トポロジカル量子コンピュータを実現する「非可換エニオン」粒子の性質が解明

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磁性絶縁体α-RuCl3の熱ホール伝導度の磁場依存性

 京都大学、東京大学、東京工業大学、横浜国立大学、岡山大学およびドイツのケルン大学などの研究チームは共同で30日、量子コンピュータのワイルドカードになると期待されている、「非可換エニオン」と呼ばれる粒子の性質を解明したと発表した。

 従来の量子コンピュータでは、熱擾乱などの環境ノイズによって量子の状態がすぐに変化してしまうため、トポロジカル量子コンピュータと呼ばれる新しい動作原理に基づく方式が提唱されている。しかしこのトポロジカル量子コンピュータの実現には、物質中で創発される非可換エニオン粒子を使う必要がある。

 3次元空間にはボゾンとフェルミオンと呼ばれる2種類の粒子しか存在せず、どちらの粒子も同種粒子を2回入れ替えると元の状態に戻る。しかし2次元空間に存在する非可換エニオン粒子は、2回入れても元に戻らないという性質を持つ。これを利用することで量子ビットを構成し、粒子の入れ替えが量子計算のステップの一部になれば、環境ノイズに対して安定的に量子計算を行なえると考えられている。

非可換エニオン粒子の特徴

 非可換エニオン粒子探索の過程で、「キタエフ量子スピン液体」と呼ばれる状態を示す磁性絶縁体が注目された。この液体では絶対零度でも電子スピンが凍結せず、複数のマヨラナ粒子に分裂、磁場をかけると非可換エニオン粒子が創発されることが提案されていた。研究チームは2018年の実験により、マヨラナ粒子と非可換エニオン粒子の存在の証拠を与える半整数熱量子ホール効果を観測できたが、粒子のトポロジカルな特性の詳細はわかっていなかった。

 今回研究チームは、キタエフ量子スピン液体の候補物質である磁性絶縁体α-RuCl3の量子スピン液体状態において、熱ホール伝導度を高い精度で測定。その結果、半整数熱量子ホール効果が、磁場を蜂の巣格子面に平行にかけた場合にも半整数量子化が起こることを発見。さらに、磁場を蜂の巣格子面に垂直な方向から±60度傾けた時に、半整数熱量子ホール効果の符号が反転することも明らかとなった。

 これは理論予想とほぼ一致し、物質中にマヨラナ粒子や非可換エニオン粒子が安定して存在することを示し、かつトポロジーが実験的に示されたという。

キタエフ量子スピン液体

 今後はトポロジカル量子計算の実現が可能かどうかの実証に向け、これらの粒子を直接検出し、操作する方法の開発を目指すとしている。

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