「Kobo Elipsa 2E」は、E Ink電子ペーパーを採用した電子書籍端末だ。10.3型という、現在国内で市販されている電子書籍向けのE Ink端末としては最大級の画面サイズを備えつつ、付属のスタイラスペンでの手書きに対応することが特徴だ。
従来モデルにあたる「Kobo Elipsa」は、2021年夏に登場したものの、2022年暮れには生産完了がアナウンスされ、ラインナップから消滅。今回の「Kobo Elipsa 2E」は、数カ月のブランクを経て登場した後継モデルで、10.3型のE Ink Carta 1200電子ペーパーを搭載し、スタイラスによる手書きに対応するなど、従来モデルの特徴を継承している。
見た目にほとんど相違がない本製品だが、具体的にどこが違うのだろうか。今回は筆者が購入した実機をもとに、従来モデル「Kobo Elipsa」、および類似の特徴を備えたAmazonの10.2型モデル「Kindle Scribe」との使い勝手の違いを見ていく。
本体はほぼ同一、スタイラスとセット構成に大きな相違あり
まずは「Kobo Elipsa」、「Kindle Scribe」従来モデルとの比較から。
Kobo Elipsa 2E | Kobo Elipsa | Kindle Scribe | |
---|---|---|---|
発売月 | 2023年4月 | 2021年6月 | 2022年11月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 227.3×192.8×7.9mm | 227.5×193.0×7.6mm | 196×230×5.8mm |
重量 | 386g | 383g | 433g |
画面サイズ/解像度 | 10.3型/1,872×1,404ドット(227ppi) | 10.3型/1,872×1,404ドット(227ppi) | 10.2型/1,860×2,480ドット(300ppi) |
ディスプレイ | 10.3インチ画面の E Ink Carta 1200 タッチスクリーン | 10.3 インチのCarta E Ink HD タッチスクリーン | 10.2インチAmazonディスプレイ、解像度300ppi、フォント最適化技術、16階調グレースケール |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n/ac | IEEE 802.11b/g/n/ac | IEEE 802.11b/g/n |
ストレージ | 32GB | 32GB | 16GB/32GB/64GB |
フロントライト | あり(暖色/寒色) | あり(寒色) | あり(暖色/寒色)自動調整あり |
ページめくり | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ |
防水/防塵機能 | – | – | – |
端子 | USB Type-C | USB Type-C | USB Type-C |
ペン対応 | ○ | ○ | ○ |
バッテリ持続時間の目安 | 数週間 | 数週間 | 最大12週間 |
発売時価格(税込) | 5万2,800円 | 4万6,990円 | 4万7,980円(16GB、スタンダードペン付き) 5万1,980円(16GB、プレミアムペン付き) 5万4,980円(32GB、プレミアムペン付き) 5万9,980円(64GB、プレミアムペン付き) |
備考 | Koboスタイラス2が付属 | Koboスタイラスと専用スリープカバーが付属 | スタンダードペンもしくはプレミアムペンが付属 |
この表からも分かるように、スペック上は、従来モデルにあたる「Kobo Elipsa」との差はほとんどない。フロントライトが暖色、いわゆるナチュラルライトに対応したのが目立つくらいで、筐体サイズと重量の違いは誤差レベル。外観も、背面に滑り止めのパターンが追加されているくらいで、サイズや重量で新旧を見分けるのは不可能だ。
ただし本体以外のところでは大きく分けて2つの変更点がある。1つは付属のスタイラス「Koboスタイラス2」で、従来の電池式からバッテリ式に変更されて軽量化されたほか、ボタン配置も変更されている。従来のスタイラスとも互換性があるなど、方式自体は変わっていないのだが、完全な新規設計に差し替わっている。
そしてもう1つはオプションの構成だ。従来モデルは、本体にスタイラスと専用スリープカバーが付属して4万6,990円というセットでの提供だった。これに対して本製品は、専用スリープカバーはオプションへと変更され、スタイラスのみが付属して5万2,800円という価格構成になっている。
これだけ見ると随分と値上げされたように見えるが、従来モデルは急激な円安になる前の価格だったので、全体としては法外な値上げというイメージはない。ただ5万円の大台を超えたことで、購入の心理的ハードルはかなり高くなってはいる感は否めない。ライバルにあたるKindle Scribeは容量は少ないものの4万7,980円からのラインナップなのでなおさらだ。
表示まわりに変化なし、スタイラスでの書き込み機能も健在
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。
10.3型、解像度227ppiというスペックは従来モデルから変わっておらず、それゆえ同じコンテンツを表示しても、新旧モデルで見え方に大きな違いは見受けられない。前述のようにフロントライトに暖色が追加されているくらいだ。
