旅先で出会う楽しさが忘れられない
東横イン、ドーミーインなどのメジャーなホテルは少し高い。そこで、じゃらんなどホテル検索サイトの価格順で見ると、先に出るのはちょっと古めのビジネスホテルだ。
でも安いだけじゃない。質実剛健の設備、建物や看板の独特のデザイン、素泊まりゆえの自販機コーナーなど、ここならではの興味深い出会いがある。
旅する日が恋しくなるコロナ禍のいまこそ、ぜひあの楽しさをこの誌面で味わってほしい。
わかりやすい看板・建物とネーミング
貧乏ライターの助けにもなってくれるレトロビジネスホテル。その特徴としてまず目に付くのが、明快なネーミングだ。
「グランドホテル」とか「ビジネスin」とか、シンプルでわかりやすい名前の施設が多い上に、ズバリ「ビジネス(ホテル)」と銘打つ所も目立つ。
そして看板や建物のデザインも、往年の雰囲気が漂ってきて、「ここなら間違いない」と安心できる。
重い荷物を背負いはるばるやってきて、これらの看板を見つけるだけで、旅の疲れがほんの少し癒える。
さらには看板に価格を表示しつつ「バス・トイレ・テレビ付」とアピールポイントが列挙している所もある。
これらのホテルは安いけれども、だいたい接客は悪くない。特に老舗では、年齢層が高いおだやかなホテルマンが応対してくれる。
部屋は、自分サイズの秘密基地
フロントでカギを受け取って念願の部屋に入ると、必要十分で、自分サイズの空間が待っている。
ドアを開けたら、いつもホッとできる。レトロビジネスホテルの部屋は、とにかく質実剛健である。
一部の簡易宿泊所(ドヤ)のように衛生的にきついワケではなく、ただ古いだけで清潔なので安心だ。さらに防音もちゃんとしている。
部屋の設備自体は各ホテルで似ているが、細かなレイアウトや家具などがいろいろ微妙に違うのも楽しい。
広くは無いが、今日一日を過ごすひとりの秘密基地としては十分だ。
狭いながらもどうにか作業はできる机もあるし、Wi-Fiもある。座ると何やら右に左にモノや誘惑が多いが、これらはあとで説明しよう。
なお最近のビジネスホテルでは、机の中に聖書を置かなくなっている所も多いが、レトロビジホではときどき見かける。
なお最近のビジホのテレビは大きくなり、50型くらいの壁掛けテレビも見かけるが、レトロなビジホは小さめのテレビが多い。
ただし、これくらいのほうが「ホテルに来た」という気持ちが盛り上がる気もするからまたいいんだ。
そして楽しいのは、地方ならではの番組やCMが見られること。特に夕方に生放送する情報番組は、地元局制作の場合が多いので、できるだけホテルにいて見てしまう。
あとは深夜帯の30分番組も、地元局が作っていることが多い。地元のスポーツチームを応援する番組のほかには街歩き系のバラエティ番組が多く、楽しみながらその地域がわかるのもいい。
ちなみにホテルにつきものが有料ビデオ放送だが、そのカード自販機もしっかり各階に完備されている。
ちょっと年代モノの機種が多く、何事にも歴史を感じる。相場はどこもだいたい1日一律1,000円だ。
ただし中には、1回買えば他でも使えるちょっとレアな度数式もある。
さらには館内案内図をパラパラとめくって、施設を把握するのもなんだか幸せだ。一夜限りの秘密基地でどう過ごそうか、思いを馳せるときである。
気になる館内施設があれば、つい行ってみたくなる。そんな遊び心もつい芽生えるひとときだ。
まさしく「軽食」が食べられる
レトロなビジネスホテルは多くが素泊まりが基本だが、朝食バイキングを出す所もある。品目は少ないが、朝の定番フードを堅実に揃えてくれる。
中には品目が少なすぎて、ほぼ選択の余地がない場合もあるが、そもそも安いのに朝食まで付いてくる時点でありがたい。
全体的にこれぞ『軽食』といった品ぞろえ。「がっつり食べたいのであれば、どうぞ外のレストランを使ってね」と割り切っている。
夜のエース、酒の自販機
ふつうの食事の代わりに充実しているのが、自動販売機である。この自販機こそが何やらワクワクして楽しいのだ。
その中でまず切り込み隊長的存在が、お酒の自販機である。値段設定はちょっとお高めだが、数10円の差ならコンビニよりついこちらで買いたくなる。
このお酒の商品ラインナップこそが、幸せな夜をつくるには重要だ。
自販機にはいくつかのタイプがあるが、まず小ぢんまりとしたものがこちら。
選べる幅はないが、これでどうにかやりくりするのも一興だ。
さらに、もう少し多いタイプはこんな感じ。これくらいあると選びがいが出てくる。
見ての通り、レトロなビジホの自販機はビール類が多い。おそらく昔は今よりも、みんながもっとビールを飲む時代だったからだろう。
しかし非ビール派にとっては、リーズナブルかつ飲みやすい「氷結」などがあるとうれしいものだ。
そして理想的なのが、3段の列にびっしりお酒が並んでいるタイプの自販機だ。これだけあれば今夜はもう心配ないだろう。
これだけあれば夜は無敵である。さらに、お酒自販機の中にこっそりいるのが「柿の種と落花生」だ。
つまみが欲しい、でもコンビニは遠い。そんなとき、ひそかに味方になってくれる存在である。
