「○○で検索してください」が長くなってないか

デイリーポータルZ

ザ。

「○○で検索してください」っていう広告をよく見る。登場したのはほんの数年前のことだと思うが、以来あれよあれよといううちに広がっていって、今ではすっかり一般的だ。

ところで、あの検索ワード、ふと気づくと昔とずいぶん変わってきてないだろうか。長くて変わったフレーズが増えてきた。そんな気がするのだ。

2009年10月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

しらみつぶしに収集した検索ワードを紹介します

僕が生活の中で広告をよく見かけるのは電車の車内だ。今回も電車広告に的を絞り、1週間にわたって各線の車内広告をしらみつぶしに調べた。

そしてその中から、僕が「ん?」と思った検索ワードを紹介していこうと思う。

と、その前に、比較のために僕が「元々はこういうのだよなー」と思う検索ワードを先に紹介しておきたい。

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「かざしトク」
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「ドラカレ」

だいたい4文字~5文字くらいで、略語だったり造語だったり。というのが僕の持つ検索ワードのイメージだ。覚えやすくて、脳みそのすみっこに置いたまま簡単に持ち帰れる感じのもの。

しかし今回の調査によると、これはいまや少数派だったのだ。結果からいうと、ずいぶん長かった。それについては後ほどご紹介しよう。

検索ワードつきはだいたい3割

広告の数は路線にもよるが、たとえば山手線なら1車両で140枚もの広告があった。うち「検索してください」があったのは42枚。ちょうど3割くらいだ。

東京メトロの有楽町線は、広告の数が90。うち「検索してください」は28枚。こちらも3割をちょっと越えるくらい。「検索してください」はだいたい3割なのだ。

そのうちから、とくに「変わってる!」と思ったものを紹介します。

検索ワードは誘ってくる

ぱっと見でまず心に飛び込んでくるのは、これ。文章になってるパターン。

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どこに連れて行かれるのか

検索ワードって、単語だけが無機質にゴロッところがってるイメージだが、それが文になるだけで妙にフレンドリーに感じられるのだ。ただの丸い小石とダンゴムシくらい違う。

そしてダンゴムシたちは、なぜか見る人になにかを誘いかけてくることが多い。

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行こうシリーズ、庶民派な一作。素朴でグッときますね
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それが一文字変えるだけで急にハイソな感じになりました
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そんなこと気軽に誘われても…
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面と向かっては言ってこないが、「歩くよな!?」という無言の圧力を感じる

たくさん見ているうちに、この広告の2面性に気づいた。広告見てるときは「デルで行こう」って誘われる側なのだが、いざ検索する段になると、自分が「デルで行こう」ってキーボードで打つ側になるのだ。うつった、って思う。ゾンビに噛まれると、自分もゾンビになるのだ。

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誘ってくるというか、宣言してくるパターン。これも検索するときは自分が宣言するハメになる。エンターキー押す小指に思わず力が入ります
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まだ迷っているキミに、さらに背中を押してくる一枚。キミでもやれる!

 

いったん広告です

漢字が重い

一転して、フレンドリーさを廃し、単語の持つ重さを極限まで追求したのがこのパターン。覚える気がなくても脳にずっしりとのしかかる。

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渋い感じながら幸せなキャッチフレーズ。こういうのはいいですね

電車乗って家に帰ってからなんか胃もたれするなーと思ったら「そういえば電車で見たあの広告のせいか」と思いあたり、検索せざるをえない、そんな感じの検索ワードが並ぶ。

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きた、この重厚感。たった漢字4文字でこれほどまでに人生の山と谷を表現したフレーズがあっただろうか。しかもそれを検索させるのだ
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個人的にですが、最近これ系の検査をしたので、腹の奥にずんときました。「クリニック」を略すからよけいに重い
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大仰な温泉名にも迫力があるが、それを「飲泉」。聞き慣れない単語に、軽く胸騒ぎ
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「歌舞伎町の女王」を彷彿とさせるフレーズながら、どうしても横のおばちゃんのインパクトに目がいってしまってごめんって思う(検索ワードに対して)

漢字のせいで文字数あたりのタイプ数が多く、検索の折にはそれがまた、重いのだった。

謎の数字

末尾に数字がついてるパターンがいくつかあった。数字って文字の中ではかなり覚えにくい部類にはいると思うのだが、同時に何を表すのか妙に気になってしまう文字でもある。気にならせて検索させる、そういう戦略なのかもしれない。

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みんな(37)なかよく(7)、的なことではなくて、
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商品名でした。377って僕はおぼえにくいと思うんだけど、見る人が見たら「おっ、377出たんだ!」って思う数字なのだろうか
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何の数字だか全然わからなかったのがこれ。アサカ仁王録(206)?
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広告を隅から隅まで見渡してやっと発見。マンションの世帯数でした。マンション名を検索ワードにしてはダメだったのか
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数字とは違うけどアルファベットがつくパターン。DCはデスティネーションキャンペーンの略ですが、ワシントンD.C.みたいでかっこいい
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けど遠目で見ると、全体にせんべい。一応、ワシントンD.C.との共通点は「米」

