ドイツの対日観は常に友好的というわけではない。日本が隣国・韓国との関係で険悪な時代、例えば、文在寅前政権下では、ドイツの対日観はかなり批判的だった。ベルリン市内の公園で慰安婦をモチーフにした「少女像」が建てられた時、ドイツは日本側の少女像の撤去要請を拒否して、現在に及ぶ。ドイツの日本観は、保守派政党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)主導の政権時代でも左派系の社会民主党(SPD)主導連立政権下でも大きな相違はなかった。
日本とドイツは第2次世界大戦での敗戦国だ。ドイツの場合、ナチス・ドイツ政権の戦争犯罪へのトラウマが大きい一方、日本も戦争の加害国として中国や韓国などアジア諸国の一部から批判され続けてきた。その両国は戦後、世界の代表的な経済大国として復興した。ドイツと日本は互いに意識するか否かにかかわらず、戦争の重荷と責任を感じながら終戦後、経済国として発展してきたという点で似ている。そして似ているがゆえに、相手の負の面に反発心が生まれてくるものだ(「独で見られる反日傾向と『少女像』」2020年9月30日参考)。
一方、ドイツはコール政権時代、ベルリンの壁の崩壊後、東西は再統一したが、朝鮮半島では依然、北朝鮮と韓国の南北に分断した状況が今日まで続いている。国の分断という苦悩を経験したドイツは日韓問題が議題に上がると、同じ分断国家の韓国側に同情を寄せてきた。
多くのドイツ人はアジアで最初に経済大国となった日本を評価しているが、第2次世界大戦の問題に関わってくると違ってくる。韓国人は、「日本は過去の戦争問題で十分謝罪していない。償っていない」といって日本を批判するが、ドイツ人は過去問題では韓国人の主張に同意するのだ。韓国人が旧日本軍の慰安婦問題を追及すれば、その是非を検証せずに韓国側の主張を受け入れ、日本を批判する。韓国側は「日本はドイツに見習え」と強調し、ドイツの戦後処理を高く評価するといった具合で、過去問題では韓国とドイツ両国のスタンスは近い。
そのドイツからショルツ首相が21日、広島市で開催された先進諸国首脳会談(G7)に参加後、韓国を訪問した。ドイツ首相の韓国訪問は1993年のコール首相以来30年ぶりという。
ショルツ首相は韓国入りすると尹錫悦大統領との会談に先立ち、夫人と共に韓国と北朝鮮との国境、非武装地帯(DMZ)を視察した。ドイツの民間ニュース専門局nTV放送は、「首相は、朝鮮戦争の3年間を経て1953年7月に締結された休戦協定が交渉された国境沿いの非武装地帯(DMZ)にある青い兵舎を眺めた。朝鮮半島を分断する38度線の両側で100万人以上の兵士が対峙している。さらに、米国は現在、韓国に2万8500人の軍隊を駐留させている。国際法上、南北両国間は戦争状態下にある。平和条約はまだ締結されていない」と、詳細に報道してた。
ショルツ首相はDMZの視察後、「非常に重要で感動的な訪問だった。ドイツは今、再統一された。それが実現できたのはとても幸運だった」と述べる一方、北朝鮮に対し、「ミサイル実験を中止すべきだ。核開発を強化する試みは即中止すべきだ。地域の平和と安全を脅かすからだ」と警告を発している。
同首相は21日午後、韓国大統領府で尹大統領と会談した。両首脳は、①供給網(サプライチェーン)、②ロシアのウクライナ侵攻、③北朝鮮の非核化問題などで協力を強化することで一致したという。
尹大統領は、「両国は戦争と分断の痛みを経験したが、『ラインの奇跡』と『漢江の奇跡』を通じて目覚ましい経済発展を成し遂げた」とし、「世界の複合的な危機の中、自由を普遍的価値とする国との連帯と協力が非常に緊要だ」と強調した。また、ドイツを「核心友好国」「価値パートナー」と呼んだという(韓国「聯合ニュース」)。
一方、nTV放送によると、ショルツ首相の訪韓の主要目的は、ドイツ経済の中国依存からの脱皮を模索する一環として、中国、日本、インドに次ぐアジア第4位の経済大国である韓国との経済関係の強化にあるという。
ショルツ首相はドイツのチップ産業への投資をアピールし、「韓国には高度に発展した、革新的な半導体産業がある。半導体拠点としてドイツに投資したいという韓国企業を歓迎する」と述べている。
ウクライナ戦争については、韓国はロシアに対する国際制裁に参加しているが、キーウへの武器供与を拒否している。危機地域には武器を供給しないという基本方針があるからだ。ただ、尹大統領は、「地雷除去装備と緊急後送車両などを支援する」と表明したという(「中央日報」日本語版)。尹大統領はG7サミット訪問の際、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談している。
なお、ショルツ首相は尹大統領との会見で、「同じ価値観を持つドイツにとって重要なパートナーである韓国と日本の関係改善を歓迎する。このような取り組みをするには政治的な勇気と賢明な先見性が必要だ。私は尹錫悦大統領の政治に敬意を表したい」と述べた。
ショルツ首相は、日韓両国が関係改善に歩み出してきたことを評価したわけだ。「欧州の盟主」ドイツ首相が日韓改善の動きに熱いエールを送った発言ともいえる。広島G7サミットに参加し、韓国を訪問したショルツ首相には、日本と韓国両国への認識が一層深まったことを期待したい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。