こんなお酒とつまみを部屋を抜け出して自販機コーナーで買うことは、実に楽しい。
ビジホならではの存在、フード自販機
さらに特筆すべきは、フード自販機の充実ぶりだ。現在は全国的に貴重になりつつあるが、レトロビジネスホテルには比較的多く見かける。
そんなフード自販機の中でもまず筆頭格が、このニチレイのホット自販機である。
いつでもアツアツの食品を提供してくれて、なかなかうまい。300kcal程度の軽食メニューなので、予め買ってきたものと合わせるのにちょうどいい。
しかし2010年に生産が終了してどんどん姿を消し、ニチレイでは近い将来の提供終了が予定されているので、見つけた方はいまのうちにめざとく食べて欲しい。
ちなみにホテルには、商品カタログが客室に置いてあることもあるので、じっくり選んでから自販機の前に立とう。
また会いたい、夜食王
個人的に、いつか利用したいのが『夜食王(備蓄王)』だ。自販機としては珍しい、黒い筐体で現れる。
ヒモを引っ張るだけでアツアツになる利便性の代わりに800~900円もの高額を誇り、なかなか見られない希少種。「玉子丼」「お粥」などの渋いラインナップもいい。
過去に2回見たが、一度目は高すぎて見送り、二度目はどうしても取材でいただいたものを食べたかったのでスルーしたが、次回があったら必ず食べたい。
カップめんを沸かせ、電磁サーバー
見つけるとまたうれしいのが、カップヌードルの自販機であろう。やっぱりキング・オブ・カップめん。飲んだ後のシメとしてこれ以上ない存在だ。
4つの味、どれにするのかも思案のしどころだ。
海鮮の香ばしさがあるシーフードか、ジャンキー極まりないカレーか、酸味と辛味のチリトマトか、それともやっぱりノーマルか……それを悩む時間までも宝物である。
そんな脳内作戦会議を経て購入した、カップヌードルのお湯を沸かすのにもピッタリなのが、レトロビジホの客室によくある特徴的なアイテム、電磁サーバーだ。
お湯の沸くスピードは、電気ケトルよりは遅い。テレビ番組で地方局制作の番組でも見ながら、沸騰するのを待とう。
満を持して沸かせたお湯をカップめんに入れて。3分待って缶チューハイとともに食べれば、幸せが手に入る。
それにしてもビジネスホテルで食べるカップめんは、思わず貪り食ってしまうようなおいしさだ。いつもより3割増しの味わいがいまも忘れられない。
さらに珍しいタイプも
また、所によっては商品が透明のコインロッカー(?)に入れてあり、お金を投入すると開く珍しいタイプの販売機もある。
さらにはカップヌードルより珍しい、東洋水産のカップめん自販機もあり、珍しいタテ型の赤いきつねと緑のたぬきも味わえる。
なお自販機は公式サイトで紹介されない場合が多く、何があるかは入らなければわからない。だからこそ、思わぬ出会いに胸が熱くなる。
フロントが売店をすることも
ちなみに自販機の代わりに、フロントが売店として大活躍してくれる場合もある。
たとえばここは日用品のほかに、新潟のビジホらしく柿の種と、地元のパン屋さんが作るパンを用意。しかも通常価格の3割引きというおトクさだ。
ときどき「よくそんなものを置いてくれているなあ」という飛び道具的なラインナップがあるのも魅力の一つである。
飾りっ気の無い眺望
レトロビジネスホテルの眺望はピンキリだ。
壁で全く見えないときもあったり、街の普段着の姿がわかる素朴な眺望が楽しめたり、さらには観光ホテルさながらの眺望が楽しめるビジホもある。
そもそも窓に網入りのガラスを使っている時点で、飾り気が感じられない。そこから見える風景はまるっきりの日常が垣間見える。
逆になかなか風光明媚な所もある。
高い観光ホテルのように眺望が約束されるわけではないが、ロケーションと運が良ければ思わぬ眺望にも出会える。
大都会から外れたエリアで、大きめのホテルなら狙い目だ。
小さなユニットバスをフルに使う
大浴場がある所は少なく、もっぱらユニットバスだ。古めかしい雰囲気を楽しみながら、小さめの湯船に入るのも一興だし、割り切ってシャワーで済ませるのもいい。
「消毒済」の袋を外して、ピカピカのコップを使うのもいい。自分にとって万全に用意された空間を使えるのはうれしいことだ。
僕はよくスマホアプリのradikoで、地元ラジオ局のローカル放送を流しながら湯船に入り、旅の風情を味わっている。
まだまだある、レトロなビジネスホテルの魅力
ほかにも、レトロなビジネスホテルの楽しみは計り知れない。寝るまでの時間も、ちょっと年季の入ったアイテムたちが彩ってくれる。
古めのビジネスホテルは旅先ならでのスペシャルを、安心の設備で楽しめて、ここにしかない喜びをくれる。
こんな選択肢もあるよと、ぜひ頭の片隅に入れてくれたらありがたい。
コロナ禍でも生き残ってほしい
安くて必要十分。その古さが落ち着く。出張や観光が今よりも大きなイベントだった時代の香りを残す施設だ。
僕はこれからもレトロビジネスホテルを愛して行くだろう。
最もコロナ禍が直撃している施設の一つだけれども、どうかこの冬の時代を乗り越えて、元気に営業を続けてほしい。