16:9と16:10。PC用ディスプレイの縦横比だが、使い勝手への影響は計り知れない要素だけに安易に考えてはならない。そして今、16型以下の比較的小ぶりなサイズのディスプレイを使うモバイル機器のディスプレイトレンドが変わりつつある。
PC各社の縦横比動向
かつてのノートPCは、そのほとんどが4:3の縦横比を持つ液晶を装備していた。いわゆるVGA解像度だ。キーボード一体型の一般的なクラムシェル型ノートなので横長方向に使う。少なくとも、MS-DOSやWindowsがOSとして稼働する当時の環境はそうだった。
2010年代になって画面比率のトレンドは16:9に移行した。これはMicrosoftの意向もあったのだろうし、地デジがスタートして家庭用TV画面の16:9化が進んだこともある。いずれにしても、そのころから多くのノートPCが16:9のモニターを装備するようになった。
そのトレンドにちょっとしたチャレンジを試みたのがMicrosoftのSurfaceだった。2014年のSurface Pro 3以降、同シリーズは今もなお3:2の液晶を装備している。この縦横比は横16で換算すると、16:10.66となる。この観点での縦長度は16:9<16:10<3:2という順となる。
2023年春現在、各社は16:9をメインストリームとしながらも、モバイルノートでは次第に16:10か3:2への移行が進んでいる。日本国内を含む主要ベンダーごとの傾向としては、
- ★16:10
- デル
- レノボ
- NECパーソナルコンピュータ
- アップル
- VAIO(16:9と16:10の両展開)
- dynabook
- FCCL
- ★3:2
- Microsoft 3:2の言い出しっぺ
- 日本HP
- ASUS(16:10と3:2の両展開)
- パナソニック(レッツノートは16:10をメインとしてきたが、現在は3:2派に宗旨替えか?)
といったところだ。
先日、発売が開始されたFCCLの最軽量ノートPC、「LIFEBOOK UH-X/H1」は、現行機から先代シリーズが装備していた13.3型16:9液晶を、14型16:10液晶に置き換えた。その代償として634gから689gへと55gの増量となった。
13.3型液晶は14型になって大きくなったが、フットプリントはほとんど同じだ。ただ、奥行き方向で12mm増えている。容積では14~15%くらいの増加だという。このあたりの経緯については以前まとめた通りだ。
- 先代UH-X:307×197×15.5mm、約634g
- 現行UH-X:308.8×209×15.8~17.3mm、約689g
手元の実機を実測すると、先代機は628g、現行機は684gで、双方ともに仕様よりも5g程度軽い。そして、実際に持ってみたときの先代機の軽さは圧倒的で、55gの重みを感じる。ただしカバンの中に他の荷物といっしょに入れてしまうともう分からないというのが55gという重量だ。そもそもカバンの中にノートPCが入っているということを忘れるのが634gであり、55gというのはその634gの9%近い。ざっくりいえば1割だ。だが、その重みをわかった上で16:10へと舵を切ったのだ。
コンテンツの多くは縦に長い
LIFEBOOK UHシリーズのディスプレイを深読みしていこう。
現行機 | 先代機 | Surface Laptop 5(参考) | |
---|---|---|---|
縦横比 | 16:10 | 16:9 | 3:2 |
サイズ | 14型 | 13.3型 | 13.5型 |
画素密度 | 162ppi | 166ppi | 201ppi |
液晶サイズ | 302×188mm | 294×166mm | 285×190mm |
液晶解像度 | 1,920×1,200ドット | 1,920×1,080ドット | 2,256×1,504ドット |
96dpi相当表示 | 169%拡大 | 173%拡大 | 201%拡大 |
最終欄の96dpi相当表示について少し説明しておこう。
Windowsが想定する既定の画素密度は96dpiだ。23型16:9のフルHD(1,920×1,080)ディスプレイがこの画素密度を持つ。そこにWindowsデスクトップを100%表示した時の大きさを基準にし、異なる画素密度、縦横比、解像度のモニターに表示したときに、同じサイズで文字などのオブジェクトが表示されるようにするために必要な拡大率だ。ディスプレイの画素密度を96で除して算出する。