これで仮にE Inkパネルのバージョンが違っていたりすると、画面のコントラストや挙動に違いがあってもおかしくないのだが、本製品に採用されているのは従来モデルと同じE Ink Carta 1200なので、違いは感じられない。
従来モデルと同じく、コミックは設定によらず毎ページごとにリフレッシュされるのは目障りだが、ページめくりなどの動作は変わらず高速だ。内部的には何らかの相違があるのかもしれないが、しばらく使った限りでは、挙動についても同一であるように感じられた。
スタイラスを利用した本文への書き込み機能も健在だ。スタイラス自体は充電が可能な新モデルに差し替わっているが、方式そのものは同様で、できること自体に変化はない。ちなみに本製品付属のスタイラスは従来モデルでも利用できるし、従来モデル付属のスタイラスも本製品で動作する。
書き込みで使える主な機能は3つ。1つは人差し指の位置にあるボタンを押しながらなぞることで、本文にハイライトをつける機能。指先だと操作しづらいが、スタイラスなら一発というわけだ。ハイライトを付けた箇所は意味を調べるなどの機能が利用できる。
もう1つは、ボタンを押さずにそのままなぞることで、フリーハンドで文字や図形を書き込んだり、段落単位で線で囲える機能だ。
従来モデルは発売から間もない時点では、テキストサイズを変更しても段落を囲った線が同じ位置に残り続けるなどの不完全な仕様だったが、その後改善され、書き込み時のレイアウトをまるごとキャプチャするような形で保存されるようになった経緯がある。本製品もその仕様を継承しており、直感的な書き込みが可能になっている。
最後は消しゴム機能で、スタイラス後部のボタンでなぞることで、フリーハンドで書いた線を消すことができる。従来は人差し指の部分にボタンが2つあり、その後方を押すことでペン先で消すことができたが、ペンの後部に専用の消しゴムボタンが追加されている。
直感的ながら消しゴム機能を使う時はペンを持ち替えなくてはいけない今回の方式と従来方式、どちらが使いやすいと感じるかは人それぞれだが、従来モデルでよくあった、フリーハンドでの筆記中にうっかりボタンを押してしまって線が消えるミスが起こり得なくなったのは、プラスと言っていいだろう。
ノート機能は改良進むも課題は依然存在
本製品のもう1つの目玉機能である手書きノート機能には、従来モデルから多くの変更が加えられている。ざっとチェックしておこう。
具体的な変更点としては、テンプレートの数が従来比で5倍に増えたほか、分類用のフォルダが作成可能になった点が挙げられる。どちらも競合製品と比べて劣っている部分だったので、ようやく追いついたことになる。
またノートを取る画面では、明るさを調整するアイコンが追加されたり、無地ノートでは範囲選択して移動できる機能が追加されたりと、細かな変更が随所に見られる。筆者が見つけられていないだけで、下層まで探せばほかにもあるかもしれない。
ただしソート項目として新たに追加された「種類」は、フォルダとノートを分けて並べ替えるだけで、無地ノートと多機能ノートを分けて並び替えてくれないほか、新規ノート作成時に手動で名前をつけないと起動できない従来からの問題は依然そのままだ。個人的には後者がもっとも気になる。
またクラウドとの同期機能も追加されている。これはノートをクラウドにバックアップしておける機能だ。本来ならば最初からあって当たり前の機能なのだが、ここにきてようやく追加された。
ものは試しにと、設定画面からデバイスのリセットを実行したあと、本製品を改めてセットアップし、再度ログインしたところ、ノートの内容がきちんと復元された。ちなみに従来モデルで同じ操作をすると、ノートはリセット時点で消去されてしまい、再セットアップしても復元できない。
ただし曲者なのは、Koboシリーズのノート機能はアカウントにではなくデバイスに紐づいているので、あくまで該当デバイス上でしか復元できないことだ。デバイスが故障もしくは紛失した場合に他のデバイスに復元するのが不可能なのはもちろん、ノート機能に対応した既存モデル(従来モデルまたはKobo sage)から本製品への移行にも使えない。
またKindle Scribeのノート機能のように、スマホアプリからノートの内容を参照することもできないので、活用の幅は限られる。せめてアカウントに紐付けて同期できるようにならなければ、実用性は極めて低いままということになるだろう。このように、細かな改良はみられるものの、優先順位の高い課題は依然そのままなのが気になった。
まずは従来モデルのアップデート待ちが賢明か
以上のように、従来モデルの終息からしばらく間が空いて登場した本製品だが、大掛かりなモデルチェンジゆえ時間がかかったわけではないようで、ざっと見る限りでは実質的なマイナーチェンジにとどまっている。
大画面かつ軽量、さらに完成度が高まったことで新規ユーザーには問題なくお勧めできるが、従来モデルのユーザーが、本製品にわざわざ買い替える必要は感じない。ハードウェアは、どうしてもナチュラルライトが必要といったレアな事情がなければ、ほぼ同一といっていい内容だし、改良されたノート機能も、マイナスがゼロ近くまで戻ったにすぎないからだ。
現時点では、まずは従来モデルのアップデートを待つべきだろう。今回新たに追加されたソフトウェア側の機能、具体的にはノートの同期機能や、ノートに新しく追加されたテンプレートなどは、従来モデルでもアップデートで提供可能だと考えられるからだ。
従来モデルの最後のアップデートは2022年12月となっており、これが更新された時にどこまで本製品に機能が近づくか、まずはそちらを待つのが賢明と言えそうだ。
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