッシュのネット記事【横浜市長選「野党統一候補」がパワハラメール…学内から告発「この数年で15人以上辞めている」】で山中氏のパワハラ疑惑が報じられた。

また、山中氏の市長選出馬に関して理事長・学長名で出された学内文書に因縁をつけて、山中氏の評価を含む文書を発出するよう強く求め、『素晴らしい研究業績』などの文言を含む文書の発出を強要し、大学の自治に対する、政治的権力による侵害行為を行った疑いがある(【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】)。

さらに、大学院で修士課程しか修了していないのに博士課程修了のように見せかけていた疑いがあること、また、「NIH リサーチフェロー」が経歴詐称ではないかという疑いがある(【横浜市長選、山中竹春氏は「NIH リサーチフェロー」の経歴への疑問にどう答えるのか】)。

私も、山中氏については、「コロナの専門家」であることの疑問、パワハラ疑惑・経歴詐称疑惑などを追及する「夕刊紙風」落選運動チラシを作成して公開したり、パワハラ(正確には、横浜市大の取引先業者への経営介入の強要)音声を公開するなどの様々な方法で、落選運動を展開してきた。

しかし、山中氏は、上記の問題や疑問点ついて説明を求める声から逃げ続けた。街頭演説の際に、市民から「説明してほしい」と言われても、「広報に、広報に聞いてくださいっ」と言い残して去ったり、「それはちょっと・・・」と言って逃げたという。

そうした山中氏にとって、市長就任会見は、説明責任に直面する初めての場となった。

就任会見での山中氏の発言・質疑応答は、既に、YouTube等で公開され、その全文起こしもインターネットに掲載されている(➡【山中竹春 横浜市長就任記者会見・全文文字起こし】)。

その内容は、私がかねてから述べてきたように、山中氏が「市長に相応しくない人物」、「絶対に市長にしてはならない人物」であることを早くも露呈するものであった。

山中氏が「馬脚」を現した、というより、その「馬体」そのものが露わになったと言えよう。

山中氏は、ほとんどの質問に対して、「検討する」、「当局と議論する・相談する・連携する・調整する」というような答弁に終始し、実質的に意味のある回答は何一つなかった。

「コロナの専門家」を連呼したことが当選に大きく寄与したと思える山中氏に対して、そのコロナ対策について質問されて、

ワクチンの接種、検査体制の拡大、医療体制の確保。こういったことは従前から申し上げておりますので、それぞれの項目に対して、効果的な施策をですね、現状を踏まえた上で、現状をよく把握した上で、対策を打ち出したい

と答えた。専門家どころか「全くの素人」でも言えるレベルでしかない。

山中氏の発言の中で目立ったのは「当局」という言葉だ。通常、「当局」というのは、「ある仕事や任務を処理する立場にある機関」という意味であり、その「当局」の外部の人間が使う表現だ。市長が、市役所の担当部局のことを「当局」と表現するというのは聞いたことがない。しかも、その「当局」と「相談」とか「連携」などという、不可解な表現も出てくる。

山中氏は、最初の質問で、「初登庁した際の感想」を聞かれ、「横浜市政を預かる責任の重さ、それを改めて痛感して身の引き締まる思い」と答えているが、本当に、自分が横浜市役所のトップとして市政を担う立場になったという認識があるのか否かすら疑わしい。

会見での発言では、新市長に就任した山中氏としての見解・考え方が問われているのに、それを示す姿勢も、説明しようとする姿勢も全くなかった。

このような会見での発言を聞いて、私は、パワハラ音声を提供してくれたA氏が、山中氏について言っていたことを思い出した。A氏によると、「山中氏との話の中で、横浜市の市政について話をしたことは一度たりとも無い」とのことだった。野心家で、政府の委員であることや副学長であることを喧伝し、洗練されたオフィスや、タワーマンションを好む「セレブ志向」の山中氏にとって、横浜市長に当選し、横浜市新庁舎に初登庁し、市長室に入り、市長の椅子に座る、ということで、山中氏にとって市長選挙に立候補した目的の大半は果たされたのかもしれない。

一方で、フリーランスの記者から

郷原さんが選挙ドットコムのブログで、山中さんの経歴の問題、それからパワハラの疑惑、それから強要未遂の問題などを取り上げてですね、あの山中さんご自身が市長としてふさわしくないのではないかという疑義呈されておりますけれども、これに対して選挙戦を通じて、山中さんの方から反論が全くなかったんですけれども、これはなぜなのか。

質問されたのに対して、正面から答えず、

市民の方にですね、しっかりと自分の取り組みを理解してもらう。その努力がもっとも重要なのではないか。

と答えた。

しかし、市民に理解してもらえるよう、一体どのような「取組み」をしていくのかは全く示していない。

さらに、同じ記者から、

郷原さんがインターネットで山中さんのものとされる音声を公開されておりますけれども、山中さんご自身はこれをお聞きになりましたでしょうか。

と問われて、

存在は聞いているんですが、内容に関しては、全部はちょっと。途中までは聞いたんですけれども、全部はまだ聞いてません。

と答えた後、自分の声であることは認めた。全体でも僅か2分の音声を「途中まで聞いた」というのは考え難い。この音声記録で行っている「恫喝」について全く弁解の余地がないということであろう。

そして、別の記者の

2002年から2004年まで、アメリカの国立衛生研究所というところでリサーチフェローをされていたということなんですが、これは事実なのかどうか。

 という質問に対しては、

NIHで研究員をやっていたことに関して、詐称はございません。

研究員を表す一般的な用語として、リサーチフェローという言葉を使ったことはございます。ただ、リサーチフェローに関しても、様々ですね、定義がございます。さまざまというか、あの、機関ごとに、定義が違う場合もあるんですが、研究員を表す用語として、リサーチフェローと使っております。

と述べ、「NIH 研究員」であったとして、リサーチフェローは研究員という意味だとの説明で押し通した。

「NIHリサーチフェロー」というのは、博士号取得後3年経過後に得られる連邦政府職員の有給の正式ポストであり、単なる「研究員」とは異なる。山中氏が、「NIHリサーチフェロー」という経歴を、国や公的機関の研究費の申請書類に記載していたとすると、重大な問題に発展する可能性がある。

8月30日の会見を見た横浜市民は、8人が立候補した激戦の市長選を圧勝した「新市長」の姿やその発言を、どう受け止めたであろうか。横浜市会の各会派も、いくら「市長選で圧勝した市長」とは言え、就任会見で、まともに自らの見解や考え方を述べることもできず、疑惑や問題について何一つ説明責任を果たせない新市長に対して、市議会での質問を通じて、説明責任を果たさせるのは当然だと言えよう。

少なくとも、山中氏のような人物が市長でいる限り、横浜市の市政の混乱は避けられない。

就任会見での言動は、山中氏は「セレブ志向」の延長上で市長選挙に出馬したとの見方を裏付けるものと見ることもできるが、そうだとすると、市長として職責を果たし続けることに、どれだけの熱意があるのかも不明だ。

「山中市長辞任」に向けてのカウントダウンは、既に始まっていると言えよう。

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