もがく楽天、どうする携帯事業:財務的には更に厳しさを増すことに

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ここにきて楽天の話題が再び増えてきました。1つは日本郵政が所有する楽天株の下落により850億円もの減損処理を強いられたこと、2つ目は「選択」という情報誌が楽天にMBOの可能性を示唆したこと、3つ目は楽天証券HDの上場を申請したことがあります。さまざまな憶測が飛び交う楽天ですが、どう展開するのでしょうか?

三木谷浩史・楽天社長 同社長SNSより

今回楽天証券HDを上場させることで最大1000億円程度を調達するものですが、携帯事業の赤字を考えると即座に消えてしまいます。三木谷氏が楽天銀行に続き、証券も上場化させるのは今後5年で償還を迎える社債が1兆2千億円もあるからでしょう。もちろん、借り換えをするとは思いますが、条件は悪化せざるを得ないとみています。とすれば財務的には更に厳しさを増すことになります。

この難局を乗り越える選択肢は限られます。ベストは携帯事業の止血を早期に実現すること、2つ目は携帯事業を止め、携帯事業3社のどれかに売却すること、このどちらかしか残っていません。三木谷氏は携帯事業参入にあたり、総務省から周波数を割り当てられるに際し、楽天が継続できないなら割り当て周波数を国に返納することとなっているのです。つまり、三木谷氏はこの事業参入を決めた時点で不退転という美しい言葉と言うより経営者としてフレキシビリティをなくしてしまったのです。

つまり売却しようにも買い手は周波数がないのです。とすれば現在の総務省のポジションが変わらない限り、買い手は既存3社のどれかでしかないのです。しかし、既存3社が楽天の中途半端な携帯事業を買収する理由はほぼ存在しません。あるとすれば楽天グループ全体の魅力でしょう。つまり、携帯事業の売却=楽天グループの売却でしかないというのが私の見方です。ただ、その場合は独占禁止法に抵触する公算がありますから簡単ではないでしょう。

そんな中、「選択」にMBOの可能性が掲載されているそうです。同誌は書店で入手できないので読めないのですが、個人的にはMBOをする意味が不明だと思います。特に発行済み社債が1兆2千億円もある中で非上場化したらならば先般経営破綻した元みずほ系の不動産会社、ユニゾと同じ道を辿ってしまいます。これは社債ホールダーにとっては悪夢になりますから個人的にはそもそもの選択肢になりえないとみています。

三木谷氏は再三、携帯事業は改善してくる、と述べています。また繋がりにくさを解消するためのプラチナバンドの割り当ては秋にも決定すると思われます。現時点で割当先は決まっていないことになっていますが、そもそもの発想が楽天救済ですので楽天に割り当てられるのでしょう。それでも工事をしなくてはいけないので即座に効力を発揮するわけではありません。

一経営者の目線で見ると楽天は今が一番苦しいところに見えます。三木谷氏がギブアップをせず、この難局を乗り越え、誰が何と言おうとも資金を供給し続け、三木谷夫妻がすっからかんになるリスクを背負ってでも携帯事業を形にするつもりなら3年ぐらいすれば改善するかもしれません。

株価も500円を割り込んだあたりが当面の下値でここから先はやや戻し気味になるだろうとみています。楽天経済圏の規模と収益を考えれば株価は安すぎるように見えます。実は私は長年に渡る日産自動車の不振ぶりを株価で見ながら、ルノーとの一件を片付けたことで株価の回復基調をある程度予想していました。事実、今年の値動きだけ見るならトヨタの30%上昇に対し、日産は50%上昇なのです。つまりあるきっかけで視界が開けるのです。とすればまずは秋のプラチナバンドの割り当て、そして楽天証券HDの上場あたりからようやく薄日が差すのだろうとみています。「夜明け前が一番暗い」という格言もあります。

三木谷氏にとって血尿が出るほどの苦しみだと思います。携帯事業に参入を決めた時、私は絶対に間違いと再三指摘しました。多くの専門家も同様の指摘をしたはずですが、絶好調だった三木谷氏は誰の声も聞かず、携帯事業が楽天グループのひな壇に鎮座する不動のビジネスになると思ったのでしょう。

しかし、ひな壇に据えるにしても三木谷氏は携帯事業でガンガン儲かることは期待していないとされます。ならば携帯事業から楽天商圏にどれだけ顧客誘導できるか、その明白な道を描かない限り、帝国の基盤はぐらつきます。折しもヤフーとLINEのZホールディングスも苦しんでいます。楽天的なビジネスは無いということなのでしょう。

とはいえ、三木谷さんは優れた事業家です。何らかの形で携帯事業を安定化させて乗り越える期待をしています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年7月7日の記事より転載させていただきました。

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