北海道電力、電気料金23%値上げの舞台裏…社員の高額給与批判に「ご理解いただきたい」


札幌市内で開かれた公聴会。11人が意見陳述を行った(23年4月20日、本稿記者撮影)

北海道電力が電気料金を値上げする」

 このような話が北海道内のニュース番組をはじめとしたマスコミで報じられたのは、今から約1カ月以上前。札幌市内では値上げに関する公聴会が開かれ、「一刻も早く(値上げを)見直してほしい」という反対の声や「値上げは仕方ない。我々も我慢すべきだ」との賛成の声も見られ、さまざまな意見が飛び交った。食料品などの幅広い領域で値上げが続くなか、電気料金の高騰で生活もままならないという世帯が出てきてもおかしくはない。今月16日には物価問題に関する関係閣僚会議が開かれ、電力大手7社による家庭向け規制料金の値上げを了承した。本稿では改めてこの値上げについて振り返り、特に北電の値上げに関する動きについてまとめる。

ウクライナ情勢とロシアの報復措置

 北電が電気(規制)料金の値上げを発表し、経済産業大臣に特定小売供給約款の変更認可申請を行ったのは今年1月。22年2月から続くロシアとウクライナの戦闘によるエネルギーコストや原材料価格の高騰が影響して物価上昇が続いているが、それは日本だけではない。経済産業省がまとめた「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)」によると、世界的に天然ガスや石油、石炭などのエネルギー価格が上昇している。主要7カ国(G7)はウクライナ情勢の緊迫化を受け、ロシア産原油の国際取引上限価格を設定するなどして制裁を強化。ロシア側はそれに対抗して、価格上限を設定した国に対し、原則、原油輸出を禁じる報復措置を実施した。それがじわじわと影響し、原材料費が高騰しているとされる。

高い人件費批判に一切譲らない北電

 そのようななかで大手電力各社が検討してきた電気料金の値上げ。九州電力を除く大手7社で大幅な値上げが決定した。決定した値上げ幅は、北電が平均23.22%、東北電力が平均25.47%、北陸電力は平均39.7%、東京電力(エナジーパートナー)は平均15.9%、中国電力は平均26.11%などとなっている。特に北陸電力は「電力収入が減少した」としており、40%に近い値上げとなった。なお、九州電力が値上げを見送った背景には、電力構成のなかで原子力発電が占める割合が約4割と高いことから、火力発電などに用いる燃料費の価格高騰の影響を受けにくい点が挙げられる。

 経済産業省によれば、北電は当初、平均34.87%の値上げを行うとしていた。ところが燃料価格は下落傾向となっており、値上げ幅は圧縮された。

 経済産業省北海道経済産業局が札幌市内で今年4月に開いた「北海道電力株式会社の特定小売供給約款の変更の認可に係る公聴会」では、民間や団体から計11人が出席。意見陳述を行った。このうち北海道医師会の代表者は、「原油価格や物価高騰が長期間にのぼっている」と指摘。医療機関は国が定めている公定価格で運営しているが、「すでに対応が極めて困難。このままでは民間病院がなくなる恐れがある」と窮状を訴えた。また別の医療関係者も「公定価格」を理由として「(医療機関は)価格転嫁ができない」と述べた。さらに北電の担当者らに対して「人件費をもっと削減できるのではないか」と質問を投げかけたが、北電の担当者は「さまざまな見方がある。経営サイドから見れば(人件費は)人的資源として考えており、ご理解いただきたい」と一切譲らなかった。

札幌市中央区の北海道電力本店。約23%の値上げを行う(23年4月20日、本稿記者撮影)

 経済産業省資源エネルギー庁によれば、電気料金の値上げ認可プロセスは以下のとおり。

(1)電力会社による料金改定認可申請
(2)経済産業大臣が申請を受理し、同大臣は電力やガス取引監視等委員会に意見聴取を実施、同委員会で審査を実施
(3)公聴会等を実施したうえで経済産業大臣が回答を受理
(4)消費者庁・物価問題に関する関係閣僚会議を経て値上げを認可

 公聴会の時点では、(4)の関係閣僚会議直前までプロセスが進んでおり、値上げはほぼ決まっているのだ。その後、前述のとおり関係閣僚会議で電気料金の値上げが確定した。

 北電をめぐっては14年に電力事業と直接関係のない24の団体や企業に社員約70人を出向させ、その給与の一部を北電が負担していた疑惑も取りざたされた。また国の有識者会議では「人件費(非正規と残業代)が大手電力の平均よりも高い」と指摘された。ちなみに非正規・残業代とは異なるものの、北海道札幌市の職員の初任給は、大学卒で月収18万2700円(22年11月現在、一般行政職)。一方、北電の初任給は大学卒で20万9000円(同年4月)と高く、役員報酬についても一部からは「高すぎる」との批判の声がある。

 北電は本当に値上げすべきなのか。その見極めをするのは誰でもない、私たちだ。私たちは引き続き北電の経営状況について監視を続けていかなければならない。もし必要があれば「お問い合わせフォーム」などで意見を直接伝えることもできるのだ。巷では原発の再稼働をめぐってさまざまな意見が飛び交っている。北電の藤井裕社長(現会長)は今年1月の会見で「早期に原子力(発電所)を再稼働させて電気料金を値下げさせていただく」と明言している。現在、原発は一部を除いた大半が停止または廃止措置中だ。今月に成立した「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」では、次世代原発の建設に対する投資への支援などを盛り込んだ。今後の原発関連の動きに注目したい。

(文=小林英介)

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