今春、ファミリーマートが「はだいろ」の女性用下着を自主回収した。ネットでは評価する声の一方、「肌色に差別の意図はない」という否定的意見も根強くあった。ドイツ出身のコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンさんは「黒人差別だけでなく世界ではアジア人差別も根強い。日本人は差別されることにもっと敏感になったほうが良い」という――。
※画像はイメージです – iStock.com/Rudzhan Nagiev
根強い「肌色の何が悪いの?」という反論
昨年、アメリカの医薬品大手「ジョンソン・エンド・ジョンソン」(J&J)がBLM運動(Black Lives Matter「黒人の命は大事だ!」)の影響を受け、アジアや中東で売られていた「肌を白くするためのクリーム」の販売を中止しました。
今春には日本の花王も「肌の色の多様性」に配慮するために「美白という表現を取りやめる」ことを発表。ファミリーマートが「はだいろ」と表記されたプライベートブランドの肌着22万5000枚を自主回収したことも記憶に新しいです。
今回は日本と海外を比べながら「肌の色と多様性にまつわること」について考えます。
肌色や美白化粧品の扱いについて、日本では疑問の声も聞かれます。「言葉狩り」という反論や、「美はあくまでも美」として社会問題と切り離して考えるべきという意見も少なくありません。
日本に限らず、ヨーロッパでも「黒人の肌の色がメディアなどでどのように扱われるか」という点で、「黒人の当事者」と「その国のマジョリティー」の間には依然として大きな隔たりが見受けられます。
「食べ物」に例えられてきたマイノリティーの肌の色
筆者の出身地であるドイツで人気のお菓子に「外側がチョコレートで包まれているマシュマロ」があります。昔からドイツの色んな会社のものが売られていますが、これが地域によっては2000年代まではNegerkuss(和訳:「黒ん坊キッス」)と呼ばれていました。
マシュマロキッス(写真=Rainer Zenz/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)
そういった影響もあってか、ドイツでは、「黒人の肌の色はチョコレートみたいでかわいい」という旨の発言を聞くことがあります。
昔から「肌の色を食べ物にたとえないでほしい」という黒人からの抗議の声はありました。しかしそういった黒人当事者の声は無視され、ドイツのマジョリティーである白人の「かわいいからいいじゃないか」という意見が幅を利かせていました。
現在はNegerkuss(和訳:「黒ん坊キッス」)の呼び方は変わり、Schokokuss(和訳:「チョコキッス」)、またはSchaumkuss(和訳:「マシュマロキッス」)と呼ばれるようになりました。
しかしドイツでは今でも「黒人の肌の色をチョコレートなどの食べ物にたとえる人」が後を絶ちません。長年お菓子メーカーがNegerkuss(和訳:「黒ん坊キッス」)という言葉を当たり前のように使ってきた弊害は今も出ているのです。
一方で日本人を含む東洋人の容姿についても、食べ物で例える表現が残っています。ドイツでは今でも「アーモンドのような目」と言う人がいます。しかし、たとえ褒めているのだとしても人の身体を食べ物にたとえることにはやはり違和感があります。
「アーモンドのような目」にしても「チョコレートのような肌」にしても、筆者が一番問題だと感じるのは、東洋人や黒人が違和感を伝えても、「かわいいと思って言っているだけだから、別にいいじゃない?」という白人側のマジョリティー側の感覚で、当事者のメッセージがかき消されてしまうことです。
しばしば問題になる「時代についていけていない人」
8月8日には野球解説者の張本勲氏が「サンデーモーニング」(TBS系、毎週日曜朝)で、東京五輪女子フェザー級で金メダルを獲得した入江聖奈選手について「女性でも殴り合い好きな人がいるんだね。嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合って。こんな競技好きな人がいるんだ」と発言し、物議を醸しました。
発言を受けて、日本ボクシング連盟の内田貞信会長はTBSに対して「女性およびボクシング競技を蔑視したと思わせる発言があった」と抗議し、張本氏は翌週15日の放送で謝罪しています。
昔は若い女性について「嫁入り前」「お嬢ちゃん」という言葉はわりと日常的に使われていました。女性は「おしとやか」であるべきとの社会通念もありました。そういった背景があることから、高齢の張本氏に対して「現在の価値観に沿った考え方をすべきだと求めるのは酷だ」という意見も見られます。
実は「昔の感覚のまま発言してしまい、問題になる人」はドイツにもいます。
※画像はイメージです(iStock.com/Rudzhan Nagiev)
ドイツでは2016年に旅行代理店Thomas Cookの管理職だった男性従業員が、職場の社員食堂で働くカメルーン出身の女性に数回に渡り「黒ん坊キッスがほしい」などと声をかけ、これが人種差別とセクハラに該当するとして同社から解雇通告受けたことが報じられました。
男性従業員がそれまでの勤続年数十年の間にそれ以外に特に問題を起こしていなかったことから、フランクフルトの労働裁判所は解雇を無効としたものの、会社側はマスコミに対して「カメルーン出身の女性に対する同氏の肌の色をからかうような言動は一度限りのものではなく、数回にわたり行われた挑発的なものだった」と発表しました。
この例から見てとれるのは、男性がいわゆる昔ながらの「男性優位」の姿勢を崩さず、相手の女性が嫌がっていても「おかまいなし」だったことです。