コロナを5類に格下げするのは今しかない

アゴラ 言論プラットフォーム

新型コロナを季節性インフルと同じ「5類感染症」に格下げする話が、最近、話題になっているが、事実関係に混乱があるので整理しておこう。

コロナは実質的に「1類相当」

コロナが指定感染症に暫定的に指定されたのは、昨年1月である。これは感染症法の「1類感染症」であるエボラ出血熱などとほぼ同じ扱いで、医療逼迫の原因になった。これを5類に格下げすべきだという議論は、昨年から(私を含めて)いろいろな人が提案した。

安倍首相も8月末の退陣のとき「2類以上の扱い(指定感染症)を見直す」と言及したが、菅首相はそれを継承せず、厚労省は今年1月に新型インフルエンザ等感染症に指定し、感染症法を改正した。

東京新聞より

これは上の表のように「1類相当」より強い(外出自粛要請はコロナのみ)。これが病院や保健所の負担になっているので、コロナを「新しいタイプの風邪のウイルス」として5類に分類すべきだというのが、木村盛世氏(元厚労省医系技官)の意見である。

これに対していろいろな反対論があるが、こういう印象論が多い。

これは間違いである。インフルの診察を受けた人ならわかるように、インフルでも簡易検査でウイルスをチェックする。重症なら入院させて隔離する。違うのは、そういう検査や隔離をすべて保健所経由でやらなければならないことだ。

5類なら外来に来た患者をすぐ入院させることができるが、1類相当だと保健所に報告して、感染症指定医療機関に入院させるのが原則だ。一人一人検査して膨大な書類をつくり、医師は減圧室の中で防護服で作業しなければならない。隔離病棟を設け、多くの医療資源がコロナだけにとられるので、いやがる病院が多い。

それが致死率50%を超えるエボラ出血熱のような危険な感染症だったらしょうがないが、コロナの累計感染者数1050万人のうち、死者は1.5万人で、致死率(CFR)は0.15%。これはインフル(0.1%)とほぼ同じである。

もう一つの反対論は「5類になると治療費が3割負担になる」というものだが、これは論外である。多くの病院が困っているのは、軽症の入院患者が無料になっているために居座ることだ。3割負担にすれば、軽症患者は早く出ていくだろう。

問題は「救える命が救えなくなる」事態を避けること

コロナ問題の本質は陽性者数ではなく、重症者に十分な人工呼吸器を確保し、救える命が救えなくなる事態を避けることだ。次の表のように東京や神奈川では重症者病床使用率が50%を超えており、このまま重症患者が増えると人工呼吸器が不足する可能性もある。

コロナ医療の逼迫状況(日本経済新聞)

コロナ格下げの検討は加藤官房長官を中心に進められているようだが、厚労省は消極的らしい。今は厚労省が全数検査でコントロールできるが、5類になると検査は発症ベースになり、もともと弱い厚労省の権限がほとんどなくなる。また外出自粛の法的根拠がなくなるのも大きい。

格下げは政令だけでできるが、指定感染症のときと違うのは、コロナが感染症法で新型インフル等感染症に含まれているので、これを格下げすると感染症法の改正が必要になることだ。

これは役所にとっては大きな違いである、支持率の下がっている菅内閣にとっても、この時期に格下げの議論を出すと、国会で野党の批判を浴び、10月までに行われる総選挙で大敗をまねきかねない。

だから政治的には、今のうちに与党内の根回しを進め、選挙が終わったら臨時国会で法改正するという段取りのようだが、陽性者が毎日、全国で1万人以上出る状態では、そんな悠長なことをやっていては間に合わない。

特措法を改正して保健所に「命令」の権限を

格下げの話を出すと、野党やマスコミは「感染が激増しているときに格下げとはけしからん」というだろうが、逆である。感染が激増している今こそ、ボトルネックになっている保健所をバイパスし、開業医でも扱える供給態勢をとるべきなのだ。

これに対して「5類に落としても個人病院はコロナ患者を入院させない」という反論があるが、コロナ患者を公立病院や大病院に集約し、それ以外の呼吸器系疾患の患者を個人病院に移送すればいい。しかしそれも患者が寄りつかなくなるので、いやがる病院が多い。

問題は病床ではなく、医療スタッフである。医師や看護師が個人病院に分散してベッドが余っているので、これを集約する必要があるが、医療法では行政に配置転換の権限がなく、患者の受け入れを命令することもできない。

これを改善するには新型インフル特措法を改正し、緊急時には保健所が人員配置や患者の受け入れを命令し、病院が拒否したら保険医の指定を停止すればいい。これには健康保険法の改正も必要で、医師会の猛烈な反対があるだろうが、やるなら緊急事態宣言の出ている今しかない。

タイトルとURLをコピーしました