映画・ゲーム・小説などのエンタメが厳しく規制されるキューバ国民に人気の非合法サービス「エル・パケテ・セマナル」とは?

GIGAZINE
2023年06月14日 23時00分
メモ



キューバでは高速なインターネットの普及率が低く、さらに映画やゲーム、小説といった娯楽コンテンツに厳しい規制が設けられています。そのため、キューバ国民の間では「エル・パケテ・セマナル」と呼ばれる非合法のコンテンツパッケージサービスが普及しているとのこと。キューバの情報を発信する独立系メディアのelTOQUEが「エル・パケテ・セマネル」についてまとめています。

EL PAQUETE SEMANAL: ALTERNATIVA ANTE LA DESCONEXIÓN EN CUBA
https://paquetesemanal.eltoque.com/


El Paquete de Dany – YouTube
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キューバの国営テレビにはチャンネルが8つあり、1日あたり合計140時間以上の番組が放送されています。しかし、2008年まで海外で制作された映像コンテンツに触れられるのは、認定外交団の施設、キューバ国民の滞在が認められていないホテル、特定の国家機関とごく一部の人だけでした。また、1987年に制定されたキューバの刑法303条では、「出版物・版画・映画・磁気テープ・録音・写真・わいせつ物など、慣習を歪曲(わいきょく)または劣化させる傾向のあるものの制作と流通を禁止する」ことが定められています。さらに、刑法103条では「社会秩序または社会主義国家を揺るがすようなプロパガンダの作成・配布・所持」が禁止されています。

法律で禁止されているということは、エル・パケテ・セマネルはもちろん非合法なサービスとなります。このエル・パケテ・セマネルを誰が始めたのかは不明ですが、起源は非合法なレンタルビデオ屋だとのこと。当初はVHSやCDをこっそりと貸し出すサービスだったのが、コンテンツのデータ化が主流になり、コンテンツを収録したUSBデバイスを配達するようになったというわけです。


「エル・パケテ・セマネル」はスペイン語で「汎用(はんよう)品」という意味で、このエル・パケテ・セマネルは週に1回、「パッケージ」と呼ばれるコンテンツの詰め合わせセットが更新されます。エル・パケテ・セマネルのパッケージは業者が持つHDDに納められており、その場所を知る者が自分の友人や親戚、近所の人から頼まれてUSBドライブにコンテンツをコピーします。


elTOQUEによると、エル・パケテ・セマネルのコンテンツ流通の主な経路は以下の通りだとのこと。

1:衛星放送やインターネットを使ってコンテンツを録画したりダウンロードしたりする人。あるいはスタジオでアーティストを使って音楽を録音するプロモーター。
2:録画・ダウンロードする人やプロモーターから提供されたデータを整理する人。
3:本部と直接交渉してデータを購入し、手元のHDDに週替わりで収録する一次購入者。
4:一次購入者からコンテンツを購入する二次購入者。
5:二次購入者からコンテンツを購入し、さらにコンテンツを収録するUSBドライブの書き換えサービスや衣料販売なども一緒に行うメッセンジャー。
6:メッセンジャーを通じて間接的にコンテンツを一次購入者から購入する最終購入者。

メッセンジャーは二次購入者から週に2ドル(約280円)を支払ってコンテンツを購入しますが、メッセンジャーは最終購入者となる各世帯から週に1ドル(約140円)を受け取ります。あるメッセンジャーは2020年12月時点で、週に合計100ドル(約1万4000円)以上の収入を得ていたとのこと。当時のキューバの平均月収は30ドル(約5200円)だったことを考慮すると、かなりの収入を得ていることになります。また、流通経路の先端にいる録画やダウンロードを行う人の場合は、週に1000ドル(約14万円)の収入を得ることもあるそうです。

elTOQUEによると、2017年12月25日から2020年3月2日までの間にエル・パケテ・セマネルで更新されたパッケージは246種類で、収録されるファイルは165万9582個・合計125.67TBに及ぶとのこと。映画やメロドラマ、ミュージカル、ミュージックビデオ、バラティ番組、スポーツ、アニメ、ゲームのISOデータ、小説などが配布されていたそうです。


特に、キューバでは合法的な音楽市場が存在しておらず、キューバの国民音楽は長らくアンダーグラウンドで流通しているとのこと。YouTubeやApple Music、InstagramやSpotifyなどで配信はされているものの、そういったプラットフォームはキューバでブロックされているため、結局自国の音楽でありながら、エル・パケテ・セマネルで普及しているのが現状となっています。

なお、キューバ政府はエル・パケテ・セマネルの普及をどうにかするべく、なんとこのエル・パケテ・セマネルの海賊版を政府が運営し、クラシック映画やクラシック音楽、教材を配布するという対処方を採用しました。このエル・パケテ・セマネルの海賊版は、スペイン語で「本をいれるカバン」を意味する「Mochila」あるいは「Maletín」と呼ばれましたが、もちろん国民からは不評で効果はほとんどなかったそうです。

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