オフィスビル市場に忍び寄る影:オフィスは現場の逆襲を受けることになる

アゴラ 言論プラットフォーム

私の事務所はシェアオフィスを使っており月々25万円ぐらい払っています。わずか30㎡の個室で窓はありません。精神衛生的にもよくありません。また、不動産事業者として思うのは賃借のお金は流出するお金、よってそれを止めればキャッシュフロー的には良好な改善できると考えています。そこで2-3年後を目途に自社の事務所を自社所有の海の上に作ることにしています。海の私有はカナダですら極めて稀です。現在、海上にオフィスが1棟浮かんでおり、第三者に賃貸しているのですが、それを2階建てに立て替えて2階を自社で使うという発想です。海の上にどうやって事務所を作るかといえば浮かべたバージ(はしけ)の上に事務所を乗せるのです。つまり、実質は船、よって建築に関する役所の許認可もいらないし、固定資産税もかかりません。

Yuuji/iStock

私の場合は特殊なのですが、この数年、大手企業を中心に自社ビルを売却し、リースバックし、必要なスペースだけ自社で使い、残りは第三者に貸す形に切り替えるケースが散見できます。何故か、といえばオフィスでの仕事の仕方が変わってしまったからです。

COVIDが背中を押したことは間違いありません。が、それと共にどこで仕事をしても一定の効率と効果を維持できるITインフラが進化したことは大きいでしょう。家で仕事をしているからちょっと気楽、と思ったら大間違いでノートパソコンのカメラで間接的に監視されています。会社からすれば事務所で仕事をしてもらうのに近い環境にあるとも言えます。よって会社によっては出社は週に1-2回でよい、とするケースはよく耳にするようになりました。この功罪については今日のテーマではないので触れません。

今日のテーマは商業不動産、特にオフィス市場の懸念であります。この数週間、金融市場の不安感が主題になっていますが、実を言うと私が一番恐れているのがオフィス市場の評価見直しなのです。

現在、多くのオフィスビルは企業が持つのではなく、REITのようなファンドや機関投資家が所有するケースが多くなりました。特にREITの場合、利益の9割以上を配当に回せば法人税がかからないメリットがあるため、儲けは配当で吐き出すのが主流です。その為、REIT自体が高配当となり、人気があるという背景があります。

ところが、オフィスも入居者がいればの話。特に新しいオフィスができると古い建物に入居していた企業が新しい方に移る傾向があるのでオフィスビルは時間軸と共に空室率が急激に上昇する潜在的問題点を抱えていました。そこにCOVIDとITの進化がさらに背中を押すことになります。企業ではオフィスリースの更新をしなかったり、規模縮小が相次ぎます。今まで3フロア借りていたけれど2フロアにする、といった話も私の周りからも複数聞こえてきています。

1月時点のカナダのオフィス空室率は全国平均で17%を超え、過去最悪です。アメリカも同様で2月の時点で全国平均で空室率は16.5%です。IT企業が多いサンフランシスコが19.2%、シカゴも19.2%、アトランタが20.5%、NYマンハッタンで16.0%となっています。ですが、これはあくまでも平均であり、古い建物はガラガラ、極端な話、単なるコンクリートの塊ということもあるのです。

ここで昨今の金融不安がこれに輪をかけます。REITは概ね5割を借り入れ、5割が投資家の資金で運営します。すると5割の借り入れのステータスが重要になってきます。物価上昇と金利の上昇で運営コストは大幅に上がっています。テナントの撤退も続きます。これは何を意味するか、といえば単に投資家の配当金が下がるだけではなく、借金の返済がままならなくなるREITの手持ち物件が出るということです。

商業物件を扱うREITには出口という発想がかつてなかったはずです。長く持っていればむしろ不動産の価値が上がってREITの価値が上がるぐらいだったと思います。しかし、これは間違いなのです。不動産の潜在的価値の変化と賃貸業とは切り離して考える必要があるのです。空き箱をいくら持っていてもお金は入ってこないのです。BSとPLの違いとでも言いましょうか?これは分かっていたはずですが、新しい視点かもしれません。

北米では一部のREITに大手銀行が融資条件で厳しい見直しを突き付けているという話も聞こえてきます。

冒頭、私が自社のオフィスを作る計画だと申し上げたもう一つの理由はオフィスは直接的にマネーを生まないということです。事業の収益は現場で生まれるのです。オフィスはそれを補完する役目なのにそこで働く人が一番良い場所にいて偉そうにしているのはおかしいだろう、と現場の人は内心思っているのです。だけど、その理不尽が崩せなかったのが今までの常識なのです。これが壊れる時が来たらそれは世の中に衝撃が走るでしょう、現場の逆襲だと。

もちろん、ある日突然、崩壊することはありません。が、オフィス需要に対する目線は時と共に明らかに変わっていく、その中で高層のピカピカの建物はどうやって立ち位置を変えることができるのか、私は心配性と言われるかもしれませんが、不安感を隠せないのであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月31日の記事より転載させていただきました。

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