NECプラットフォームズの「Aterm WX3600HP」は、最大2402Mbpsの通信に対応したWi-Fi 6対応ルーターだ。Atermシリーズではミドルレンジに位置する製品で、2.5Gbps対応のLAN×1も搭載するなど、高速なネットワーク環境に対応できる製品となっている。その実力を検証してみた。
自宅10Gbps化はまだ様子見という人へ1Gbps超のWi-Fi 6で2.5GbE LANをフル活用
本製品は、ゲームやテレワークなどで、高速なネットワーク環境が欲しいが「10Gbpsはまだ早い」と考えている人に適したWi-Fi 6対応ルーターだ。
実売価格が1万3000円前後とさほど高くない割りにスペックはそこそこ高く、Wi-Fiは4ストリームまたは160MHz幅×2ストリームの最大2402Mbpsに対応するほか、有線LANも標準設定のWANポート(LANと入れ替え可能)が2.5Gbps対応となっている。
これにより、10Gbps対応の回線を使って少しでも早くインターネット接続を実現できたり、安くなってきた2.5Gbps対応のNASなどをつないで高速なファイル共有環境を作るといった使い方ができる。
PCを中心に、2.5Gbps対応LANが標準で搭載されるケースも増えてきたし、2.5Gbps対応スイッチなどにも低価格な製品(プラネックスの「FX2G-05EM」)も登場しつつある。
このように、かなり身近な存在になりつつある2.5Gbps2.5Gbps環境を、1Gbpsを超えるWi-Fi 6環境とともにフル活用できるのが、本製品の魅力と言えるだろう。
本体のサイズはそこそこ大きい
それでは、実機を見ていこう。
本製品は、Atermの最上位モデル「Aterm WX6000HP」とよく似たデザインが採用されており、カラー(本製品がブラックでWX6000HPはシルバー)や背面のスイッチ、LANポートの構成、重量などが若干異なるものの、サイズは51.5×215×200mmで共通となっている。
外見は、比較的コンパクトなAtermシリーズとしては大型のモデルではあるが、アンテナが全て内蔵されている点は、NECプラットフォームズならではの美点だ。
内部のアンテナも、全て3直交となる「ワイドレンジアンテナPLUS」で、X軸Y軸Z軸の3方向を各アンテナがカバーしており、スマートフォンなどの向きによって電波の感度が変わるような現象を防ぐことができる。
長年アンテナ内蔵技術を突き詰めてきたAtermシリーズの1つの完成形と言ってもいいだろう。
機能的には、上位モデルとなるWX6000HPと比べ、Wi-Fiが4804Mbpsから2402Mbpsになり、WANポートの速度も10Gbpsから2.5Gbpsへと変更。CPUもクアッドコアからデュアルコアに変更されているが、機能によっては本製品の方が優れている部分もある。
Aterm WX3600HP | |
実売価格 | 1万3000円前後 |
CPU | デュアルコア |
メモリ | – |
Wi-Fiチップ(5GHz) | – |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 2 |
160MHz対応 | ○ |
最大速度(2.4GHz) | 1147Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 2402Mbps |
最大速度(5GHz-2) | × |
チャネル(2.4GHz) | 1~13 |
チャネル(5GHz-1) | W52/W53/W56 |
チャネル(5GHz-2) | × |
新電波法(144ch) | ○ |
ストリーム数 | 4 |
アンテナ | 内蔵(8) |
WPA3 | ○ |
IPv6 | ○ |
DS-Lite | ○ |
MAP-E | ○ |
WAN | 2.5Gbps×1 |
LAN | 1Gbps×4 |
USB | × |
動作モード | RT/BR/CNV |
ファームウェア自動更新 | ○ |
本体サイズ | 51.5×215×200mm |
例えば、「ワイドレンジアンテナPLUS」の採用や中継機モードへの対応、既存Wi-Fiルーターから設定を引き継げる「Wi-Fi設定引越し」や「SSID内部分離機能」、新機能として夏以降の提供が予定されている「ホームネットワークリンク」への対応などが追加されている。
純粋なハードウェアスペックだけなら上位モデルに及ばないが、実質的な使い勝手を考えると、本製品の方が優れている部分もあるわけだ。
インターフェースは、LANポート×4(1Gbps)に加え、2.5GbpsのWANポート×1が搭載される。この2.5Gbpsポートは、標準では10Gbpsなどの回線に接続することが想定され、WANポートとして構成されているが、設定画面からLANポートに切り替えることも可能だ。
