世帯年収600万円でも当たり前…中学受験の意外な目的、公立校「不信」も拍車


(「gettyimages」より)

 首都圏模試センターによれば、2023年の首都圏中学入試の「私立・国立中学校の受験者総数」は、5万2600人となり過去最多を更新。今や都内の小学生の4人に1人が中学受験をするといわれている。今後も受験者数は増えていきそうだが、同時にその理由も多様化。子どもの教育・学歴のため、将来の大学受験のためという理由のほか、「公立中学に進ませたくないから」「友達が受験するから」といった理由も増えている。

 たとえば、2月18日付の「マネーポスト」記事では、公立中学の教育体制に不安を感じ、私立中学の受験を決めた家庭の体験談が紹介されていた。記事内に登場する保護者は、もともと公立志向だったのだが子どもが地元の公立小学校でいじめに遭い、学校側にもまともに取り合ってもらえなかった経験から、公立学校のやり方に疑問を持つようになる。そこで私立校のほうが教育や生徒の管理体制がしっかりとしていて、人間関係のトラブルに発展する可能性は低そうだと見込んで、我が子を中学受験させる決心がついたと明かしている。

 中学受験を目指す児童・保護者の事情はどう変化しているのか。中学受験個別指導教室「SS-1」副代表で講師を務める馬屋原吉博氏に聞いた。

私立が多い都内では公立は敬遠されがち

 中学受験では、志望校合格のために決して安くはない授業料を払って子どもを塾に通わせるのが一般的。そのため経済的に余裕のある世帯年収1000万円以上の家庭が、中学受験のボリュームゾーンだったという。

「たしかにかつての中学受験は、高収入で経済的に豊かな家庭の児童が受けるというのが一般的でしたが、近年では世帯年収600~700万円クラスの共働き家庭も、中学受験を目指すケースが増えてきています。前提として、都内は私立中学が多く、ほかの地域よりも通学圏内で選べる学校の数が多い。また学校によって、校風や子どもの管理体制も異なってくるので、子どもの性格に合わせて選びやすい側面もあります。上手に入試日程を調整すれば、5、6校を併願して受験できるのも大きな利点ですね。

 都内はそのように選択肢の多さが背景にあるため、我が子に見合う最適な環境を整えてあげたいと考える親御さんが増えてきたのも理由のひとつでしょう。なかには学費がそこまで高くない学校もありますから、経済的にさほど余裕がない家庭の児童も含めて、中学受験者数は増えているのだと思います」(馬屋原氏)

 では中学受験を目指す家庭において、公立校に進学させたくないという動機はよくあることなのか。

「地元の公立中学の口コミを気にして公立校に進ませたくないと考える親御さんは少なくありませんね。内申点の取り方に偏りがあったり、少しクセのある先生がいたりした場合、不安になって公立を忌避する傾向は確かにあります。また、子どもの気質や性格を汲みこんで上手くケアできていない学校だった際には、私立中学に入学させたほうが安心だと感じる家庭もいるようです。あくまで私立のほうが我が子の将来を任せても問題はないと考える家庭が多いというだけですが、それだけ公立に不安を感じる保護者は増えてきているんです」(同)

近年の受験傾向とは

 そして公立中学への忌避以外にも、中学受験に取り組むこと自体を目標にする家庭もあるという。

「中学受験では、子どもが遊びを我慢して自分を極限まで追い込み、常に結果と向き合い続けることが要求されます。細かいスモールステップと大きな目標を並行して意識して勉強しなければいけないので、未熟な子どもでは精神的に参ってしまうかもしれません。ですが、こうして失敗や成功を重ねた経験や体験は、同世代の子どもではなかなか味わえない素晴らしい財産になるんです。

 近年では第一志望だけに集中するのではなく、我が子を通わせる価値のある学校を複数探し、併願プランを考え抜いたうえで入試に臨む家庭が増えています。中学受験では、そもそも第一志望に入学できる割合が2、3割といわれており、受験にかけた膨大な時間や費用のことなどを考え、とりあえずどこかの私立中学に入学させようという思惑もあるかもしれません。しかし、第一志望以外の私立に通うことになったとしても、あるいは最終的に公立に通うことになったとしても、合格を手にしたうえで次に進むことは、自分の積み重ねてきた努力が無駄ではなかった証明にもなるんです。これは子どもにとって大きな自信になるでしょうし、その後の人生でもこの経験が活きてくることは間違いありません。

 余談ですが、子どもから自発的に中学受験してみたいと志願するケースも一定数存在します。理由としては『友達が塾に通っているから』『友達が中学受験をするから』というものなのですが、個人的に子ども自らモチベーションを保って勉強に臨むことは、その子にとってプラスになることだと思います。同世代の子どもたちと連帯感を持ちつつ、競い合える機会にもなりますので、ほどよく楽しみつつ、緊張感をもって勉強できるはずです」(同)

 来年度以降の中学受験における試験問題の出題傾向について、いくつか従来とは異なるポイントがあると馬屋原氏はアドバイスする。

「まず近年の受験問題では、科目を問わず、インプットした知識をどう使いこなせるかを問う問題が出題される傾向にあります。たとえば、『議院内閣制』という用語について、その言葉の概要だけではなく、『アメリカの大統領制と比べてその違いを考えなさい』といった問題が出題されるんです。アウトプットの仕方が問われるようになってきたといえます。

 そのため、暗記だけするという旧来の勉強法では不十分です。暗記とその用語の理解があって、初めて最近の受験傾向に対応できるようになるので、単純に昔に比べて子どもへの負荷が増したともいえますね。ですから家庭でも子どもの覚えた内容について、どのように説明できるか、関連するほかの用語との違いを比較できるかなどを、さりげなく聞いてみて、学習内容の定着や創造的思考の醸成を図ることが重要になってきているのです」(同)

 学業面での心配のみならず、子どもの人間関係やその子に合う環境を憂慮してしまうのは、少子化や将来への心配が強くなった今どきの親ならではの悩みともいえ、そういった背景もあり中学受験者数が増えているようだ。

(取材・文=A4studio、協力=馬屋原吉博/中学受験個別指導教室SS-1副代表)

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