パナソニック楠見CEO、競争力高めた2年間を振り返る–1932年発表の「250年計画」とは

CNET Japan

 パナソニックホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は、5月18日、新たなグループ戦略について発表した。

 楠見グループCEOは、「競争力強化に徹する2年間を終え、2023年度は、成長に向けてギアチェンジをするために、グループが目指す姿の解像度を上げ、使命達成に向かって、変革を加速する」と発言。「人手不足や物価の高騰、地政学リスクに起因するサプライチェーンの分断など、これまで以上に、企業を取り巻く環境が急激に変化していくことが予測されるが、中期経営指標である累積営業キャッシュフロー2兆円、ROE10%以上、累積営業利益1兆5000億円の計画を維持し、必達すべく、手綱を緩めることなく、競争力を徹底強化していく」と述べた。


パナソニックホールディングス グループCEOの楠見雄規氏

 説明会の冒頭では、楠見グループCEOが、これまでの2年間について振り返った。パナソニックグループでは、事業会社制へとシフトするとともに、2021年度、2022年度の2年間は、すべての事業において、競争力を高めることに徹底して取り組む方針を打ち出していた。


競争力強化の2年間 2022年度実績

 楠見グループCEOは、「パナソニックの使命は、創業者である松下幸之助が生涯追い求めた『物心一如』の繁栄であり、『物と心が共に豊かな理想の社会』を250年で実現することを目指している。これまでにも、その時代ごとの社会課題の解決と、人々の幸せのために事業を通じたお役立ちを果たしてきた」と語る。

 松下幸之助氏は、1932年5月に、250年計画を発表。25年を一節として、それを10節繰り返すことで、250年間で、物心一如による理想の社会の建設を実現することを打ち出している。

 「だが、それぞれの事業が、『物心一如』の使命達成に向けて、一直線に向かっているのかといえば、競合に劣後し、使命達成どころではない事業もある。そこで、2年間は競争力強化に徹し、一時的な利益のためではなく、中長期の成長のための基礎体力づくりに集中する期間と位置づけた。競争力強化は、長期視点での『戦略』と、サプライチェーン全体での変化対応とスピードを高める『オペレーション力』を両輪としており、2年間で誰にも負けない競争力の獲得を目指してきた」と、その狙いを説明する。

 オペレーション力強化の進捗については、モノづくり現場において、サプライチェーン全体を見渡し、リードタイムの短縮や、余剰在庫の削減などを通じて、キャッシュ創出力と価値創造力を高める活動に取り組んでいるとしたほか、各事業会社が、ひとつ以上の現場革新代表拠点を選定して、それぞれが高い目標を掲げて、改善を進めてきたことに触れ、オートモーティブの敦賀工場では、生産リードタイムおよび安全在庫を半減した成果を紹介した。「各代表拠点では目覚ましい成果があがっている。2024年度にはグループ全拠点で改善活動の常態化を目指し、活動の横展開を加速する」と語る。

 また、PX(Panasonic Transformation)の取り組みにも言及。「PXは、デジタルの力で働き方やビジネスのやり方を変え、経営のスピードと質を徹底的に向上させることを目的としたものであり、事業部横断でのデータ利用や、一部ではクラウド化が進展した。だが、まだまだ既存の業務プロセスや組織風土、古くからある情報システム基盤といった負の遺産が残っている。この負の遺産は、事業のトップ自らが主導しなければ取り除けない。事業トップがコミットし、徹底した業務プロセスの変革を、ITと一体となって加速していくことになる」と述べた。

 だが、その一方で、「この2年間の競争力強化の取り組みは、財務指標の観点では、成果を残すことができなかった」とも語り、「すべての事業が、競合と比べると外的要因に打ち勝てるほどのスピードで、オペレーション力を強化できたわけでなく、競争力強化は道半ばと認識している。敦賀の拠点のようにやればできるということはわかったが、速いスピードで横展開するところにまでは至らなかった。だが、展開する素地が整ったという点では成果があった。今後は、やってきた手法を研ぎ澄ますことになる」とした。

CO2排出削減は企業としての責務、取引条件の1つにも

 さらに、「使命達成を阻む最大の課題は、地球環境問題」とし、「250年の最終年は、いまから約160年後であるが、その時代に子孫が地球上で暮らすことができないような状況は避けなくてはならない。その危機感から長期環境ビジョン『Panasonic GREEN IMPACT』を策定し、グループ共通の戦略として取り組みを開始している。事業活動におけるCO2排出の削減は企業としての責務であり、B2Bのお客様のなかには、取引条件のひとつに盛り込むケースもある。効率的なCO2排出削減が、今後の競争力のひとつの要素になる。さらに、環境貢献企業を評価する新たな指標であるCO2削減貢献量の価値を、国際的に認知してもらうための活動も推進している。この指標が投資家や金融業界からも認識されるようになれば、環境に貢献する事業や企業への投資が後押しされ、この分野で強みを持つパナソニックグループが、成長フェーズに乗る機会にもつながると考えている」と述べた。


