b8ta、関西に初の常設店–「売らない小売」が阪急うめだ本店に出店する理由

CNET Japan

 実店舗を体験型ストアとして展開するb8ta Japan(ベータジャパン)は4月、阪急うめだ本店の8階で「b8ta Osaka – Hankyu Umeda」の営業を開始した。


阪急うめだ本店の8階で営業を開始した「b8ta Osaka – Hankyu Umeda」

 ベータ・ジャパン 代表取締役社長 CEOを務める北川卓司氏や、阪急阪神百貨店 阪急うめだ本店 グリーンエイジ営業統括部 ゼネラルマネージャーを務める石田良太氏に、b8taが阪急うめだ本店に出店を決めた経緯、目指す方向性などを聞いた。

コロナ禍での船出を評価–“売らない小売”を継続

 “売らない小売”で注目を集めるb8taは、これまで国内で4つの常設店舗を展開している。b8ta Osakaは、有楽町、新宿、渋谷、越谷レイクタウンに次ぐ5店舗目で、同社として初の関西常設店舗だ。オープン時には国内外26ブランドの商品が名を連ね、そのうち15の商品が、大阪で初めてのリアル店舗での露出になったという。


大阪で初めて実店舗へ出店した商品一覧

 北川氏は、日本でb8taが初めて店舗を開いた時から運営に携わる。同社のこれまでの取り組みを振り返り、「日本での事業はコロナ禍での開始となったこともあり、『そもそもお店にお客様を呼んでいいのか』からのスタートだった。不特定多数の顧客に楽しんでもらうという目標とともに考えた場合、コロナ禍としては評価できる集客ができている」と語る。


ベータ・ジャパン 代表取締役社長 CEO 北川卓司氏

 また、これまでの出店企業について北川氏は、「満足いただけなかった出店企業は、(店舗での)売り上げを期待された企業。最初の段階から期待値のすり合わせがうまくできず、期待に添えない結果となった」と話す。店舗での販売は可能だが、売り上げを追求してしまうとb8ta店員の意識が売りに向かい、本末転倒になる懸念があるという。出店企業の中には満足してリピートする企業も多く、今の方向性は継続する方針だ。

体験型コンテンツ拡充でリピーター増を–「サステナブル」の意識も

 大阪での常設店舗運営については、「2022年に福岡、名古屋、大阪でポップアップストアを実施したが、阪急うめだ本店の9階(催事場)で実施した大阪が、一番反応が良かった。コロナ禍にもかかわらず5日間で6000人、1日あたり1200人にご来店いただいた」(北川氏)と、仮設店舗での手応えが理由と説明する。

 加えて、今回の出店は、阪急うめだ本店の「GREEN AGE(グリーンエイジ)」エリアであることも大きいという。「9階からエスカレーターで降りると目にとまる場所で、いい場所を押さえられた。b8taの課題と捉えている認知度の向上にも貢献できる」(北川氏)と語る。

 また、GREEN AGEエリアに存在する、出店企業が原則無償でイベントなどに活用できるスペース「COMMUNITY PARK(コミュニティパーク)」の存在も出店理由の1つ。「数えているわけではないが、商品の入れ替えがある月初などは、b8taに来店するリピーターが多い感覚がある。もう少し再来店の比率を増やすためにも、イベントなどの動きのある店舗が理想」(北川氏)。b8taがこれまでも実施してきた試食会をはじめとする体験型コンテンツを拡充できるという狙いがあるようだ。


赤枠がb8ta、青枠がコミュニティパーク(阪急うめだ本店8階の地図を編集部にて加工)

 さらに、GREEN AGEエリアが「サステナブル」を想起させることも大きいという。「サステナブルは今後、意識せざるをえないテーマ。海外企業から出店相談などがあった際、b8taとしてサステナブルに取り組んでいるかを求められることも増えてきた」(北川氏)。b8ta Osakaでは、空気から水を作り出すウォーターサーバー「Kara Pure」など、サステナブルが特徴の企業を意図的にそろえていく。


日本初進出となった「Kara Pure」と、Kara Water CEO & CO-FOUNDER SOODEEN CODY氏

Kara Pureでは、空気中の水分から1日に最大10リットルのアルカリイオン水を作れる。「常温」「冷たい」「温かい」を選択可能だ

「サステナブル」の中でも「自然共生」に特化–「世界的にもない」

 阪急うめだ本店が4月にオープンしたGREEN AGEは、8階のフロアのうち約4割を活用して展開する。

 コンセプトとなる「人と自然の共生」は、海外のとあるメンズコレクションで出会った“週末の公園を親子で楽しむ”という演出から着想。2018年から検討し、同社の「ファッション」「フード」「ライフスタイル」「阪神」という4つのマーケティング部門を横断する検討を経て、言語化に至ったという。

 石田氏は、「(着想元の)メンズマーケットから検討を始めたが、カテゴリー全体に影響を及ぼすテーマになると判断し、部門を横断して演出を検討した。昨今は『サステナブル』がよく話題に上がるが、あくまで思想であって、マーケットとして(の成立)は難しい。GREEN AGEではサステナブルの中でも『環境』にフォーカスするイメージで、自然共生型のライフスタイルを提案していく」と話す。


阪急阪神百貨店 阪急うめだ本店 グリーンエイジ営業統括部 ゼネラルマネージャー 石田良太氏

 具体的には、ライフスタイルという市場を、自然と触れ合う「アウトドア」と、自然を取り入れる「ウェルネス」の2つに大別した。さらに、通常は性別などのカテゴリーごとで分ける売り場を、横断した構成にしたことも特徴だ。

 「自然共生型ライフスタイルという、暮らしを楽しむために必要なものをそろえた。自分たちで商品をすべて買うようなセレクトショップならあり得る売り場構成だが、(百貨店という規模では)世界的に見ても存在しないはず。また、“100%サステナブル”まで到達していない企業や商品があるところもポイント。未来に向かって一緒に歩めるところに出店していただいている」(石田氏)

 小売り以外の価値提案も追求していく。「収益モデルは維持しつつも、ファッションやアパレルだけではテーマを伝えきれない。顧客の体験価値が高まるのなら、製品を売ることにこだわらない」(石田氏)。コミュニティパークもその仕掛けの1つで、b8taを含めたさまざまな出店企業に日ごと、時間ごとに貸し出す。月や週ごとでの活用が基本となる催事場より気軽に活用が可能だ。


さまざまな催しが開かれるコミュニティパーク

椅子にも机にもなる什器など、環境保全という思いがさまざまな観点で込められている

 b8taの出店も、小売り以外の価値提案という仕掛けの1つ。今回の阪急うめだ本店への出店は、石田氏自らが交渉して実現したという。「b8taの出店により、いい技術や製品を持ちながらも大々的なプロモーションができないようなスタートアップの出店も見込める。さまざまなパートナーと一緒になって、価値観を提供していきたい」と、期待を寄せた。

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