デジタルガレージとDG Labは、6月14日、都内で「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022」を開催した。2005年の初開催から数えて22回目となる今回は、「web3 Summer Gathering ~未来からのテクノロジーの波をサーフしろ~」をテーマに掲げ、業界の有識者らがweb3が実現する分散型社会の未来について語った。なお、本カンファレンスは、会場(東京・渋谷パルコDGビルのカンファレンスホール「Dragon Gate」)と、オンライン配信の両方で実施された。
この記事では、イベントで実施された基調講演やセッションの一部を紹介していく。
web3はインターネットを「join」へと進化させる
セッションに先駆け、デジタルガレージ(以下、DG)共同創業者 取締役 兼 専務執行役員Chief Architectの伊藤 穰一氏は、「web3がもたらす社会変革」と題する基調講演を行った。
まず伊藤氏は、古代メソポタミア文明の粘土板の写真を示し、「ここからアカウンティング(会計)が始まりました。誰が何をどのぐらい所有しているか記録することで、人類は初めて何万人もの都市を作ることができた」と話し始めた。
さらに、600年から700年前ほど前に、イタリアのメディチ家が複式簿記を使い始め、記録の技術が経済の発展を促したことが、今日の資本主義のベースにあると語った。
ただ、これらの記録が生み出した社会は、権力者など一部の人のみが情報を握る中央集権型であり、web3はこれを大きく変革する可能性があるという。
伊藤氏は、自身のイーサリアムウォレットを提示し、「ブロックチェーンでは、誰もが中身を見られます。今まで起きた全ての取引が確認でき、しかもこの帳簿は誰にも改変できない」と、web3のベースとなるブロックチェーンのコンセプトを解説した。
続けて伊藤氏は、web3の特徴を一言で言い表すなら「join(参加する)」だとした。Web1.0が世界のどこからでも情報を閲覧できる「read(読む)」を実現し、続くWeb2.0では、SNSの登場により誰もが情報を発信できる「write(書く)」世界になった。
「ブロックチェーン上に構築されるDAO(分散型自律組織)では、トークンを所有することで投票ができ、組織の運営に直接関われる」と、join(参加)によって、組織や社会を大きく変える可能性を示した。
DAOと株式会社の違い
伊藤氏は、昨年市場が盛り上がったNFTについて説明した後、再びDAOの話に戻った。トークンの所有者が投票権を持つDAOは株式会社に例えられることが多いが、伊藤氏はそこには大きな違いもあると言う。
「ひとつは、トークンの多くがサービスの利用者に割り当てられることです。DAOによっては半分以上です。これによって面白い現象が起きている。お客さんは、もしかしたら儲かるかもしれないと、どんどん新しいサービスに行くんです。サービスを使うことでサービスが利益を出すし、お客さんにも利益がある」
伊藤氏は、かつて大企業がストップオプション制度を導入したことで、会社が成功すれば社員にも利益が還元されるようになったこと、そして、ベンチャーキャピタルが新しいベンチャーに投資することでリターンを得ようとすることを事例に挙げ、DAOでユーザーが移動することは自然なことだとした。
DAOは簡単に作れ・運営でき・止められる
伊藤氏は、DAOのもう1つの大きな特徴として、簡単に作れ、簡単に運営できることを挙げた。
「株式会社を設立するのとは異なり、銀行口座もハンコも弁護士も不要です。DAOの作成や運営のためのツールは、ほとんどタダで手に入りますし、他の人が作ったDAOをそのままコピーもできます。僕と同じDAOを誰か今作りたいとなったら、多分5分で作れちゃいます」
伊藤氏は、友達と飲み屋にいてもDAOは作れるとし、「トークンを発行してお金を入れて、その店で使ったら止めてもいい。止めるのも簡単ですから。もしも、これは楽しいとなったら、さらに人を増やして、例えばお気に入りのクラブを買って運営することすら可能です」と伊藤氏は語った。
また、直接ブロックチェーン上で受発注できるDAOは、間接的にかかる費用が少ないこともメリットだという。例えばフリーランスの雇用でも、人材派遣会社などに手数料を取られることがない。伊藤氏は、これらのメリットから、今までの株式会社と違う、新しいベンチャーのあり方が生まれる可能性を示した。