不動産データバンクの東京カンテイが、マンションの資産価値に関する興味深いデータをふたつ公表しました。マンションの場所選びから始めようと考えている人にとっては大いに参考になるデータです。
分譲時価格に比べて現在の価値はどうか
このほど東京カンテイが公表したのは、「2022年中古マンションのリセールバリュー」と、「2022年新築マンションPER」のふたつです。いずれも首都圏版と近畿圏版があり、駅別に、どの駅の資産価値が高いのかを示すデータであり、マンションの場所選びに役立ちます。ここでは首都圏のデータを中心にみてみましょう。リセールバリューというのは、価格維持率のことで、竣工から10年が経過した分譲マンションのうち、現在中古マンションとして取引されている物件を抽出、分譲当時の価格と現在の取引価格を比較、
中古流通時の価格÷現在の取引価格×100(%)
として算出します。たとえば、10年前に5000万円で分譲されたマンションが、現在6000万円で取引されていれば、6000万÷5000万円=1.2ですから、その100倍でリセールバリューは120%になります。逆に、現在の取引価格が4000万円に下がっていれば、4000万円÷5000万円=0.8なので、その100倍でリセールバリュー80%ということです。つまり、リセールバリューの数字が大きいほど、価格維持率が高く、資産価値の上昇が期待できるエリアということができます。
都心部の多く駅でリセールバリュー150%以上
東京カンテイによると、2022年に首都圏でリセールバリューが算出可能だった駅は398駅で、その平均値は132.5%でした。平均すると、10年前の分譲価格に対して、3割強高くなっている計算です。2022年のリセールバリュー調査の対象となったのは2012年前後に分譲された物件であり、当時は現在のように価格が高騰する前でしたから、いまからみれば割安感が強く、その分リセールバリューが高くなっているわけです。2021年のリセールバリューは119.8%でしたから、前年に比べても2022年の中古マンション価格の上昇がいかに大きかったかがわかります。
リセールバリューの数値別の分布をみると、価格上昇率が高かった都心や山手線沿線の駅ではリセールバリュー150%以上の駅が多く、その外側、北は大宮、西は立川、南は横浜、東は千葉あたりまでリセールバリュー100%の駅が多くなっています。ただ、さらにその外側、郊外部には100%未満の駅が散見されます。さほど多くはないのですが、都心から離れるほど資産価値が上がらず、むしろ下がる駅もあるので、場所選びには十分な注意が必要です。
都心の駅ではリセールバリュー170%以上が多い
2022年の首都圏でリセールバリューが最も高かったのは、図表1にあるように東京メトロ南北線の六本木一丁目駅の251.6%で、2位が東京メトロ千代田線の新御茶ノ水駅の208.1%でした。調査対象となった398駅のうち、リセールバリューが200%を超えたのはこの2駅のみで、六本木一丁目駅は10年間で資産価値が約2.5倍に、新御茶ノ水駅はおよそ2.1倍になったわけです。周辺の駅でも100%台後半のリセールバリューとなった駅が多く、18位の東京メトロ銀座線の銀座駅まで170%以上でした。
こうしたリセールバリューの高い駅は、相場価格が高く、平均的な会社員ではなかなか手が届きそうもありません。たとえば、六本木一丁目駅の3.3平方メートル当たりの現在の坪単価は1216.7万円ですから、70平方メートルだと2.6億円ほどになります。
でも、探してみると、リセールバリューは高いけれど、坪単価はさほど高くない駅もあります。リセールバリュー上位群の駅では坪単価500万円以上の駅がほとんどですが、リセールバリューランキング22位の小田急江ノ島線の片瀬江ノ島駅はリセールバリューが166.1%で、現在の坪単価は337.9万円です。ここなら70平方メートル換算でも7100万円ほどで中古マンションが購入できます。まだまだなかなかの高額ですが、ある程度の年収の人のなかには、何とかなりそうという人もいるのではないでしょうか。そのほか、JR根岸線の桜木町駅はリセールバリューが164.5%なのに、坪単価は379.6万円です。
2022年のリセールバリュー最高駅は「六本木一丁目」の251.6% (kantei.ne.jp)
投下資金を何年で回収できるかを示すPER
一方、マンションPERというのは、証券用語の株価収益率をマンションに当てはめたものです。証券用語では現在の株価が企業の利益水準に対して割安か割高かの判断の基準になります。マンションでは、分譲マンションの新築価格が、同じ駅勢圏の分譲マンションの賃料の何年分に相当するかを求めた数値になります。つまり、マンション投資を考えた場合、購入価格(投下資金)を、何年分の賃料で回収できるかを示します。
たとえば、分譲価格が5000万円のマンションを賃貸で運用する場合、家賃15万円で年間家賃収入が180万円とすれば、5000万円÷180万円でPERは27.8という計算です。しかし、同じ5000万円のマンションで年間賃料収入が200万円ならPERは25.0で、年間賃料が250万円ならPERは20.0に下がります。
つまりPERの数値が小さいほど投下資金を短期間で回収でき、家賃見合いで考えれば割安感があり、お買い得のエリアということができます。反対に、PERの数値が大きいと、割高感があり、投資効率を考えれば、あまりお勧めできないエリアということになるわけです。
検見川浜駅なら投下資金を16年で回収できる
そのマンションPER、2022年の首都圏の平均は25.67でした。2021年から1.11ポイント上がり、賃料見合いでは割高にシフトしたことになります。マンション価格が上がっている割には、賃料はさほど高くならないので、PERの数値が大きくなっています。首都圏の数値が25を超えたのは初のことだそうです。
首都圏のPERの駅別の分布をみると、都心や山手線の周辺駅ではほとんどがPER26以上で、賃料見合いではかなり割高感があります。PERが20以下の駅は極めて少なく、価格高騰の折り、割安感のある駅は少なくなっていますが、それでも、探してみればPERが20以下の駅もあります。首都圏でPERが最も低かったのは、図表2にあるようにJR京葉線の検見川浜駅の15.96でした。70平方メートル換算価格は4000万円を切っているので、将来性を考えて購入するには、たいへん魅力的なエリアといっていいのではないでしょうか。次いでJR総武線の津田沼駅も15.97とPERが20を切っていますが、こちらは70平方メートル換算価格は4000万円台後半になります。
2022年の首都圏平均は25.67、2年ぶりに上昇し初の25ポイント台 (kantei.ne.jp)
賃貸に回せばローン返済額をカバーできる?
いずれにしても、こうしたPERの数値が小さいエリアであれば、価格の割には高い家賃収入を期待できるわけで、将来返済負担が厳しくなったときには、賃貸に出せば、家賃収入でローンの返済を継続できる可能性が高いのではないでしょうか。割安感があると同時に、そうした点での安心感もあります。
以上のように、マンションのリセールバリュー、PERの数値は、マンションの場所選びにたいへん参考になるデータといっていいでしょう。予算や収入などとの関係もあって、買えるエリア、買えないエリアがあるでしょうが、自分たちの手の届く範囲で、将来の値上がりや投資価値の高いエリアを探してみてはどうでしょうか。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)