形だけの自民総裁選が選ぶのは「暫定首相」

アゴラ 言論プラットフォーム

菅氏延命で喜ぶ野党連合

横浜市長選で自民党が惨敗しました。民意がこれほどはっきり、政権に「NO」を突きるつけることはそう度々、あることではありません。

uergen Sack/iStock

菅首相の地元、しかも首相が全面的に支援した小此木・前国家公安委員長の敗北は、菅首相の敗北と同義語でしょう。山中氏50万票、小此木氏32票、林氏19万票でした。ここまで大差がつくと予想した人は少ない。

小此木氏と林氏の合計は52万票で、山中氏を上回り、自民党系が必ずしも負けてないとの解説もあります。どうでしょうか。小此木氏はカジノ誘致反対、林氏はカジノ誘致派ですから、足し算はできません。

新聞報道も蛇行しました。読売新聞の世論調査では「山中、小此木、林氏が横一線」(15日)でした。さらに「一位の得票数が法定得票(有効投票数の4分の1以上)に届かない可能性もあり、その場合は再選挙」(21日)とまで書きました。

これほど新聞記事が実態とずれることも珍しい。他紙の多くは「山中氏が先行、小此木氏が追う」でした。11月には、総選挙もありますし、新聞社として、釈明を含めて、せめて解説を書くことが必要です。

「菅首相では総選挙を戦えない」との声があがっています。それに対して、菅首相は総裁選(9月30日?)に出馬すると語っています。しかも派閥のトップらの動きをみると、すでに菅氏の圧勝の気配です。総裁選をやる前に、結果が分かっている。危機感が感じられない日本の政治です。

二階自民党幹事長は菅支持を公言し、安倍前首相、麻生副総理らも続投支持の構えです。恐らく11月の総選挙で自民は議席を減らし、野党連合は増やす。その結果を見て、菅氏を退陣させるというシナリオでしょうか。

そう何度も、首相の首を代えるわけにはいかないので、少なくとも11月まで待つ。今、辞任されると、菅氏を担いだ二階、麻生、安倍氏らの責任にも及ぶので、それは避けたい。総選挙の結果の責任を取らせるという形に持ち込めば、自分たちの責任は問われない。

要するに、菅氏が総裁に再選されたところで、総選挙までの「暫定首相」という計算なのでしょう。主要派閥のトップの談合で首相に担がれたのですから、菅氏も流れに任せるしかないと思っている。

高市前総務相、下村政調会長、岸田前政調会長らが総裁選に立候補するようです。このうち高市、下村氏は選出される可能性は低く、岸田氏も次期首相候補としてはずっと下位に低迷しています。
「現職の閣僚はコロナ対策を優先し、出馬するな」の情勢です。ですから形だけの総裁選をするために、総裁選をやる。岸田氏を除けば誰かの指図で動いていると、想像しても間違いないでしょう。

高市氏は月刊文芸春秋に「総裁選に出馬します」というタイトルの手記を掲載しました。「私の基本路線は『ニュー・アベノミクス』である。大胆な金融緩和、機動的な財政出動、危機管理投資を総動員して、インフレ率2%を目指す」と、冒頭に書いています。

主要国は超金融緩和からの転換を模索しており、日本も出口をいかに探すかで四苦八苦しています。「強い経済は結果的に財政再建に資する」の高市氏の提言も、これまでさんざん裏切られてきた考え方です。

要するに、あまり熟慮もせずに、誰かが代筆して、古臭い政策を並べているという印象を受けます。その程度の立候補宣言です。

政治人材が乏しく、総裁の器として適格性を問われる連中しか見当たらないということでしょう。安倍、麻生氏など落選の心配がない世襲議員らによって、日本政治が仕切られているので、大胆な転換の必要性を感じない。

コロナ危機が日本の政治、経済、社会システムの転換を迫っているのに、形だけの総裁選で急場をしのごうとしているのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年8月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。