なか卯、親子丼を逆に「値下げ」の衝撃…それでも価格相応とは程遠い残念な理由


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なか卯「親子丼」(撮影=重盛高雄)

 原材料価格やエネルギーコストの上昇を受けて外食業界で値上げが相次ぐなか、丼もの・うどんチェーン「なか卯」が、主力メニューである「親子丼」の値下げに踏み切ったことが話題を呼んでいる。なぜ「なか卯」は業界のトレンドに抗うかのように、あえて値下げを行ったのか、また、そのクオリティーを勘案すると値下げ後の450円(並盛/税込、以下同)という価格の妥当性はどう評価すべきか。専門家に聞いた。

 外食業界は近年稀にみる値上げラッシュに見舞われている。牛丼チェーン「吉野家」は昨年10月に価格改定を実施し、「牛丼」「豚丼」などの丼メニューの本体価格を一律で20円値上げし、「牛丼」(並盛)は448円に。ハンバーガーチェーン「マクドナルド」は1月、「ハンバーガー」を150円から170円に値上げ。「熱烈中華食堂 日高屋」は3月、主要商品を10~50円値上げ。カレーチェーン「カレーハウスCoCo壱番屋」は昨年12月、カレー6品目を44円値上げ。ファミレスチェーン「ガスト」は昨年10月、メニューの約半分を値上げし、「チーズINハンバーグ」を769円から824円(都心部)に値上げした。

 一方、イタリア料理チェーン店「サイゼリヤ」は値上げをしない方針を打ち出し話題を呼んだが、さらに踏み込んで値下げを実施しているのが「なか卯」だ。丼ものや京風うどんをメインとする「なか卯」。あげ玉入りの「はいからうどん」(並)は290円という破格の安さで、うどん以外にも「牛すき丼」(並盛/530円)、「うな重」(並盛/900円)、「和風カレー」(並盛/490円)などの日本人の定番メニューを揃えている。

 なかでも主力メニューである「親子丼」へのこだわりは強く、同社HPによれば、鶏肉は厳選したものを使用し、卵を産むひな鶏は自社で特別に開発した飼料を用いて飼育し、ひな鶏が元気に育つための健康管理やワクチンプログラムまで確認。独自の品質管理基準に則り、仕入れから殺菌、検卵、保管までを一気通貫で管理している。

「大阪発祥のチェーンだけあり、メニューの味付けは全体的に薄味で上品。日本の定番料理である親子丼をメインとする大手チェーンは意外にも他に見当たらず、競合が少ない点も『なか卯』にとっては追い風となっているが、同社自らHPで『専門店にも負けない』と謳っているとおり、そのクオリティーはそこそこ良い。2005年にはゼンショーホールディングスの子会社となったことでグループの規模を活かして調達コストを低減できるようになり、よりいっそう価格競争力が高まった。同じゼンショーグループの『すき家』などとうまく『すみわけ』ができている」(外食業界関係者)

 そんな「なか卯」は4月、「親子丼」(並盛)を490円から450円に値下げ。ちなみに松屋の親子丼は500円、吉野家は鶏卵の供給不足の影響で今春の親子丼の販売を見送っている。

「現在、外食チェーンに限らず飲食業界共通の悩みが卵の入手とその価格上昇。その点、以前から供給元と太いパイプを築いてきた『なか卯』は引き続き安定的に調達を維持できている様子。値下げの背景には、そうした『なか卯』の優位的要因もあるが、親子丼を主力商品とするだけに、松屋をはじめとする競合他社と比較して明確な『安さ』を打ち出したいという戦略もあるのでは」(同)

 では、「なか卯」の親子丼の450円という価格は、そのクオリティーを考慮するとどう評価できるのか。また、この価格はたとえば吉野家の牛丼(並盛)とほぼ同じ価格だが、他の外食チェーンと比較してみて、この価格は安いといえるか、高いといえるか。フードアナリストの重盛高雄氏に解説してもらう。

価格的にインパクトはあるものの価格相応にはほど遠い?

 都内の店舗で食べてみたが、逸品とは感じなかった。確かに丼の中に鶏肉と卵とじが入っているので親子丼ではある。調理場から卵を割る音は聞こえてこなかった。火にかける直前に卵を割っているのか、事前に仕込んだ卵液を使用しているのかは確認できなかったが、「かつや」では店員が仕込みの時に卵をカップに割り入れている姿を見かける。都度卵を割っていたのでは効率が悪く、殻のかけらが商品に混入することを避ける狙いもあるのだろう。

「なか卯」は「こだわりの卵」を使用しているとしているが、ふわふわ感はなく味わいは薄い。卵白の持つキメとコシも感じられない。鶏肉の大きさで食感を底上げしているという印象を受けた。各商品のどんぶりもサイズは小さめだ。日曜昼どきの来店客は、子供連れのファミリー層が多く見受けられ、単価を優先する客層が集まっている印象を受けた。「うな重」などの単価の高い商品はあるものの、低価格のメニューを選んでいる客層が多い。平日の昼時は近隣に勤める会社員が多く並んでいる風景を見る。ランチタイムが比較的混んでいるのは、やはり単価の安さによるところが大きいのではないか。小腹が空いた時にちょっと安価に食べられるものを求める客層をターゲットとして狙っているのではないか。

 各社がしのぎを削る朝食市場においても、なか卯は価格を優先し290円の「こだわり卵朝食」を展開している。ワンコイン(500円)という価格帯では牛丼チェーン各社も競い合っている。この価格帯で上質な商品を期待してはいけないのだろうが、親子丼は卵の黄身と白味、そしてだしと鶏肉の4種の具材がバランスを取りながら丼という小宇宙の中でハーモニーを奏でる商品だ。残念ながら「なか卯」の親子丼は、卵を使用する商品が軒並み値上げされるなかでの値下げは消費者から歓迎されるだろうが、価格的にインパクトはあるものの価格相応には程遠いものであった。

(文=Business Journal編集部、協力=重盛高雄/フードアナリスト)

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