グループ共通戦略:環境(温暖化阻止・資源循環)

 楠見グループCEOは、パナソックグループが目指す姿として、最重要経営課題と位置づける「地球環境問題解決」と、グループのシナジーを発揮することで実現する「お客様一人ひとりの生涯の健康・安全・快適」へのお役立ちをあげた。

 時間を割いて説明したのが、「地球環境問題解決」への取り組みだ。ここではPanasonic GREEN IMPACTの活動を通じて、グループ全体のCO2削減貢献量の拡大などにより、地球温暖化の阻止と資源循環を進めることになる。

 「電化や省エネ、エネルギー転換、資源循環に関するパナソニックグループの知見と技術力を高め、活用することで、地球環境問題の解決を図る」とした。

 具体的な事例として、工場でのモノづくり分野においては、太陽光と水素エネルギーを活用したRE100ソリューションのほか、省エネ技術や省エネソリューションを自社工場で試験運用し、そこで蓄積した成果を、世界中のお客様企業の工場や事業所などに展開。サプライチェーン領域では、お客様企業のサプライチェーン全体を最適化するソリューションを提供することで、在庫や輸送を最適化し、環境負荷軽減に貢献するという。商品やソリューションで使うエネルギーを徹底的に効率化したり、水素エネルギーの利活用などを促進することで、使う電力を再生可能エネルギー由来に変えたりするといった提案も進めるという。

 とくに、楠見グループCEOが強調したのは、車載電池による環境貢献だ。「なによりも大きな削減貢献につながるのは、モビリティや街、家庭で、ガソリンやガスなどの化石燃料を使う機器を、電化機器へと置き換えることである」とし、「なかでも、グループ全体のCO2削減貢献量の6割を占める車載電池に対して、重点的に投資をしていく」と語った。

 パナソニックグループでは、テスラ向けの車載電池事業で多くの実績があり、「パナソニックグループが注力する北米市場においては、年平均35%という急速な市場拡大が見込まれる。また、米国政府は、米国内でのEVサプライチェーンの構築を国策として進めており、米国での車載電池生産への強い要請がある。円筒形車載電池と北米市場にフォーカスして事業拡大を目指す」と述べた。

北米での車載電池供給拡大へ、本格的成長フェーズ

 同社では、EV用車載電池の供給能力を拡大することにより、モビリティの電動化を促進。2030年度には、2022年度の5倍となる5900万トンのCO2削減に貢献できると試算している。

 パナソニックグループでは、テスラ向けの供給に加えて、Lucidの高級EV向けや、Hexagon Purusの商用車向けにも車載電池を供給する契約を締結。このほかにも新たな引き合いがあるという。これにあわせて、生産能力の増強にも取り組んでおり、「いままさに、北米での車載電池の供給拡大へ準備が整った。本格的成長フェーズへ移行していく」と述べた。

 2022年には、グループとしての戦略投資を決定し、現在建設中のカンザス新工場では、2170セルを量産し、北米での供給拡大に対応。4680セルは、和歌山で早期に安定生産を実現し、北米新拠点への大規模展開を行うことになる。北米新拠点の立地については、「ネバダかもしれないし、カンザスかもしれないし、それ以外かもしれない。まだ決まっていない」とした。また、2030年度までに、現在の約4倍となる200Gwh の生産能力を実現することを明らかにした。

 「生産能力の拡大を実現するには大きな投資も伴うが、パナソニックエナジーによる投資のみならず、さまざまな資金調達オプションを検討し、機動的に投資していく」と語った。

 また、パナソニックグループの円筒形車載電池の技術的優位性にも触れ、「高容量化では、体積エネルギー密度を第1世代から現在までで3倍以上に拡大。2030年までに1000Wh/Lの達成を目指す。これにより、航続距離を大きく伸ばすことができ、当社電池を搭載する車の性能向上につながる。また、世界で初めてコバルトの含有量を5%以下とし、技術的にはゼロも見えている。さらに、ニッケルレスに向けた技術開発も進めている。レアメタルを使用しない方向に向かっているのが特徴だ。さらに、2012年から現在までに、EV車換算で累計200万台相当の電池を供給しているが、重大事案の発生ゼロを継続。品質面でも高い評価を得ている」とした。

 さらに、研究開発体制の集約および増強を推進。2024年には、大阪市住之江区に、生産技術開発拠点を新設し、生産性向上の加速と生産拡大への対応を進めるほか、2025年には、大阪府門真市に研究開発拠点を新設して、次世代電池および使用する材料の源流開発を加速。電池の研究開発にもリソースを投入する姿勢を示した。
 