3つとも、なんだこれ?と思って思わず広告をじっくり読んでしまったことを付け加えておく。すっかり術中である。

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検索しなくていいのではないか

検索ワードの根幹を揺るがす事態。URLがそのまま検索ワードになっているパターン。
URLわかってるんだったら検索しなくてもアドレス欄に入れればいいじゃないか、と思うけど、そう書かないのは「検索してください」っていうフレーズの方がとおりがいいからかもしれない。

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URLは、 https://mainichi.jp/ 。ローマ字さえわかればそのまま見られる
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https://r25.jp 。ローマ字に直す必要すらなく、そのまんま
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https://www.nin-i-seiri.net/ 。変なところにハイフンが入るので、これは検索しなきゃわからない感じはする
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さてURLはなんでしょうか?正解は、 https://ibsnet.jp/ 。 https://ibs.net/ と思いきや、まさかのフェイント。

 

記号

後ろに数字がついているパターンは先ほど紹介したが、それとは違った意味で不思議なのがこちらの、記号付きのパターン。

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「。」がつくパターン

なぜ不思議かというと、検索エンジンは普通、記号を無視するからだ。(試しに「。」とかで検索してみるとわかる)

これは元々の商品名なんかに記号がついているケースが大半。検索ワードにするときもせっかくだから同じ名前にして覚えてもらおう、という感じか。

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「、」「。」の合わせ技。検索ワードというかサイト名みたいですが、 merchant とかかってるのかな?
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「!」のついた検索ワードも新しいけど、URLもすごい。電話番号かと思いきや、下には03始まりの別の番号が…。
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同じく「!」つき。これはぜひyahoo!で検索してみてください。ちょっと驚きます
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びっくりしてないのもあります。左のはYahoo!のポスターで、こっちはJR

ちなみに上の「スイカ!」は、yahooで検索すると直接yahooのスイカのページに飛ぶ。裏技的なキーワードのようだ。

長いのランキング

この企画のそもそもの発端は、「最近の検索ワード長くない?」と思ったことにある。その疑問に対する答えが、こちら。今回見つけた中で長い検索ワードのベスト3を選びました。ご覧ください。

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やっぱり2語あると強い。一つ一つの単語はそんなに長くないものの、こう書かれると長い!「八都県市」っていう単語の耳慣れなさもかえって頭に残る。10文字
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よくわからなかったのがこれ。アルファベットと、ふりがなが併記してある。もしかしたらどちらか一方好きな方を選んで検索すればいいのだろうか。10文字
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1キーワードではダントツに長かったのがこれ。20年前、イギリスの正式名称知ったときの気持ちがフラッシュバック。長っ。11文字
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そして栄えある第一位は、これ。2ワードあるものの、かたや9文字のロングワード、かたや文章。検索ワード界の金閣&銀閣である(ひょうたんに吸い込まれる方)。16文字

「長い」って言ったって原稿用紙3枚分とかそういう「長い」ではない。でも、読書感想文は無理でも一句捻るくらいはできる文字数だ。「古池や蛙飛び込む水の音」で11文字。

そんな名句すら余裕で凌ぐこの長さ。何でこんなに長いのか、知ってそうな人にきいてみることにしました。

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担当者に聞いてみる

さんざん語ってきておいてなんだが、実は僕はこの手のキーワードで検索したことがほとんどない。というより、いままでその存在を意識したこともほとんどなかった。

しかしせっかく集めたのだから、事情に詳しい人にも話を聴いておきたい。詳しい人って誰だ、検索サイトの会社に問い合わせればいいのだろうか。と迷っていると、はたと気づく。弊社はネット企業なのだった。検索サイトの会社ってうちじゃないか。

そんなわけで、同僚でニフティの検索サイト「@search」担当者の広田さんにちょっと話をきいてみた。

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検索担当の広田さん(左)

 

検索ワードが長くなる理由

石:まずは僕が探してきたやつをいくつか見てほしいんですけど、まずこういうのとか。(「アサカ206」)

広:実際に検索してみましょうか。(検索する)

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前ページでも出ましたが、アサカ206はこれ。

石:あれ、ないですね

広:(指差して)これじゃないですか?

