電子工作というのがよく分からないまま生きてきた。
デイリーポータルZにとっては身近なジャンルだ。編集部の石川くんやライター乙幡さん、爲房さん、それにいまや電子工作のカルチャーアイコンともいえる藤原麻里菜さんらが、こぞってさまざまなアイディアを電子で工作し伝えてきてくれたではないか。
私だって、その記事はばっちり読み込んで楽しんでいる。
じゃあなんで「よくわからない」んだ。それは、自分がやったことがないからではないか。
電子工作というものについて完全に無の大地にいる者どもが、その扉を開ける最初のさまをお伝えしたい。(レポート:編集部 古賀)
分からないままでいるか、知ろうとするか
今回はじめて電子工作に挑むのは私ではなくライターの小堺さんだ。かねてから私と同じように「電子工作、よくわからんな」と思っていたらしい。
私よりも大幅に行動力のある小堺さんは、「わからんな」の気持ちを「知りたいな」へ昇華させ、電子工作の初心者キットを購入した。
購入のきっかけとなったのは2021年10月のAmazonのタイムセール祭り。今回の講師役でもある編集部の石川くんが初心者向けの電子工作のスターターキットを紹介していたのを読んだのだという。
ちょうどその頃パソコン周辺機器を揃えなおしていた小堺さんは、別の買い物のついでにセール価格になっていたこともありこのセットを購入、早速着手するか……と思いきや、開けて、そしてすぐに箱を閉じ、そのまま1年半眠らせてしまっていたらしい。
開けてすぐ閉じた理由は「出したら戻らないぞ」と思ったから、とのこと。それくらいみっちりきっちり詰まっている。
しかし買ったことは常々心の隅に置いており、石川くんと別件でやりとりしているなかで
小堺:そういえば電子工作キット買ったんですよ。
石川:おお、そうなんですか。
小堺:でもどうしたらいいかわかんなくて放ってあって。
石川:よかったら使い方教えましょうか。
小堺:いいんですか!
という展開をしたというから、やっぱり【知ろうとして】→【とりあえず買う】行動力は大きいと思わされる。その間もずっと電子工作に対してぼんやりしていた人(私)との差は歴然だ。
石川くんいわく、「買ったセットの使い方は今日このあとの1時間でだいたいわかる、でももう箱にはおさまらない」とのことであった。
きっちり詰まった様子はここで見納めです。
買ったものが何なのかが分からない
小堺さんにとっても私にとっても一番の謎がある。それは、このセットが「一体なんなのか」なのだ。
たとえば書道をまったく知らない人がいたとして、これが必要だよと炭を渡される。黒い石である。
なんだい、これは。
そういう状況だと思ってほしい。
小堺:で、このセットなんですが、結局、なんなんですか。
古賀:そう、それが分からない。電子工作の初心者用セットです、と言われ、ではそれは何なのか。
石川:電子工作で何か作りたいというときに、何もないと秋葉原に行って、これとこれとこれとって、買い集めなくちゃいけないんですよ。それをやらなくていいように全部入れときましたって、そういうセットです。
小堺:ふ~~ん。
石川:これだけあると、わりといろいろできるんですよ。
古賀:電子工作の分からないところって、何をもってして何ができるのか、一切不明なところだよね。
小堺:そうそう、秋葉原で買い集めるはずのものが入ってると言われても、「秋葉原で買い集める」イメージがまずない。
石川:あの、ここにCD-ROMがありますね、これがマニュアルなんですね、これを見ると、作れるものの見本とやり方が書いてあるんですよ。これを、見てないんですね。
小堺:見てないです。
石川:だから分からないんです。
小堺・古賀:あ~。
渡された黒い石に添付された説明書に「水の上でこすってください。水が黒くなり、筆に浸すと文字が書けます」と書いてあるのを読めば、ああ、なるほどなと思う。黒い石のままだと分からない。
説明書だ! 説明書があるのに読まずに人は簡単に「わかりません」と言う生きものなのだ。どうか許してほしい。これについては反省しています。
パソコンがいるのはなぜか
もはやこれも、説明書を見ればわかることだろうとは思いつつ、もうひとつ謎がある。
事前の連絡のやりとりで、石川くんから「ノートパソコンを持ってきてください」と言われていたのだ。
……パソコンがいるのか?
なんかこう、電子工作というと、半田でなんか板みたいなやつにコードを輪にしてたくさんくっつけるみたいなイメージしかなかった。
パソコンで……何をやるんだ。
石川:昔と今で「電子工作」のやり方がちょっと変わってきてて。昔の電子工作はアナログだったんですよ。初心者がまず作るものも、ラジオの電波とか、オーディオアンプの波形とか、「波」を扱うもの。アマチュア無線もその種類ですよね。
小堺:ほう……。
石川:デジタルの“1”と“0”じゃない、波を扱うのがかつてのメインだった。そうじゃなくて、マイコンを使う“1”と“0”側の電子工作が、今日これからやる電子工作なんです。
ここで石川くんから、箱のなかから、それ、取り出してくださいと指示が出された。おおっ、いよいよはじまるな。
小堺:これ?
石川:これが「マイコン」ですね。ここにプログラムが入れられるんですよ。いろんなものをつなげて動かしましょうと。これがパーツのなかでは最重要というわけです。
小堺:なるほど。
石川:マイコンにUSBの口が付いてますよね、パソコンとつないで、パソコンで書いたプログラムを、このマイコンに書き込むんです。
小堺さんには、やりたいことがある
さきほど、同じ初心者といえ、「キットを買った」小堺さんのほうが古賀よりも1歩も2歩も先を行っているとお伝えした。
もう一つ、そして最大の「先をいっている」が、小堺さんには電子工作でやりたいことが確固としてある、ということだ。
どこまでできるかはわからないけど、ちょっとやってみたいことがある。そういう状態が人間を先へ進めるのだ。
小堺:友達が、コロナ禍に入って在宅勤務をすることが多くなって、PCの前を離れていても、自動でマウスが動いててくれたらいいのにって言ってたんです。
石川:監視ツールが社給のPCに入ってると、マウスが止まると感知されちゃうんだ。
小堺:そうそう! 仕事やってる感を出してくれる、自分が離席してるあいだも常に動いてるマウスがあったらって友達が言ってて、そういうの電子工作でできるんじゃないの? って思ったんだよね。
監視する会社と逃げる社員、どちらにも闇がある工作活動になってきたが、なるほど「そういうの電子工作でできるんじゃない?」という予感みたいなものは、電子工作素人勢にも感覚としてある。
そこを言語化して「やってみたい」と口にしたときに、入門の入り口が開くのだ。
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