世界では意外にも禁止が多い電動ボードキックボード。どんな課題が?

マイクロモビリティのシェアサービス、LUUPを中心に日本でも広まりを見せつつある電動キックボード

海外でもさぞかし盛り上がっているだろうと思って久々に調べてみたら、パリやマドリードでは全面禁止だし、乗ってOKな街でも規制が話し合われていたりして、げ…そうなの!?となりました。

Image: McKinsey.com
世界100主要都市のうち全面禁止は35市、運営会社数に制限ありが13市、なしが23市(日本含む)、規制なしが29市

海外の主要都市における、電動キックボード系サービスの主な動きを少しまとめてみました。

パリ:違反が横行して禁止に

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Video: TRT World

ヨーロッパでいちばん先にeバイクや電動キックボードのレンタルシェアが広まった都市といえばパリ。2018年から広まって、コロナ禍ではバスや電車を避けたいパリジャンがこぞって乗っていました。

ですが、旅行者の数が通常に戻ると、街が電動キックボードだらけになって、車間のジグザグ運転、時速27kmで飛ばすスピード違反、相乗りが横行。乗り捨てた電動ボードが通行の妨げになって、怒った市民の中には電動ボードに火をつけたりセーヌ川に投棄して抗議する人も出てきたり…。事故で死亡8人、けが数百人の被害が出たこともあって、5年後にはヨーロッパでいちばん先に禁じる都市になってしまったのです。

市長の呼びかけで行なった昨年4月の住民投票では89%が禁止に賛成票を投じました。投票したのは有権者138万人中、約10万3000人で投票率たったの7.5%。反対の人ばかり投票に行ったような状況です。民泊禁止とほぼ同時進行だったので、オーバーツーリズムへの反発が大きな要因でした。

マドリード:行政からの要件クリアならず

フランスの首都に続けとばかりに、隣国スペインの首都マドリードでも電動キックボードのシェアリングサービス会社は昨年10月をもって営業停止になりました。影響を受けたのはLime、Dott、Tierの各社です。

3社には2023年5月に1社につき2000台の上限つきで営業許可が下りたんですが、そのとき市に提示された要件を満たせなかったのが、その理由。要件というのは、市内全域での営業展開、保険の適用、禁止区域での巡回・駐車をブロックする技術の導入、事故のときレンタル利用者のデータに市がアクセスできるようにすること、などです。

営業許可取り消しのことは9月に市長が発表したんですけど、3社にとってはまさに寝耳に水でした。 1年半の猶予はあったわけですが、結構キツいハードルだったのかも。

メルボルン:禁止は行き過ぎだという専門家も

オーストラリアのメルボルンでも今年8月、類似の理由でLimeとNeuronの営業許可取り消しが決まりました。

2社は2022年から州の許可を得て試験的に運用していたのですが、10月から州全域で本格稼働することになって、大都市のメルボルンの市議会が「NO」と決議したってなわけです。

ただオーストラリアは土地が広いので電車が止まらない地域もたくさんあります。モナッシュ大学交通研究所アレクサ・デルボスク准教授などは「公共の足がないときに使われるケースが多いのに。禁止は行き過ぎだ」と批判しています。

最初から郊外限定で試運転されていた首都シドニーではメルボルンほど問題が表面化していないので、人混みのあるナシも大きそうです。

ニューヨーク:法案を整備中

人混みと言えばニューヨークですけど、こちらは「電動ボードの事故の90%はひき逃げに終わる」を合言葉に車両登録と免許取得を義務化する法案が市議会で話し合われています。法案の名前は、電動キックボードに轢かれて亡くなったPriscilla Lokeさんの名をとって「Prischilla’s Law(プリシラ法)」。

アメリカ全体で見ると、eバイクと電動キックボードによる死者の数は2017年から2022年にかけて215人、救急搬送は25万件にのぼり( 全米消費者製品安全委員会調べ)、ひき逃げ予防が急務となっています。

イタリア:ルールを整備中

Image: WION

いっぽうイタリアでは2023年だけで死者21人、けが人3300人以上を記録し、ヘルメット着用、保険加入の義務化が話し合われています

シンガポール:専用レーンのみ走行可

歩道での利用が2019年に禁止になって、今は自転車専用レーンでしか乗れなくなってます

中国:一部のエリアでテスト中

主要都市では軒並み禁止ですが、今年5月、Naveeが蘇州市と共同で試運転に乗り出したのが新しい動き。eバイクと電動スクーターを合わせて年内1万台導入を予定しています。「試運転が成功すれば、国の規制緩和につながるだろう」とCEOはZAGに抱負を語っていますよ。


日本も当初は免許が必要(原付き免許だけだとNG)、歩道走行がNGだったり最高速度が抑えられていたりしましたが、のちの法改正でそれらの制限は緩和されています。

ガッチガチに規制してスタート、試運転しながら徐々に規制を緩和していく日本式の石橋をたたくアプローチは世界全体で見るとレアケース。規制が変わるたびに撤退する事業者もでてきて、まるでサバイバルゲームだなあって思いました。各国各様で特色が出ますね。

Future Market Insights(FMI)の最新調査によると、世界の電動キックボードシェアリング市場は2022年の11億ドルから2032年には57億ドル市場に急成長が見越されるんだとか。国によって交通ルールや法律が違いますが、まだまだ整備が進んでいないため、これからなのかもしれませんね。

Sources: Forbes, CNN, SBSNews, WION, ZAG, note