こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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一部の最大手の小売業者やブランドにとって、メタバースは輝きを失いつつある。
ウォルマート(Walmart)は、ロブロックス(Roblox)でのメタバース体験「ユニバースオブプレイ(Universe of Play)」を、ローンチからわずか6カ月で終了したと、消費者擁護団体のTina.orgが報じた。ウォルマートは、この体験の終了は「予定どおり」だと述べている。ウォルトディズニー(Walt Disney)は、自社のメタバース戦略を立案していた次世代のストーリーテリングおよびコンシューマエクスペリエンスのユニットを3月末に削減した。この一連のニュースは、ソーシャルメディア大手のメタ(Meta)が、同社のメタバース部門が第4四半期に43億ドル(約5760億円)の損失を生み出したと発表したのに続いて報じられたものだ。
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これらの報道により、メタバースは企業の投資に見合ったリターンをもたらすことができるものなのかという疑問が生まれた。小売業者やブランドは、主にブランドエクスペリエンスを作り上げるため、またはマーケティングの目的でメタバースを活用してきたが、その多くはいまだにコンバージョン率を報告していない。小売業者やブランドがコスト削減を試みている経済環境において、小売業者は不採算分野を切り詰めていくだろうと、専門家は語る。
デジタルコンサルティング会社CI&Tの小売戦略ディレクターであるメリッサ・ミンコウ氏は、「もっとも大きな課題のひとつは、適切な主要業績評価指標を見極めることと、多くのブランドにとって、物理的な商品に関して影響がないかどうかを見つけだすことだった」と、語る。「メタバースは、極めて大きく広大で、しかも抽象的な分野だったため、方向を見失いやすかった」。
Z世代へのリーチをねらって
メタバースは本来、人々が交流したり、自分のオンライン生活を送ったりできる3D対応のデジタル空間を指すために使用される、漠然とした用語だ。もっとも人気のあるメタバースプラットフォームとして、ロブロックス、デセントラランド(Decentraland)、サンドボックス(Sandbox)が挙げられる。
近年、ブランドは自社の仮想体験を向上させ、特にZ世代にリーチする方法としてメタバースに注目してきた。ウォルマートは9月にユニバースオブプレイを立ち上げ、主に没入型の仮想玩具のデスティネーションとして売り込んできた。ディズニーでは、メタバース戦略を担当する部門は、技術的に高度なチャネルを使って、インタラクティブなストーリーテリング手法の構築に特化してきた。
さまざまな規模の小売業者が、自社の戦略にメタバースを組み入れる方法を模索してきた。たとえば、ブルーミングデールズ(Bloomingdale)はホリデーマーケティング戦略の一環として、マルチブランドのメタバースデパートを発表し、レジストリサービスのベビーリスト(Babylist)は、買い物客が商品を見つけてレジストリに追加できる仮想ショールームを、11月に開設した。
戦略と実行のギャップ
「現在、メタバースはかなり大規模な実験でしかない」と、ベビーリストの最高成長責任者を務めるリー・アン・グラント氏は以前米モダンリテールに語った。「当社が早期にメタバースの学習をはじめたいと思ったのは、今後の数年、5年、あるいは10年のあいだに、メタバースは人々が買い物をする核の部分になると考えているためだ。それなら、今すぐ学習をはじめるべきだと思った」。
ブランドはメタバースについて楽観的だったが、消費者はブランドほど熱意を持っていなかった。最近のCI&Tレポートを執筆したミンコウ氏によると、回答者の81%がメタバースで買い物をしたことがなく、45%は将来もメタバースで買い物をしないだろうと答えていることがわかった。メタは最初、自社のメタバースサービスであるホライズンワールズ(Horizon Worlds)について、昨年末の時点で毎月のアクティブユーザー数が50万人という目標を設定したが、その後、目標を28万人に修正したことから、このプラットフォームに対する人々のエンゲージメントレベルの予測を誤っていたことが明らかになった。
顧客体験プラットフォームであるエンプリファイ(Emplifi)の最高戦略責任者を務めるカイル・ウォン氏は、「私が話した多くの小売業者は、短期的な見返りは求めず、ブランド戦略や実験的な戦略としてメタバースに取り組んでいる」と語る。長期的にはビジネスとして利益をもたらす可能性はあるにせよ、多くのブランドはそこまでに至っておらず、景気後退によって、一部のブランドは、高コストであるメタバースへの野望を再考せざるを得ないかもしれないと、同氏は述べている。「どのようなデジタル戦略でも、戦略とその実行とのあいだには多少のギャップが存在する」と、同氏は付け加えた。
収益化の難しさ
実のところ、ディズニーのメタバース計画は不明瞭なものだった。インサイダー(Insider)は昨年1月、ディズニーがテーマパーク用にメタバース技術の特許を取得したと報じた。それから約1年後、同社のメタバース戦略の開発を担当していたチームのメンバー50人はすべて解雇された。
メタバース戦略に投資した企業の一部は、Z世代の買い物客や各種のオンラインコミュニティとつながることを期待していたが、収益化は困難だろうと、ウォン氏は語る。
たとえばパックサン(Pacsun)は昨年、パックモールラッツ(Pac Mall Rats)というNFT(非代替性トークン)シリーズをリリースし、自社のメタバース戦略の一部と位置づけた。全体として、同社のNFTシリーズでの目標は、仮想世界におけるプレゼンスを拡大することにあった。
しかし、昨年のソーシングジャーナル(Sourcing Journal)の報告によると、パックサンが最初のNFTを販売してから、すべてのトークンはそれ以前のものよりも、低い価格で販売されたという。その報告によると、同社は昨年、アーティストのサラ・シャキール氏によるNFTアート作品のオークションを開催し、0.327ETH(イーアリサム)、すなわち1000ドル(約13万4000円)の開始入札額で競売しようとしたが、オークション終了までに入札はなかった。
しかし、パックサンは2月、ロブロックスで新しいメタバース体験を開始した。メタバースへの賭けから降りてはおらず、単にメタバースで新しいコンセプトをテストしているようだ。
「メタバースを受け入れる準備ができていない」
ウォルマートもまた、ユニバースオブプレイを通じて、メタバースでZ世代の消費者にリーチすることをめざした。その際に同社は、子どもたちへの「ステルスマーケティング」の可能性があるとして、業界の監視機構から厳しい目を向けられた。
一部の企業はメタバースの計画を減速させているが、将来もその戦略を復活させないわけではないと、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のテクノロジー担当プリンシパルアナリストを務めるヨーラム・ワームサー氏は語る。人々はまだ、ブランドが構想するようなメタバースを受け入れる準備ができていない。今は企業が投資を控えており、それによってメタバースが消費者とともにオーガニックに成長する機会は増えるだろう。
同氏は次のように述べている。「ブランドは、自社が販売する商品にあまり関心を抱いていないオーディエンスを生み出そうとするより、消費者に従うことになるだろう。消費者は、自分たちが関心を持つ分野に行くことになる」。
[原文:Major retail players are walking back their metaverse strategies]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Walmart