石:あ、あった。広告の枠だったのか。企業がお金払って買ってるんですね。

広:そうですねー。あらかじめ、広告枠に表示されるように出稿しておく、ってのはよく見るパターンですよね。短かったり、元々検索されやすいキーワードだと、(広告にしないと)検索しても見せたいサイトがなかなか出てこなかったりしますから。

広告にしない場合で、これなら大丈夫だろう、っていうキーワード考えると長くなっちゃうのかもしれませんね。

石:そうか、他と競合しないために、長いキーワードにしてるんですね。

広:そうですね。

長 い検索ワードが登場する理由は、検索上位になるための競争が回避できるからでは、とのこと。

音楽やりたいけど、ギターうまい競争には勝てないから DTM(パソコンで音楽やること)やろう、という高校のときの僕と同じ戦略である。いま思えば、あれも一種のネットマーケティング戦略だったのかもしれない。ネットじゃないけど。

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スペースが余ったので番外編。これアバウトでいいなー

 

言い回しはいろいろ

石:たとえばこの「ケータイと歩く」ってやつ、文章になってるし、「ケータイ」ってカタカナだし、あとで検索しようとしても間違って覚えちゃいませんか?

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バリエーションは想定済み「ケータイと歩く」

広:助詞が入ると覚えにくいですね。ケータイ「と」だっけ?「が」だっけ?って。

(検索しながら)でも「ケータイが歩く」で検索してもヒットしますよ。助詞をとばして、「ケータイ 歩く」でも出ますね。

石:じゃあ、「ケータイ」を「携帯」にしたら?

広:「携帯 歩く」も「携帯と歩く」も出る。「携帯 ウォーク」はダメですね。あと「携帯を持って歩く」はでる。

石:「携帯持参で」はどうですか?

広:「携帯持参で」は出ないですけど、「携帯持参で歩く」は出ますね。

石:うろ覚えでも大丈夫なようになってるんですね、広告枠で買う場合、こういう言い回しのパターンは全部あらかじめ想定してるんですか?

広:そうだと思いますよ。広告出す側の担当者は、こういう言い換えのパターンすごくたくさん考えるらしいです。

石:どこまで出すか決める会議とかあるんでしょうね。「持って」は要るけど「持参で」はいいだろ、みたいな。持参はちょっとないわ、って。

覚えにくいという欠点は、「正確に覚えなくても出るようにする」という形で見事に補われていた。そのために、先回りしていろんなキーワードが用意されている。

その中には「ケータイと歩くザマス」なんてのもあったかも。そう思って検索してみたら見事にヒットして驚いたのだが、よく考えたら「ザマス」以外の部分がヒットしているだけだった。そうか。語尾とかじゃないよな。

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今回のインタビューのために、「職場で転職情報誌(の広告ぺージ)を熟読する」という身を削った準備をして臨んでくれました

 

誘ってくるキーワードたち

石:これなんですけど(デルでいこう)

広:「行こう」って。誘ってますね

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「誘ってくる」代表、「デルでいこう」

石:探してみたら、誘ってくるキーワードがけっこう多いんですよ。(いくつか見せて)これとかこれとか。この広告見て検索しようと思った人は、家に帰るまで「デルで行こう」ってずっと思い続けるわけじゃないですか。家に着いたら着いたでキーボードで打つし。その過程でなんて言うか、サブリミナル的な…

広:(笑)。洗脳系の検索ワードですね。(検索しながら)あ、このポーズすごいですよ

(キャンペーンサイト。すごく自信ありげなポーズの4人の社長)

石:「デルで行こう」って覚えて帰って、キーボードで打って、だいぶ「デルで行かなきゃ…」って精神的にキマってきたところで、バーンってこの写真ですよ。「俺も行かなきゃ!」って思います(笑)

検索ワードはメッセージかも

石:あと、「R25.JP」。それ覚えてるんだったら検索しなくていいじゃん、って思ったんですけど。アドレス欄にそのまま入るから。

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ドメインそのままなのはこれ、「R25.JP」。

広:「.jp」って打ちにくいですね。「R25」で検索しても、同じサイトが一番に出てくるし。

石:ほんとだ。

広:もしかしたら、「冊子はR25だけど、サイトはR25.jpっていう名前です」という主張なのかなー。思いつきですけど。「デルで行こう」から考えると(笑)。

デルにしろR25にしろ、検索すると手を動かすから、キーワードが記憶に残りやすい。だから単に検索したら情報が出るよっていうだけじゃなくて、キーワード自体にメッセージを込めちゃう、って使い方はあるのかもしれない。

…とこの辺の話はだんだん憶測も入ってきているんだけど、広告なんて人の思惑の塊みたいなものだし、どこにどんな意図が込められててもおかしくないですよね。

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再び番外。検索vs徳川。
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メッセージといえばこれほどまっすぐなメッセージもないです

 

 

以上、ネットビジネス情報でした

最初は広告探してキョロキョロしながら延々と電車の中をうろついていたのに、いつの間にか当サイトには珍しいくらいのビジネス談義になってしまった。

通勤のときなんかにはこんな背景も想像しつつ、変な検索ワード探してみるのも楽しいですよ。

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今回いちばん短かったのはこれ、「にわ」でした。小気味いい。

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