 一方、車載電池とともに、投資領域に位置づけている「空質空調」、「サプライチェーンマネジメントソフトウェア」についても説明した。


重点投資領域:車載電池

 空質空調では、欧州での開発、製造、販売を一気通貫で行う地産地消の体制を構築。AV機器を生産してきたチェコ工場を、Air to Water(A2W)の生産拠点に転換するとともに、新棟を増設。グローバルで100万台の生産体制へと拡充していく。また、システムエアの空調事業を買収し、チラーを中心とした技術や商材を活用することで、新たにライトコマーシャル領域へとターゲットを拡大し、欧州での事業を拡大する。

 「欧州では急激に脱ガスが進んでおり、エネルギー源をガスから電気に変え、CO2排出削減にも寄与するA2Wを軸に事業を拡大していく。寒冷地域においても暖房能力を維持できる性能と、IoT遠隔監視機能などの優位性を生かし事業基盤を強化。また、欧州冷媒規制に対応した自然冷媒の製品を日系メーカーとして初めて投入し、安全に自然冷媒を取り扱うための製品設計やメンテナンスのノウハウを、規制強化を先取りして蓄積し、競争優位性の構築を図る」とした。

2030年度には売上を構成する全事業が貢献する2つの領域

 サプライチェーンマネジメントソフトウェアでは、Blue Yonderの強みを生かして、サプライチェーン上の在庫や輸送を最適化し、環境負荷の軽減に貢献する姿勢を示した。

 「この領域はボルトオン投資が必要な市場である。ソフトウェアの組み合わせで幅が広がっていく」とし、「クラウドネイティブSaaS化や、セキュリティ強化に向けたR&D投資により、サプライチェーンマネジメントソフトウェアの基盤強化に取り組むほか、営業やCS対応といった顧客接点の強化を進める。また、現場のエッジデバイスから得られるさまざまなデータとの連携による自律化ソリューションの提案にもつなげたい」とした。パナソニックグループでは、サプライチェーンマネジメント事業の株式上場に向けた準備を開始しているが、上場時期についてはこれまで通りに「決定していない」と述べた。

 もうひとつの目指す姿とした「お客様一人ひとりの生涯の健康・安全・快適」においては、パナソニックグループが持つショウルームや販売店などのチャネル、家電、電材、建材などの商品および関連サービス、修理サポートなどの多様な顧客接点を生かし、ここにデジタルを活用。顧客一人ひとりにあった価値を提案できる「くらしのソリューションプロバイダー」となることを目指し、グループでのシナジーを創出するという。

 ここでは、グループ横断の取り組みを加速するために、パナソニックホールディングスに次世代事業推進本部を設立し、執行役員の松岡陽子氏が指揮を執ることも発表した。

 一方、楠見グループCEOは、「2023年度から、成長フェーズに向けて事業ポートフォリオの見直しや入れ替えも視野に入れた経営を進める」と発言。その判断基準として、「グループ共通戦略との適合性」と、「事業立地や競争力」の2点をあげた。

 「事業ポートフォリオの見直しや入れ替えは、あくまで手段であり、目的はすべてのステークホルダーの幸せと、グループの価値向上である」と前置きし、「事業ポートフォリオの見直しを、2023年度中に方向づけし、順次実行していく」と述べた。

 「グループ共通戦略との適合性」では、「社会へのCO2削減貢献、あるいは資源の使用削減に貢献できる事業であるかどうか」、「お客様の多様なつながりとデジタル、AIの活用で、一人ひとりのくらしに合わせた価値を提案できるかどうか」、「利益貢献ができるかどうか」が基準となる。「いずれも、競合に負けない競争力があるのかという視点で見ていくことになる」とした。

 「事業立地や競争力」では、10年先を見据えた市場の成長性や継続性に加え、市場における事業のポジションや収益性について、市場シェアやキャッシュ創出力といった定量的な要素と、過去の実績や中長期の強み、将来機会といった定性的な側面から、しっかりと見極めるという。

 2030年度においては、パナソニックグループの売上げを構成するすべての事業が、「地球環境問題の解決」「お客様一人ひとりの生涯の健康・安全・快適」のどちらかの領域で貢献していくことになるという。


売上高構成比:2022年度→2030年度

 「将来にわたってお役立ちを果たせる事業は、成長に向けてグループ内で、引き続き競争力を高めるが、グループの外で競争力を獲得した方が成長のスピードを高めることができる場合は、そうした判断を行う。スピンオフということも考えられる。250年の計画に向けてお役に立てる事業であるかどうかが重要である。それぞれの事業で、社会やお客様への向き合い方を変革していく」と語った。

 2022~2024年度まで財務戦略については、創出する営業キャッシュフローは、累計2兆円の計画を維持。加えて、3年間に必要な資金の一部は、資産売却などによって創出するとした。また、1兆8000億円の投資を予定しており、そのうち6000億円を戦略投資とすることも継続。「戦略投資は、主に重点投資領域である車載電池事業にあてることになる。その多くがカンザス新工場に投資をしていくことになる」とした。

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