13.3型や14型ディスプレイの場合、Windowsは150%を推奨値とするが、実際には175%ないと文字が小さい。ただ、クラムシェルノートPCの場合は、外付けモニターを接続したときよりも瞳から画面までの距離が短くなるので、そのぶん拡大率を抑えてもOKということなのだろう。文字等がちゃんと読める限り、拡大率が低い方が、たくさんの情報を表示することができる。
Windowsは、表示拡大/縮小率を25%刻みでしか設定できない。169%とか173%を設定できればいいのだが、カスタムスケーリングは推奨されず、最悪の場合は復旧が不可能になる可能性があるので、150%か175%のどちらかを自分の視力に応じて選ぶしかない。
PCの画面サイズというのは自由になると勘違いしてしまうが、クラムシェル型ノートPCのようなフォームファクタの場合、その画面サイズはスマホと同様に固定されていて変えられない。唯一の方法が外部ディスプレイの接続だが、誰もがいつでもどこでも好きなようにできることではないし、できたとしてもモビリティが犠牲になる。
さらに、与えられた環境としてのディスプレイ上に表示され、編集や参照の対象となるコンテンツは、どうしても縦方向のスクロールに依存する。基本は横書きのコンテンツは下方に追加されていくからだ。ページの概念が希薄になればスクロール依存度は高まる。さらに、デフォルトとして縦長ディスプレイに表示するスマホに最適化されたコンテンツも多い。
その一方でPCのディスプレイは横位置で使う、とコンテンツ提供者に決め打ちされていることが多い。本当はディスプレイを縦位置で使う方が合理的なことが多いのにだ。パソコンの表示には、いわゆるポートレートとランドスケープ表示があって、どちらにも変更できるし、それがカンタンにできるのがタブレットにもなる2-in-1 PCだ。
でも、キーボード一体型のクラムシェルノートPCでは、どうしたって横長画面に対峙することになる。そして、その横長画面をコンテンツがうまく使い切れていない。使い切れていないのに、決め打つものだから、どうにも使いにくいものになってしまう。
四角い部屋を丸く掃く
縦長もあれば、横長もあり、サイズもまちまちだという多種多様な表示環境があるのだということを前提に、コンテンツのエディトリアルデザインが工夫されていればいいのだが、そうはなっていないことが多い。
レスポンシブルデザインのサイトもまだ少ない。ただ、行政等から提供されるパブリックな情報はだんだんレスポンシブルになってきているのは救いだ。お手本となるべきは、デジタル庁のサイトだと思うが、ブラウザのウィンドウの横幅を増減して、いろいろな表示サイズをためしてみても破綻することがない。派手ではないが使いやすい。ここは評価したい。ただ、横画面をフルスクリーンで使おうとするともったいない表示になる。
そうしたコンテンツであっても、結局、調整できるのは横幅だけなので、少しでも多くの情報を一度に得るために、ディスプレイの縦方向は長いにこしたことはない。仮に横に長~いモニターがあっても、単一のウィンドウを表示しているうちは無駄なだけだ。
横長モニターを有効に使うには複数のウィンドウを横に並べるしかない。それにしたって縦方向は長いにこしたことはない。だからこその16:10だし3:2だ。特に、最近の饒舌なサイトデザインは、縦方向に余裕がないと全情報を表示しきれない。特にフォームなど対話型のページなどでは、十分な縦方向の余裕がないと選択肢のリストをたどるなどで困ることもある。
TVコンテンツ出自の16:9、ライカ判(135)フィルム出自の3:2は、どちらも美しい比率だ。その中間にある16:10はどっちつかずかもしれないが、そのどっちつかずが新旧のコンテンツに寄り添えて安心という気持ちもわかる。
液晶サイズ294×166mm(先代)と302×188mm(現行)。LIFEBOOKは縦に8mm、横に22mmを拡張するために55gを生け贄にした。それと引き換えに得られたのが画面の拡張だ。ものすごい努力がその背景に凝縮されている。
個人的には、それを大歓迎しながらも、55g軽い先代機に後ろ髪を引かれる想いもある。未練が残って、きっぱりと思い切ることができないでいる。だが、現行機の方が圧倒的に使いやすい。一体化された液晶の縦横比だけで製品を選ぶわけにはいかないだけに、当面は悩ましい日が続きそうだ。
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