回線が1Gbpsの環境でも、NASやPCを2.5Gbpsでつなぐことができるので、LAN環境のスピードアップを考えている場合にも便利だろう。
このほか、背面にはモード切り替え用のスイッチも搭載されており、CNVモードにすることで中継機や子機として本製品を利用することも可能だ。
ファームウェアアップデートでMAP-Eでの安定性が向上
本製品は、6月上旬にリリースされたのだが、発売当初はMAP-E回線で切断されるという事例が報告されており、安定性に課題があった。
本稿を執筆している7月29日の時点までに、ファームウェアのバージョンアップが3回ほど実施されており、通信速度の改善やMAP-E環境の接続安定性向上などが行われている。
筆者宅のtransix環境で実際に使っている限りでは、目立つ不具合はない。残念ながら、このMAP-Eでの不安定さがどれほど改善されたのかを実際に確認することはできないが、インターネット上の口コミなどを見てみると、どうやら問題は解消されているようなので、現状は問題ないと判断してよさそうだ。
2.5Gbpsを生かしてWi-Fi実効速度1.2Gbpsを実現
それでは気になる速度をチェックしてみよう。
今回は、2.5Gbps対応のWANポートを設定でLANへ変更し、ここに2.5Gbps対応のPCを直結して、筆者宅の各フロアでiPerf3によるWi-Fiの速度を測定した。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
PC | 上り | 1080 | 202 | 153 | 102 |
下り | 1230 | 616 | 426 | 318 | |
iPhone | 上り | 443 | 227 | 118 | 31 |
下り | 755 | 466 | 236 | 97 |
結果を見ると、やはり近距離の性能がいい。Intel AX200の搭載により2ストリーム160MHz幅に対応し、リンク速度は2402MbpsとなるノートPCで、下り1.23Gbpsと1Gbpsオーバーを実現できた。Wi-Fi 6の威力を生かしたいなら、やはり有線側の2.5Gbps化は必須と言ってよさそうだ。
中距離と長距離に関しても値は優秀だ。160MHz幅が使えるノートPCでは、2Fでも下り616Mbpsと、低価格なWi-Fi 6ルーターの1Fでの計測と同等の速度が実現できており、最も遠い3F端でも318Mbpsと非常に速い。
下りに比べて上り速度の性能が若干伸び悩む傾向が見られたが、これがテストを実施した日の周囲からの影響か、本製品の特性なのかは判断が難しいところだ。
なお、リンク速度が最大で1201Mbps(2ストリーム80MHz幅)となるiPhone 11での値も優秀だった。1Fで下り755Mbps、3F端で下り97Mbpsと、PCに比べて若干低めだが実用性は問題ない印象だ。
有線が2.5Gbpsへ対応することで、1Gbpsオーバーの実効速度を実現できるメリットは大きい上に、遠い距離でのWi-Fiの速度も高いので、テレワーク需要などで自宅のWi-Fi環境を改善したいというニーズにも対応できるだろう。
ホームネットワークリンクは今後に期待
このほか、初期設定が付属のQRコードから簡単にできたり、回線を自動的に判断できたりと、使いやすさの面でも優れており、設定に困ることはない。
また、「見えて安心ネット」で接続中の端末を一覧表示して管理したり、QoSでテレワーク用のPCやゲーム機の優先度を上げたり、子どもの利用時間を制限したりもできる。
個人的には、ファームウェアの更新やWi-Fi接続情報のチェックなどをリモートで管理できる(しかも自宅以外に実家など複数グループの管理もできる)「ホームネットワークリンク」に注目していたのだが、本稿執筆時点では、まだ対応ファームウェアがリリースされていない(2021年夏予定)。このあたりは改めてレポートすることにしたい。
クラウドやアプリでのルーター管理は、すでに法人用途では当たり前になりつつあるし、海外メーカーでも個人向け製品での採用が進んでいる。いよいよ国内メーカー製品でも一般化しそうなので、今後が楽しみだ。
ということで、Aterm WX3600HPは、もともとのハードウェアスペックの高さに、ソフトウェアの完成度が追い付きつつある状況で、現時点での完成度も悪くないが、今後も期待できる。
実売価格が1万3000円前後と手頃なのもうれしいポイントで、バランスがいい製品と言える。Wi-Fiと有線の双方が高速な環境を整えたいユーザーには、特に検討する価値のある製品だ。