世界経済を見渡すと二つの問題に注目が集まります。一つがサプライチェーン、もう一つが半導体不足です。サプライチェーン問題は労働力や原材料不足、輸送手段がありますが、その中に半導体不足も入っているともいえます。
労働力については適材適所にならないミスマッチ状態が指摘されていることとコロナからの労働力回復が十分ではないことがあります。輸送に関しては船便も航空便も尋常ではない物量で船便の混載はフォワーダーとある程度お付き合いしていないと荷物を引き受けてもらえないぐらいになっています。
ビジネスの裏側ではそんな熾烈な戦いが行われているのですが、その中でも最大のカギを握るのが半導体でその過不足が多くの企業の業績の先行きを占う状態となってきました。日欧米、半導体が原材料の製品を作る企業は4-6月の決算がどれだけ好調でも通期の業績予想を変えていないところが多いと思いますが、それ位読みにくい状態にあるともいえそうです。
本日アメリカで発表になった7月の新車販売台数は前月比4.2%減で年換算1480万台となりました。事前見込みが1530万台で予想を下回る状態となっています。ちなみにコロナ直前の2020年2月が年換算1690万台でしたので12%も下落しているのです。半導体が足りないので自動車が十分、作れないのです。当然価格も上昇気味で新車価格は1年前に比べ5.3%上昇、ちなみに中古自動車は45.2%も上昇しているのです。
トヨタが発表した4-6月の決算は最高益でどの指標を見てもすさまじく強い結果となっていますが、それでも通期見通しを変えていません。これはトヨタの保守性なのか、本気で読めないとみているのか、判断しにくいところですが、トヨタは半導体確保では他のメーカーに比べ先んじていたとされる中で供給能力の限界の壁が差し迫っている可能性は否定できないのかもしれません。
一方、ソニーも決算発表をし、通期見通しは上方修正したもののアナリストの事前予想を下回っています。その足を引っ張ったのがゲーム部門。4-6月の同部門の利益は33%減となったのはPS5の製造コストが販売価格より高いのが原因とブルームバーグは報じています。今後については販売目標分の半導体は確保しつつあるものの予断は許さない状態とCFOがコメントしています。
更にはアップルが半導体不足で製品が十分に供給できず、ソフトバンクが販売計画に影響が出るかもしれないとコメントしています。
このような業績見込みは半導体を必要とする企業では押しなべて同様で日本ではエアコンやカーナビすら供給が十分ではなくなってきているのです。
半導体は需要と供給の先読みが難しい業種で先行きが低迷しそうなときに強気になれないと今回のような状態に陥った際にはにっちもさっちもいかないことになってしまうのです。その半導体の生産拠点はアジアが8割。その上位は中国、台湾、韓国の3カ国で50%、更にシンガポール、マレーシアを加えた5カ国で7割になるのです。つまり生産拠点がいびつなのです。これは災害や地政学的リスクを考えると非常に不健全な構造と言えます。特に中国と台湾の関係だけを考えても仮に政治的ないし軍事的問題が生じれば世界の製造の心臓は一瞬にして止まり、経済が崩壊することすら起こり得るのです。
一方、専門家は半導体の先行き見通しについて焦点が定まっていないようです。メーカーの半導体発注が不足分を加味した過剰発注になっているようで、コロナの行方次第で発注量を減量する可能性があり、半導体業界は踏み込めないという見方があります。工場新設となれば半導体投資は巨額ですので一歩間違えれば極めて大きなリスクを抱えることになります。
ただ、個人的には半導体の需要は今後も旺盛だとみています。あらゆる製品に半導体が使われるのは時代の趨勢、またEVや自動運転車は自動車というより巨大なエレクトロニクスです。現在の自動車製造には汎用型の半導体で賄えますが、そのうちにスマホに内蔵されているような最先端の半導体が必要になるのは目に見えています。
半導体不足が収まるのは1〜2年を要するとみている専門家が多いようですが、工場だけではなく、その製造装置そのものも不足しつつある点を考えると私は恒常的な半導体不足に陥るケースはあり得るとみています。そうなればどの業界も業績の上振れというわけにはいかなくなる可能性は頭に入れておいた方が良いかと思います。また関連製品の値上がりも当然、付随してくるものと思われます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月5日の記事より転載させていただきました。