人類の月面再訪を目指す「アルテミス計画」の一環として、宇宙飛行士たちは月の南極地方を探索します。
そんな彼らを支援する有人月面探査車(Lunar Terrain Vehicle、LTV)の開発に取り組む3つの民間宇宙ベンチャーが選定されました。
NASAがアルテミス計画用の車両を開発する企業として選んだのは、Intuitive Machines(インテュイティブ・マシーンズ)社、Lunar Outpost(ルナ・アウトポスト)社、Venturi Astrolab(ベンチュリー・アストロラボ)社。
今月上旬に行なわれた記者会見で、NASAは3社へのタスクオーダーを含むLTVサービス契約の総額は最大で約46億ドルになると発表しました。LTVは2029年9月に打ち上げ予定のアルテミス5ミッションから使用される予定です。
アポロ計画時代の月面車との違いは?
NASAジョンソン宇宙センターのVanessa Wycheディレクターは、記者会見の中でLTVについて以下のように説明していました。
「宇宙飛行士たちが運転していたアポロ時代の月面ローバーと、無人移動の科学プラットフォームとのハイブリッドだと考えてください。これによりクルーは、着陸地点からさらに遠い距離へ移動できるようになります」
アポロ時代の宇宙飛行士たちが乗り回していたバッテリー式のムーン・バギーは、手動での運転で月面を横断するものでした。アルテミス計画用の設計でNASAが望んでいるのは、宇宙飛行士たちがいなくとも単独で月を探査できるようなロボティクス、遠隔操作機能を備えた自律走行車の開発です。
アルテミス用の有人月面探査車は、今後のミッションでNASAの目標地点となっている月の南極地方の過酷な環境にも耐えられなくてはなりません。
月の南極の永久影という領域には溜まった水氷が隠されているかもしれず、宇宙飛行士たちが未来の月面居住地を築くための貴重な資源として使える可能性があるからです。
今後の流れ
各社は1年かけてNASAの要件を満たすシステムを設計します。その後、LTVの開発を終わらせて月面に輸送するデモンストレーション段階には、NASAは1社のみを選ぶ予定です。
NASAジョンソンの船外活動・有人月面移動計画のマネジャーLara Kearney氏は、前述の記者会見で契約の内容についてこう語っています。
「これらの企業には有人月面探査車の設計・開発・納品だけでなく、その車両を月面に届けることを求めました(中略)彼らの提案の一環として、彼らはLTVの設計だけでなく、その打ち上げ方法も提案しました」
難題ではありますが、競っている企業のうち少なくとも1社には宇宙機を月に送った経験があります。Intuitive Machines社は2月にNASAの商業月面輸送サービスの一環として月着陸船「オデュッセウス」を月に降り立たせ、月面着陸を成功させた初の民間企業となっています。
「1カ月ほど前、記者会見でこの部屋にいて、月への軟着陸の成功を祝っていたのを覚えています」とIntuitive Machinesのスティーブ・アルテムスCEO。「これは月面のインフラの極めて重要な最初のパーツを置くための心躍るような次のステップです」と記者会見で述べていました。
開発されるのは非与圧式のローバー
宇宙航空研究開発機構JAXAとトヨタ自動車株式会社も有人月面探査車「ルナクルーザー」の開発を進めていますが、こちらは与圧室内で宇宙服を脱いで生活できる「有人与圧ローバ」というタイプ。それに対し今回の有人月面探査車は月面用宇宙服を着たまま乗る、非与圧式になります。
Source: NASA,