私の最新書籍である「世界のニュースを日本人は何も知らない4 – 前代未聞の事態に揺らぐ価値観」でも紹介しましたが、実は欧州は難民の受け入れにはかなり何色を示しています。日本の左翼は欧州や北米は熱心に受け入れているということを言っています。確かに数は日本よりは多いものの、政府や有権者が熱心なわけではありません。
例えば極右政党「イタリアの同胞(Fratelli d’Italia 略称 FDI)」を率いる45歳で高卒、シングルマザー家庭出身の労働者階級のジョルジャ・メローニ党首が2022年9月にイタリア初の女性首相に就任しましたが、彼女の公約の中に
- イスラム主義暴力に反対
- 強固な国境に賛成
- 大量移民に反対
が含まれていました。
「イスラム主義暴力への反対」は日本の方にはピンとこないかもしれません。 しかしこれはイタリアでは 大変な議論になっている問題です。
欧州の他の国と同じくイタリアにはイスラム教過激派が入ってきており、 その中には移民として定住している人々もいます。
イタリアは欧州における海を渡って行ってくる経済移民や難民、不法移民の「入り口」なのです。
EUでは彼らが最初に到着した土地で受け入れられるべきという協定があるので、 目指している国は別のところでも海路で入りやすい イタリアに大量の移民がボートでやってくるのです。
ところがそういった移民は試験を受けるわけでも思想調査を受けるわけではありませんから、 中には過激派思想を持った人がいます。
そういった人々が、イタリアで過激な主張を繰り返したり、テロ行為を行ったりすることが大変な問題になっているわけです。
イタリアは地中海を渡って海から入ってくる不法移民の多くは、北アフリカ・中東・ 南アジアからやってきます。
国連によれば、2022年だけで海を渡ってイタリアにやってきた移民は6万7千人余りになり、2021年より50%も増加しています。 上位3カ国はエジプト・チュニジア・バングラデシュで、到着した移民の75%は成人の男性です。2015年の難民危機以後にイタリアに海を超えてやってきた移民はなんと75万人にもなります。
ところがEU各国が最初の入口であるイタリアに協力しているわけではなく、イタリアの財政が厳しい自治体が受け入れ費用を負担しなければなりません。急激に人が増えれば収容施設は満杯です。かといって他の国が受け入れてくれるわけでも、仕事を世話してくれるわけでもありません。
2016年に発表された研究であるシンクタンクのCPESの「Documenting the Migration Crisis in the Mediterranean Spaces of Transit, Migration Management and Migrant Agency」によれば、収容所を嫌ってホームレスになる移民も多く欧州では問題になっています。
イタリアは他の欧州諸国に比べ、イスラム教過激派によるテロが少ないとされていますが、過激派がいないわけではありません。ただ、他国との違いがあります。イタリア国籍や海外国籍の過激派を迅速に国外退去させるイタリア内務省の権限が強いことです。
さらにメロー二氏のように、地中海を越えてやってくる移民の厳しい規制の主張の背景には、犯罪組織の問題もあります。
犯罪組織はどうしても欧州に渡りたい人々から 大金を受け取って、 ボートに乗せて送り出すのです。 国際移住機関(IOM)によれば、ナイジェリアから欧州に送り出される女性の80%が女性を性的に搾取する人身売買組織の被害者です。
送り出される前に彼女達のスポンサーは犯罪組織にスポンサーフィーを払っています。 イタリアに到着すると 難民収容センターに入っても、 就職の際にスポンサーが接触してきて売春させられたり、 奴隷労働に従事しなければなりません。
また、イタリアに到着して来てから収容所周辺には様々なマフィアやギャングがいるために、 言葉の難しさや仕事を探すことの困難さもあって、そういった犯罪組織の餌食になってしまう人も多いのです。
犯罪者は移民を送り出せばだすほど儲かるという仕組みになっているので、 欧州の政府は規制を厳しくするべきだと言っているところが少なくないのです。
ですから、欧州の保守系政治家が「 『地中海を渡ってくる難民や移民』を厳しく規制するべきだ」 という言葉の背景には、 難民や移民が犯罪組織の犠牲になることも考えるべきだという意味もあるわけです。
彼らは移民全体を規制しようと言っているわけではありません。
日本で例えると、犯罪組織に莫大な手数料を払って不法入国してくる中国人不法移民やベトナム人不法移民を規制しましょう、というのと同じことなのです。
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